1-108 草原の戦い その7 ジャムカ と ヴァン
『ウェールズ』軍とは分かれて同じオルレアン草原の西方を進むジャムカ達、『霧の魔法師団』からは『炎の魔道士長』ヴァンが付いている。
(はぁ~、ジャムカさんと言いムカリさんと言い『草原の王国』は、精悍でいい男揃いね~。主替えしようから?)
《ふふふ、嬉しそうだな。》
《はっ!い、いえ、そんなジル様を前にして主替えなど、じゃなかった、私は天に誓って『ウェールズ』へ忠誠を誓っております!!》
(え、念話しか傍受されないんじゃなかったの???こ、こんなに離れているのに、ヤバいわ。。。き、気をつけましょう。。。)
実際には、ジルブレヒトはヴァンの思考の色を感じ取っただけであったが、単細胞のヴァンの考えている事など大体予想できるようであった。
《草原の男達は、女を家畜かちょっとした財宝くらいにしか考えていないと聞く、まぁ、気をつけることだな(笑)。、、、》
珍しく、冗談を言い念話から離れるジルブレヒト、同盟軍『ハマツ』の活躍に彼も心強く感じているようであった。
「おい、ヴァンとやら。なかなかどうして魔道士というのは美しいものだな。この間もリーンとか言う可笑しな魔法を使う、しかし生命力に満ちあふれた美しい女が移動宮廷に来ていて、后にしてやろうかと思ったが、ガラハドとか言うこれもなかなかの剣士だな、そいつにしてやられたばかりよ。」
『草原の王国』の王ジャムカは『風の馬』ブローズグホーヴィの上から、炎の魔道士長に無造作な会話を投げかける。
「リ、リーンにガラハドですか?私達『ウェールズ』の仇敵ですよ!『レボルテ』の要石です!!」
「おお、そうだったのか、通りで強いはずだ。(おかしいな、そこから逃げてきたとか言っていたが。。。)それに肩に黄金の猿を載せた、生き物のような自在に操れる妙な小刀を使う油断のならぬ男もいたな。あいつはリーンやガラハドなどよりも1枚上手そうだ。中原の奴らは面白いな、みんなあんな幻のような事が出来るのか?草原にはそんな器用な奴はそうそう居ないが。」
「そ、それマサムネです!!『レボルテ』の天敵だわ!!!」
『英雄戦争』当時、密偵や暗殺と言った裏仕事をこなす隠密部隊を持たない『ウェールズ』は、『可睡の杜』を離脱し自由意志で参戦したマサムネに水面下で散々な目に合わされ、重要な戦力を失う羽目になった痛恨の記憶がある。
『英雄戦争』の裏の敗因はマサムネの暗躍を許した事と分析している『ウェールズ』の軍事学者もいるくらいである。それほどまでに『マサムネ』の悪名と実力は『ウェールズ』中に響き渡り、子供から老人まで悪鬼羅刹のように忌み嫌われているのであった。
余談ではあるが、『ウェールズ』が救いがたいのは先の戦で原因の分かっているそのような惨状を招きながら、持ち前の貴族趣味でその対策を取らずあくまで正攻法のみを貫こうとしている点である。
(奴らが草原の王国にまで出入りしているとなると、今回の攻撃に前後して対外的に何かしらの行動を起こしていたって事ね。ジル様にすぐ伝えないと。。。それに、露骨な領土拡張策、それを可能にする新たな兵器でも開発した可能性が高いわ。。。)
『レボルテ』は表向きは『ウェールズ』と平和条約を締結してはいたが、やはり7年前の遺恨は残っており国家間の交流もない。従って、リーンやガラハドの手配書は『ルーアン』には貼られておらず、今でもヴァン達『ルーアン』の民は、リーンやガラハドが『レボルテ』から追われていることを知っている者はいないのであった。
「何をそんなに考え込んでいるんだ?お前達の仇敵を倒す好機ではないか?」
「え、ええ、そうですね。ジャムカ様はどうしてこの申し出を受けられたんですか?」
「何でって?中原の土地をもらえる良い機会じゃないか?断る謂われもなかろう。」
土地=国力という単純な理屈、当たり前の事にジャムカは問われる理由も分からなかったし、あまりにも単純な考え方にヴァンは問うたことを後悔した。
「それより、どうだ、おれの后にならんか?」
「また、ジャムカ様は何人娶られれば満足されるのですか?」
歩調を合わせていたムカリが気色ばんでたしなめる。
「強い者の当然の権利じゃないか、一人も居ないお前はちょっと頭がおかしいんじゃないか?」
『草原の王国』のこういった考え方にヴァンが平行世界を感じた時、ヴァンがひいていた索敵網に反応が現れた。
「ジャムカ様、いよいよお出ましのようです。南方距離3km、魔力反応を帯びた集団がこちらへ接近してきます。」
「魔法とはつくづく便利な物よな、おお、あれか、見えるわ見えるわ。お、ちょっと様子がおかしいぞ?あれは何か金属で出来た狼か何かのような、、、。」