1-90 神獣 獏
、、、
「って言う訳なんだよ。」
神獣獏のマレーと会話すること一時間あまり、主にメルを中心に神獣への興味関心はつきない。今はマレーが盾に封印された経緯について根掘り葉掘り聞いている所であった。
「あのじいさん、ぶらぶらと光のルーン界の奥底にあるオレ達の村までやってきて、庭付き一戸建て『アースガルズ』の一級品家具を揃えた邸宅を無料ご奉仕!なんて宣伝するもんだから、つい口車に乗っちまったんだよ!」
「獏も庭付き一戸建てなんてセリフに惹かれるのね。。。。それで、盾の中の居心地はどうなの?」
イルトトの仕込んだ魔導具の設計から、光の珍獣から、それを構成する全てに対して興味津々なメルが聞く。
「あぁ、それなんだが悪くはないんだぜ!まぁ、光のルーン界の何もないスピリチュアルな田舎村に住んでいるよりは刺激があるかな?カジノもあるしよ。」
「カ、カジノ!?」
「いったい、盾の中の世界はどうなっているのかしら?森や緑もあるの?」
「あんたの興味関心は全てそれね(笑)!?それにしてもすごいわ、あんなちっぽけな盾の中に異世界を作り出せるなんて。。。私、イルっちに弟子入りしようかしら(笑)?」
「ははは、おまえは気が早いな。そうさなぁ、森、川、山、熊、鹿、狼、カジノ、整備された街、イルトトに用意された豪邸、さすがにお前達人間や亜人間はいないが、同じようにじいさんにスカウトされたのか多くの精霊達が住んでて、一世界だな、あそこは。」
イルトトに騙されたとは言うものの、ごく快適に過ごして、満更不平はなさそうな神獣である。
「イルっちはなんで、そんな大迎な仕掛けを作ったのかしら?趣味?なにか大きな事やらかそうと思ってんのかしら?籠手以外にも出入り口はあるの?エクトプラズムの鎖をどうやってこしらえてどうやって縛っているのかしら?他の精霊達はどうやって暮らしてんのかしら?あ~、興味は尽きないわ!!!」
知的好奇心を刺激されて、この場でどこまでも獏に追求を入れそうなメルである。
「おい、そろそろ先を急ごうぜ、」
一方、魔法への興味などまったくなく、レーネの行く末が心配で心配で夜も寝られないガラハドが急いて言い出す。
「何言ってんのよ?ホントは先へ急ぎたくない臆病虫のくせに、ねえバックー、持ち主のガラハドの腰抜けぶりはどうなのよ?」
「おお、そうさな、そうだ!わざわざワシが快適な盾の中の世界から、ここに出てきてやった理由を忘れていたわい!!」
「ガラハドに喝を入れるために出てきたのかしら?」
メルが茶化す。
「正しくそれじゃ!おいガラハド!お前がウダウダ世迷い言を考えていると負の思考がワシの頭の中に入ってきて夜もおちおち眠れないのじゃ!少々毒気を抜いてやるわい!」
「獏って夜寝るものなのかしらね???」
リーンの場違いな疑問もよそに、マレーは白くふさふさなその奇妙で美麗な鼻から薄い青色の霧をガラハドに向けて吐き出す。その霧はガラハドが避ける間もなく一瞬で彼を覆ったかと思うと、あっという間に雲散霧消した。そして一瞬ではあるが視認することが出来たその霧は、リーン達が傍で一瞬雰囲気を感じるだけですがすがしくなるような大気であった。
「【空天霧】じゃ、深遠なるルーンの知恵の一つを授けてやったわい。よほどのことがない限りこれでクヨクヨする事はないはずじゃ。では、ワシはスイートマイホームへ帰るとするわい、スイートマイハニーが待っておるしの。ガラハドよ、くれぐれも就寝中のワシの神経を逆なでするような戯れ言は勘弁してくれよ!!」
神獣はそう言うと、そそくさとガラハドの小さな盾の中へ取り込まれるように戻っていくのだった。
「行っちゃったわね、また、素っ頓狂な来訪者だったわ、おまけに夫婦で盾に住んでるみたいね(笑)?」
リーンは神獣に対してまっとうな評価を下した。
「で、どうなのよガラハド?少しは自信がついたわけ?」
マレーの青い霧を受けてキョトンとしているガラハドは、メルの意地悪な質問にこう返した。
「え、なんか効果あるのか、あれ?不安は全然拭えないな(笑)。」