3-9 今日はお休み
目覚ましの助けを借りずに目を覚ます。
これが休みの日の楽しみの一つだ。
今日、野口は休み。
すっかり強くなった日差しに、せかされるように
野口はベッドから出た。
昨日からつけっぱなしのテレビ。
朝のくだらない番組が流れる中
目をこすりながら野口は冷蔵庫から
アイスコーヒーを取り出す。
「あ、テレビ消そ、、、
朋美に見つかったら怒られるよ。
あいつエコエコってうるさいからなあ」
野口は電気の無駄使いをして怒る
朋美の顔を思い浮かべながらテレビを消す。
飲み干したアイスコーヒーの感触が
まだのどに残っている。
なんでもない休みの朝。
そんな朝でも、起きて一番に
朋美の顔を思い出した野口は
朋美の存在が自分の中で
大きくなっていることに気が付きはじめていた。
ピンポーン
玄関からチャイムの音が聞こえる。
現れたのはやっぱり朋美だ。
休みの朝、ここに朋美があらわれ
決まってどこかへ連れて行けとせがむ。
野口にとっていつもの変わらぬ情景。
今の野口にとってこの情景が
無くなることは考えられない。
部屋に朋美があらわれるのは
それほど野口にとって日常になっているのだ。
これが人を愛するということなんだろか。
朝のぼんやりした頭でそう野口は考える。
だか、そんなことを考えているとは
おくびにも出さない野口。
「ああ、なんだよ?
俺は眠いんだけど?」
照れ隠しなんだろうか
付きはなすような態度の野口。
「のーぐーちーさん
あーそーびーまーしょ!
ほら!外はこんないい天気ですよ。
こんな日は外に出なきゃ損ですよ。
そこの市民プールでも行きませんか?
今年初泳ぎしましょうよお」
「市民プール?そこのか?
あんなガキんちょしかいてないプールに行くのか?
なんか気が進まんなあ、、、」
「いいじゃないですか。
行きましょうよ!楽しいですよ、きっと
それに入場料激安!200円ですよ!
食べるものにも困っている野口さんには
ぴったりのバカンスじゃないですかあ?」
それを聞いて睨みつけ怒ってる野口。
そんな視線を全く無視して
腕を引っ張りお願いをしている朋美。
そんな朋美を見て野口は思う。
やっぱり毎週お決まりの
これがなくなるなんてことは考えられない。
なくなったらちょっとさびしい、、、
しぶしぶ野口は出かける準備を始める。
顔を洗い歯を磨く野口を横目に見ながら
朋美は幸せそうな笑顔を浮かべている。
「あれ?所で今日なんか約束なかったっけ?
大事な用が何かあったような、、、」
それを聞くと朋美は大きく首を振って
野口を見つめる。
「大事な用事なんてありません。
野口さんと2人で過ごす時間の方が
私にはよっぽど大事です。
外野がなんと言おうと
私には関係ありません!
私は野口さんが好き。
それだけでいいんじゃないですか?」
歯を磨きながら野口は微笑む。
「、、、それもそうだな」
「じゃあ、歯を磨いたら出発しましょ!
今日は楽しむぞお!」
部屋のカギを締め2人は出かけて行った。
「今日は面白いこと言わないんですね?
野口さん」
「2人の時はなし」
どこから見ても仲の良いカップルは
夏の日差しが照りつける街へ出かけて行った。