1-84 好色イルトト 対 悪徳メル
そのほか、ノームの二人は『イスティファルド』に乗り込む予定はないのであったが、ザイラートはまず初めに目に停まった『鷹の羽衣』を、ロックは『爆炎槌』にそれぞれ目を付けた。
「皆、いろいろ選んだが、ワシらまでもらってしまっていいのかいの~?」
「ははは、ロック殿の頼みじゃし、どうせ倉庫に転がってるようなガラクタじゃからの、別にどんだけ持ってこうがどうでもよいよ。また、この間持ってきてくれたような燃えるように青光りした魔導黄金でも採掘して来てくれると有り難いの。」
「なお、ただ一つ、ワシの作った魔導具を渡すには、ちょっとした条件があるのじゃが。。。」
(き、きたっ!)
リーンはおぞけ立つ。
「ご、ごほん、その、何じゃ、、、」
イルトトは、年甲斐もなく恥じらっているようである。作者によるジュヴナイル物専用のフィルターが掛かっているのであろうか。
「『フレイヤ』と『ブリージンガ・メン』の神話よろしく、一晩エッチしたいんでしょ?」
「(ガクッ、メルの方を見て)ごぼっ、ゴホンゴホン、なんて直截な奴じゃ。そこまで望んどらん!青少年も読む小説じゃしな!!」
「じゃ、何よ?」
「うむ、その、何じゃ、、、ちょっと、パ、パイパイを見せてくれれば。。。」
「(か〇仙人かっ つーの!)いいわよ、私が相手になってやるわ!」
「えぇ~!?」
リーン他一同驚きの声を上げる。
「人間達の貞操観念はよく分からんが、ある程度フィリ殿から支度金ももらってたんじゃがのぉ。。。ドワーフならけっこうありな行動なんじゃがの、まぁ、みんな、胸だか、胸筋だか分からんのばっかじゃが。美術品のようにははいかんわい(笑)。」
「私は、感心できませんね。」
教師か聖職者のようなザイラートは単純に反対する。
「本人が良いって言ってんだからいいでしょ?私、この『神の腕』を持つおじいちゃん、とっても魅力的に映るし、私が、この小説における注目度を上げるチャンスなのよ!!」
「ふ、不潔!!」
(まぁまぁ、きっとメルには何か手があるんだよ。棚を見がてらちょっとそんな事言ってたしな、注目度を上げたいのは本当だと思うけど(笑)。)
後ろで、リーンにバレないように耳打ちするガラハド。
(それなら、まぁ。)
話がまとまるかまとまらないか、しばらくすると、そそくさと連れ立って道具倉庫から出て行くメルとイルトトである。みんなポカーンと二人が出て行くのを口を開けて眺めているのであった。
、、、しばらくして、、、
「はぁ~、これで強力アイテムもたくさんもらった事だし、もうレーネは取り戻したも同然ね!!」
何もなかったのように、意気揚々としてメルがリビングに入ってきた。そして少し遅れてイルトトはメルの後ろからおずおずと付いてくる。
「さ、イルっち。くれたアイテムの効能について説明してちょうだい。」
「はいっ!メル様!!」
なぜだか、立場は逆転するどころか、それを通り越して王女と下僕ほどに離れてしまっている。メルはイルトトに何をしたのであろうか?みんな目を白黒させて二人のやりとりに傍耳を立てるのであった。
「やれやれ、また胡乱げな小娘が何かやらかしたようじゃのう。。。」
、、、工房を離れて、、、
「ちょっとメル、あんた、ホントに人の道に外れた事してないんでしょうね!?」
「ひ、人の道って(笑)。当たり前じゃないの、そんな事したら私の読者の人気がガタ落ちよ!まぁ、読者って言っても数十人しかいないんだけど(笑)。」
「じゃ、なんでイルトトさんはあんなにしおらしくなってたのよ?」
「ちょっと、セーン呪術教えてあげただけよ。セーン呪術の師弟関係は魔道以上に絶対でしょ、さもないと伝授できないくらいに神業的な仕掛けの呪術だし(笑)。」
「セ、セーン呪術!? 鬼、鬼畜!!」
セーン呪術とは、『ミズガルズ』にも伝説として広く流布している、神話において『オーディーン』や『フレイヤ』が得意としていた異性を魅惑する事の出来る呪術で、実害こそないもののその下劣さから禁呪と言っても良いほど『ミズガルズ』では忌み嫌われていた土俗呪術であった。
そんな絵空事のような実在いるかも分からない呪術をどこで覚えてきたのか、七芒星魔道士メルはこの一風変わった怪しい誘惑術もマスターしていると見えて、種々の魔導具の見返りにイルトトに禁断の術を教えてその絶対の風習に従い彼女の配下としたのであった。その後イルトトがどんなモラルハザードを引き起こすのかは知る由もない。
そんなこんなで、神工イルトトの工房を後にして、『ミルスラン枝窟』へ歩を進めるリーン達であった。