ネトゲでシナリオのネタを探すことにしました。⑥
――草原を抜けて山岳地帯までやってきた。
途中に出現したザコは、めんどくさかったので突撃槍の突進で蹴散らした。
槍を向けて走るだけでゴブリンの全てをとかし無残に飛び散る。
アルテミスは俺の後ろをとててと着いてきた。
山岳地帯はゴブリンの他にもオークや甲殻虫など、草原よりも少し強いモンスターが出現するようになる。
俺にとってはザコに違いないが、装備がほぼ初期装備のアルテミスにはなかなか手強い相手となる。
山岳地帯に突入してからは、草原のときと同じようにアルテミスを援護する。
とりあえず肉体強化魔法でステータスアップ。
アルテミスが甲殻虫に斬りかかるが、さすがにゴブリンのように一撃というわけにはいかない。甲殻虫が反撃するとアルちゃんはごろりんと尻もちをつく。あっ、ぱんつ見えた! 残念、スパッツでした~!
そんなこといってる場合じゃなく、アルちゃんは先ほどの攻撃で瀕死状態である。やっべ!
甲殻虫が両手に生えた鎌をアルテミスに振り下ろしたが、間一髪、俺が盾で防いだ。
すかさず、広範囲傷薬を使用して、アルテミスの体力を回復させる。危なかった……
起き上がったアルちゃんは甲殻虫から距離をとってビタ止まり。俺が甲殻虫を倒したところでポップアップが表示される。
「ありがとうございます! 助かりました!」
「いえいえ、無事でよかったです!」
アルちゃんがペコリとお辞儀をする。このお姉ちゃん、死にかけたのに結構余裕ですね。
さて、どうしようか。レコードのデータも結構貯まってきたし、街に戻ってアイテムや素材を生成してもいいかもしれない。
「アルテミスさん、データの中身を生成しに一度街に戻りましょうか?」
「そうですね、結構長い時間遊んだし、引き上げましょうか」
アルテミスの同意も得たし街へ戻ることにした。
――その時。
アルテミス以外からのポップアップが表示される。
「すみません! 助けて下さい!」
何事かしらと後ろを振り向くオマリー。
すると、必死で逃げる金髪女狩人とめちゃんこでかい黒い影が見えた。
げっ、『赤目黒龍』じゃんか。
山岳地帯に稀に出現するモンスターだ。
火球を吐く遠距離攻撃や尻尾での薙ぎ払いが強力な、中級プレイヤーの登竜門的な位置付けのモンスターである。
俺一人なら難なく倒せるが、初心者のアルちゃんを守りつつ撃破するとなるとかなり厳しい。
かといって、守りながら退却するのもかなり厳しい。無理難題である。
無理難題は会社だけにしてほしい。ほんと明日仕事行きたくない!
明日の仕事にげんなりしていると、アルテミスから声をかけられる。
「オマリーさん、どうしましょ!?」
「逃げきれないと思いますので、協力して撃退しましょう!」
渋々、やむなく、しょーがなく戦闘を選択する。
こうなった元凶の女狩人に返事を送る。頭の上には「ラブ」とある。ラブたんである。
「ラブさん、協力します。私がメインで攻撃しますので、サポートお願いします!」
「ありです! よろです!」
ラブたんから返事が返ってくる。めっちゃ余裕ない返事がきた。小物感が半端ない。
ラブたんを追いかける黒龍に盾で防御しながら割って入る。
即座に広範囲傷薬で回復。
「アルテミスさん、なるべく攻撃の届かないところへ避難してください!」
チャットで指示を飛ばす。キーボードとコントローラーとポテチをめまぐるしく操作する。
俺、めちゃかっけー!
黒龍のどてっぱらに槍で一撃加え、くるりと回避運動。風穴開けたげる!
安全を確保したラブたんが遠くから弓で援護する。正確な射撃である。
「ラブさん、どうせなら赤目取りたいので、弓で頭を重点的に狙ってください」
人に迷惑かけてんだからそんくらいしろよ、おう? っと心の中で悪態つきながらチャットを送る。
「おけです! 任せてください!」
まったく、返事だけは一人前である。
黒龍の薙ぎ払いを盾で受け止め槍で一、二、三発。
槍を右わきの下からはなさぬ心構えで、やや内角をねらいえぐりこむように刺すべし!
槍の三連撃で黒龍の胸殻がえぐれる。黒龍は激痛で倒れこんだ。
倒れこんだところに運悪くアルテミスのアルちゃんがロックオン。
黒龍は起き上がるとアルテミスに向かって突進する。くっ、間に合うか俺?
コントローラーで視点をアルテミスに向ける。素早くスキル欄を表示。左手で口に添えるようにポテチをかじる。黒龍はどんどんアルテミスに近づく。っ間に合えぇぇぇ!
スキル発動『座標転移』―― 自分が目線を向けているプレイヤーと位置を変えられる騎士専用のスキルだ。
アルテミスと位置を変えたオマリーは黒龍の突進で吹っ飛ぶ。しかし、ダメージはほとんど受けない。これがアルちゃんだと即死だったから、めっちゃやばかった……
当のアルちゃんは何が起きたかわかってない模様。いきなり位置が変わったのでよくわからない方向に走っている。
「アルテミスさん。今のうちに離れてください!」
ようやく状況を理解したアルちゃんからポップアップ表示される。
「了解です。助けてくれてありがとうございます!」
ぺこりとお辞儀。本当に余裕あるなぁ。
――さて黒龍よ、俺を怒らせた罪は重い。
黒龍がラブたんの弓矢で赤目を破壊される。
怒り狂った黒龍は、俺に向かって突進してきた。
見せよう、今こそ俺の必殺技を。
相手が全力で突進してくるその顔へ十字型にクロスの交差をさせ同時にっ、刺し返す!
黒龍の眉間に槍が突き刺さり、あんぎゃ~と断末魔が鳴り響いた。
黒龍の体は全身の血が沸騰するよう煮えたぎり、熱で膨れ上がった血管が破裂し爆散した。
へっ、汚ねぇ花火だ。あっ、違った。これは綺麗な花火です。
なんとか黒龍との闘いに勝利した俺たちは、街へと帰還することにした。