3-5 野口は駄目!
道行く人々も朋美を見て不思議そうな顔をしている。
いい歳して犬の耳をつけた
若い美女が
顔面蒼白になって
道端で泣いていたら
目を引かないはずがない。
野口はその姿を見て
やさしく朋美を慰める。
「まったく、、、こんなところで泣いちゃって
子供みたいなんだから」
朋美は野口の顔を覗き込む。
やさしい野口のまなざしに少しほっとする朋美。
「でも、、、勇者様と私は結ばれない運命だワン、、、
でも、、、でも、、、、
ペットでもいいから勇者様のそばに
一生居たいワン!!
女の子じゃなくてメス犬だけど
そばに置いてほしいワン!!」
必死に朋美が頼む姿に心を動かされ
野口もうなずく。
「わかった、、、いいよ。
だから泣かないで」
「ワーン勇者様じゃなかったご主人さまあ!!」
「朋美じゃなかったメス犬!!」
「ご主人さま!!」
「このメス犬があ!!」
道端で抱き合うご主人さまとメス犬。
種族が違っても
その愛は変わらないようだ。
だが、その姿を苦々しげに見つめる
お母さん。
一体何が気に入らないんだろう。
いらいらとした眼差しを2人に向ける。
「だめ、、だめそいつは駄目よ!
絶対に!
そう言うとお母さんは
また鞄から何かを取り出し
朋美にこう言う。
「ほれワンちゃん!
とってこーい!」
お母さんはボールを遠くに
ぶん投げる。
野口と幸せそうに抱き合っていた朋美だが
そこは悲しいメス犬の本能。
「あ!ボールだワン!
とってくるワン!」
野口の傍らから離れ
ボールを追いかける朋美。
その様子を不思議そうに見ていたみずきは
頭をひねりながらお母さんに尋ねた。
「あんた、見てたら
どうやら野口と朋美が
付き合うのに反対して、引き離そうとしてるように
見えるけど、、、」
お母さんはなおも憎悪の眼差しを野口に向け
こうつぶやいた。
「そう、、、あいつだけは駄目!
絶対だめなのよ!!
あいつを朋美から引き離さなきゃ、、、、、、」