1-12 『風の馬』ブローズグホーヴィ
「マサムネ、ホントに私達に付いては来ないのね?」
「ああ、昔なじみが変心と聞いた以上捨ててはおけないが、オレはオレでちょっと気になることがあるしな、旅芸人の屋台も畳まないといけないし、お世話になった宿の主人とか、他のいろんな人に挨拶回りしないといけないし、別行動を取らせてもらうよ。」
「そうか、いざという時は頼りにしてるよ。オレ達の情報を聞きつけたらまた合流してくれよ。」
「あぁ、ガラハド、お前、今度こそレーネをちゃんと捉まえるんだぜ(笑)。」
「そうよ、レーネがああなったのも、もしかしたらしっかりしないあなたに原因があるかもしれないんだから(笑)!」
「う、うるさい、何でもこっちのせいにするな!!」
重い話題をとてもフランクに語る3人は、やがて、ジャムカの騎馬『風の馬』ブローズグホーヴィが繋がれている天幕に辿り着く。
ーーー 『風の馬』の幕舎にて ーーー
「感謝しろよ、ジャムカ様が特別に『王の馬』を貸してくれるんだからな。」
「は~い。」
ガラハドとジャムカの決闘のあった宮廷を抜けて、王族の生活区として軒を連ねている天幕の片隅に、ひときわ大きく立派な天幕があった。天幕の頂上にはジャムカ帝国の紋章である飛び立つ黄色の『サンダーバード』に蒼色の長弓が交差するレリーフが、茶色地のフェルトに織り込まれている。
天幕骨組みも、外から見ても明らかに通常の宮廷天幕に比べて二重も三重も頑強に作られているのが見て取れる。天幕の角には金糸を使って精工な幾何学的紋様が縫い付けられている。どうやらこれが『風の馬』ブローズグホーヴィの馬屋らしい、ちょっとした宮廷のようだ。
案内しているのは、ジャムカのいない移動宮廷の防衛全権を任されているジュチだ。
草原の国の戦士に共通して見れらるような、長身でひしまった体躯、抜目のない敏捷な豹のような身のこなし。先ほどのガラハドの剣さばきの見事さに若干の敬意を払っているものの、移動都市の防衛を任されている身だ、なにしろ厳めしい。
先の戦いでジャムカの平定したタタール部族は、ジャムカの猛攻ぶりに完全服従の姿勢を見せてはいるものの、強さだけが正義の草原の民たちだ、『ジャムカ帝国』の版図拡大に伴い、ここアムール高原に目が行き届かなくなったとなればすぐにも奪還と独立を狙ってくるはずだ。そんな弱肉強食の世界に覇を唱えるべく、ジュチという一角の猛将が守備に残されているのである。
分厚いフェルトで出来た馬屋の入り口のマントをくぐる。
その中央に、ジャムカの愛馬『風の馬』ブローズグホーヴィはその巨大で筋肉そのものの巨魁をまっすぐリーンたちに向けて対座していた。遠国の使節を謁見する王のような気高さと力強さで。無論、馬柵などといったものはない。簡単に踏みつぶしてしまえるこの馬には無意味である。その圧倒的な存在感は草原の王ジャムカの愛馬にふさわしいまさしく馬の王だ。
リーンと、ガラハドと、マサムネは、驚きの目を以て真正面から見つめる。
「な、なんだこりゃ、まるで、、、」
[まるで ラ○ウの黒王ね(笑)]
「(無視しよう)、、、と、とにかく、こんなバカでかくておっかない黒い馬、どうやって手懐けるんだよ?」(ガラハド)
「う~ん、これに乗って冒険に繰り出したい気分だな!」(マサムネ)
「こんな大幻獣を操っているなんて、草原の民達はホントに精霊界の動物の扱いが上手なのね。私が交渉してみましょう。」
そう言うと、リーンは目をつぶり静かにルーンを唱えた。ろうそくの火も揺れないほどの小さく清艷な声だ。
《ジンリンホア》精霊化
すると、しばらくして、リーンのつむじから緑色をした裸体のリーンがすっと浮上した。彼女のルーンの本体、エレメンタルだ。その姿は本人の姿同様、生命力に満ちあふれ嫋やかで、魔導書や古文書まみれになりがちな魔道士には珍しい見事なプロポーションであった。日頃の健康的な生活が想像される。
「わっ。(着痩せするタイプなのか!?)」
緑色に輝く裸体からパンチが飛び、
(ちょっと、あっち向いててよ!この姿で相対するのは幻獣に対する最大の礼なんだから!!)
ガラハドは右手で目を覆いつつ、
「な、意識あるのかよ。それでデカ馬と交渉する気だな。分かった、邪魔にならないようマサムネと一緒に引っ込んでるよ。」
「おい、お前の剣術といい、連れの女の妖術といい驚いたな。中原のものは皆こんな感じなのか?」
「オレはともかく、あいつの真似を出来る奴は『ミズガルズ』広しと言えども『土の賢者』を除いてはいないかもしれません。なにしろ『英雄戦争』の戦局を一変させる活躍を見せた『野菜士』という称号までもらっている奴ですからね。」
「他国の情勢はよくわからぬが何やら凄そうだな。オレは強いものが好きだ、友になろう!」
(ボオルチュと言い、草原の部族は皆同じこと言うな(苦笑))
リーンエレメンタルの動きを目で追うような仕草をしていた『風の馬』だったが、常人には聞き取れない精神会話『ルーン語』でリーンエレメンタルに語りかけた。
《精霊になれる人間は久しく見ていないが、お前たち何者だ?私に何のようだ?》
《『草原の王』ジャムカに紹介されて来たわ、リーン・レイヴェルスよ。これから『創生の森』の『土の賢者』に会いに行くのに、ここに横たわる大平原を越えていかなきゃならないの。力を貸してちょうだい。》
《ジャムカの頼みか、他ならぬスキールニル殿の一粒種の望み、良いだろう。私に乗って行くが良い。》
《え、スキールニルって、あの『輝く者』スキールニル?神話に出てくる『雨と太陽の神』フレイの従者にして賢者?何かあなた達に関係があるの?》
《何も知らぬようだな、よかろう、昔語りよ。オレとスキールニル殿の歴史を教えてやろう。》