三日目、シナリオの進みがやばいです⑨
「あ、先輩。会議どうだったんですか?」
自席に戻ると、ルナルナが悩みのなさそうなアホ面で聞いてきた。
「あー、なんだ。普通にヤバいな」
普通にヤバいどころかマジでヤバい。
「えぇ~……」
蛍池が俺に非難するような目を向ける。
「次の会議まであまり時間ないですよ。ちゃんと仕事してくださいよ、この穀潰しが」
「いや、やるべきことはやってたはずなんだよ? ちょっとやり方を間違えてたというかなんというか」
まあ家でネトゲしてただけではあるが。勿論、遊んでいたわけではなく、仕事のためにやっていたのである。
地理のテスト前に桃エクスプレスをやって勉強してるぜ理論である。
「先輩……社会人は結果が全てです。努力は評価に入らないんですよ」
うわーん! ルナルナがいじめる!
悪いのは俺じゃない。俺にこんな仕事を押し付けた会社、ひいては仕事しないと生きられない社会が悪い。
このまま蛍池の胸板のようなちっぱいに顔を埋めて鼻水なすりつけてやりたい。
やったが最後、市中引き回しのうえ打ち首獄門である。でもやりたい。
「どこ見てるんですか。眼球えぐって擂粉木で潰しますよ」
ちっぱいをじっと見続ける俺に、ルナルナは繁華街にぶちまけられた汚物を見るような目を向けてくる。だが、それがいい。
ルナたんの悪態と毒舌にも耐性ができてきた。むしろ惚れそうですらある。
「で、どうするんですか? ジャッククリスピン曰く、『時間を守れば身を守る』ですよ」
「伊坂幸太郎かよ。一応、今日から菜畑さんが手伝ってくれるから、なんとか間に合わせられるんじゃないかと思ってはいる」
「へー。先輩、最近可憐さんと仲良いんですね」
あのー、蛍池さんや。眉間に皺が寄り過ぎて怖いであります。
ルナルナの愛すべきチャームポイントであるはずのツインテールは、人を串刺しにできそうなほど、鋭く尖っている。
さながら伝説のグングニルの如き威容を感じさせる。
うーむ、なんか知らんが怒ってらっしゃる。
「仲良いってことはないだろ。あの人、仕事の用件以外で俺に話しかけてきたことないぞ?」
むしろ、今回のシナリオほとんど進んでいない件がばれたせいで、余計心証が悪くなった気さえする。好感度はマイナスである。ヘイトも溜まってそうだ。
「まあ、どうでもいいんですけど! 職場で仕事もせずにイチャイチャするとかはやめてもらいたいですけどね!」
あんまり聞いてもらえなかったようだ。
なんか蛍池にしては珍しく、えらい突っかかってくるな。情緒不安定なのかな?
ははーん。さてはこいつ、自分に浮いた話がないからって、知り合いの男女が楽しくしているのが気に入らないんだろうな。
自分が上手くいかないからといって、他人を妬み、嫉み怒るとはさすが俺の後輩である。本当にルナルナは可愛いなぁ。
なんだか心がどんどん穏やかになってくる。
俺はニコニコしながらルナたんに話しかける。
「なあ、蛍池や」
「……なんですか?」
「お前も中々に人間小さいな」
人間性が胸にも反映されてしまっている残念娘である。
「先輩」
「ん、どした?」
次の瞬間、本日二度目の鉄拳が俺の顔面を捉えた。