3-8 決戦
「君の小説、読ませてもらったよ。
なかなか筋がいいじゃないか、気に入ったよ」
そう言いながらお父さんはコーヒーのカップに手をかけた。
オフィス街にあるオープンカフェ。
心地よい風が吹き抜ける天気の良い日に
野口はお父さんとコーヒーを飲みながら
小説談義をしている。
「マジッすか?あざーっす!
いやあ自信作をほめられるとうれしいなあ」
「でもこの、必殺ぐるぐるパンチを受けた
主人公がむっはーと言うところを
むっひーにした方が
主人公の心象風景がよく表れて
読者にも伝わるんじゃないかな?」
「なるほど!さすがプロ!
参考になりまっす!」
2人が夢中で話していると
突然強い風がオープンカフェに吹きすさぶ。
吹き飛ぶコップやナプキン。
2人は風をやり過ごした後
顔をあげると
そこには一人の女性が立っていた。
その女性は周りが凍りつきそうな笑みを
浮かべ野口に近寄ってくる。
「悪魔登場よ!野口こんなところで何してんの?」
みずきだ。
みずきは野口の膝に座り
うるんだ瞳で野口に尋ねる。
「私、、、さびしかった、、、
最近全然かまってくれないから。
あなたが十字架の女の子に浮気するからよ、、、
あなたは私のことが嫌いなの?」
「いいええ!そ、そんなことはないんですけど
みずきさんは、、、旦那さんがいるし、、、」
そう言う野口をみずきはいきなり平手打ちをして
胸ぐらをつかむ。
「旦那は関係ないのよ!
私のことが好きかどうか聞いてるだけなのよ!
さあ!答えなさい!好き?嫌い?どっちなのよ」
みずきに詰め寄られだらだら汗を流しながら
困っている野口。
するとまた聞きなれた声が
昼下がりのオープンカフェに響き渡る。
「悪魔よ勇者を解き放ちなさい!
みずきさん!今度という今度は許しません!」
首にかけられた十字架を右手に握りしめ
顔を真っ赤にして、みずきを睨みつける。
そこには烈火の如く怒った朋美が立っていた。
「みずきさん!いったいいくらでお母さんに
買収されたんですか!
いくら金に目がくらんだからと言って
勇者様を誘惑するなんて!!
梅木さんやうめちゃんがそんな姿を見たら
どう思うか考えたことありますか!!」
「ママー!がんばれー!」
「みずきよお!てめえのすべてを出し切って
頑張れよお!ひっひひひ」
声のする方に思わず振り向く朋美。
そこには梅木とうめちゃんが立っている。
「朋美さんよお!俺たちは愛より金の方が大事なんだよお!
だからさくっとそこの馬鹿と別れてくんないかあ?
悪いようにはしねえからよお!ひっひひひ」
「みずきよ、、、悪いが野口と別れてくれ!
わしはウィーをネットにつなぎたいのだ!」
その言葉を聞きがくっとうなだれる朋美。
「ええ!うめちゃんまで!
この腐れ家族が、、、
わかりました
まとめて退治してくれます!
かかってきなさい、悪魔ども!」
天使と悪魔一家が対決しようとしている中
すくっと立ち上がったお父さんが中に割って入る。
「待ちたまえ。ここは一旦私に勝負を
預けてくれないか。
ここの店にも迷惑がかかるからな。
朋美、いいな」
お父さんにそう言われると朋美は
力が抜けたようにイスに座り込んだ。
しかし、悪魔は黙ってはいない。
「うるさいわね!こっちは一家の生死がかかってるのよ!
いますぐ朋美を始末して金が欲しいのよ!!」
お父さんはその言葉にうなずくとこう言った。
「しかし、このまま天使と悪魔が戦うと
死人まで出かねん。
しかるべき場所で正々堂々と
勝負をつけると言うのはどうだろうか?
勝負方法は私が考えよう、、、
決着をつける日は明日!
場所は東京ドームと言うことでどうだね?」
みずきはその言葉を聞くとにやりと笑う。
「ははは、いいわよ。
明日待ってるわよ!朋美。
八つ裂きにしてくれるわ!」
わっはははは
高笑いを浮かべながら
悪魔たちは帰っていく。
その姿を眺めながら野口はぽつっと
つぶやいた。
「観客の前で決戦か、、、
なんか、連載に行き詰ったマンガって
よく戦いでごまかしてたけどこれって、、、」