三日目、シナリオの進みがやばいです⑧
可憐ちゃんの言っていることが俺には全くわからなかった。
「だからね、今のシナリオだとヒロインとなるキャラが二人しかいないよ。ゲームにしていくのはかなり厳しいんじゃないかな?」
「で、でもですね。ほら、過去にはヒロインが三人くらいのゲームもあったわけですし」
確か……ラブ、マシマシみたいなやつだ。ラブなライブするやつじゃないやつな。ライバーも出ない。
もちろん、ラブのマシーンでもない。日本の未来もウォウ・ウォー・トゥナイトしない。時には起こすぞムーヴメントである。俺の言っていることも全くわからなかった。
「ほら、あのゲームは人数が少なかったけど、ヒロイン一人のボリュームが多かったから。江坂君のシナリオ進捗だと、来週の月曜に間に合わないんじゃないかな」
この人、痛いところをザックザク突いてくる。
確かに、ネトゲの話をそのままシナリオにしているだけだから、現状まだ二日分しか進んでない。
リアルの友達だったら、まだあだ名で呼ぶのも早いんじゃないかというレベルの付き合いしか進んでない。
今はすでに水曜日。会議まであと四日もない。オワッタ……
「そこで提案なんだけど」
視界をブラックアウトさせて、失禁でもしようかしらと膝をプルプルしていると、可憐嬢が話しかけてきた。
「提案ってなんですか?」
「私が明日の昼までに、何人かキャラを描くから、江坂君が気に入ったら使ってくれないかな?」
女神がいた。あまりの衝撃に失禁しかけた。
「でも、菜畑さんは大丈夫なんですか?」
「作業の合間に進めるから大丈夫。気分転換にもなるしね」
そういって可憐様はにっこり微笑んだ。結婚して欲しい。
「江坂君は、序盤の話を書き込むより、先にプロットを仕上げるのがいいと思うよ」
アドバイスをくれる時も可憐様は微笑んでいる。養って欲しい。
「わかりました。進め方はちょっと考えます。菜畑さん、ありがとうございます」
「ふふっ、どういたしまして。明日、もう一度時間とってもらえるかな?」
「時間っていうと、打ち合わせの時間ですか?」
「そうよ。キャラも見てもらいたいし、江坂君の進捗も確認したいしね。新キャラのプロットは明日、私も手伝わせてもらおうかなと」
「えっ、いいんですか? 俺の仕事なのに……」
「新しいキャラのイメージは私のほうがあると思うから。打ち合わせ前にキャラ設定の案出しも少し進めてくるね」
願ったり叶ったりである。こうなってくると、もう俺の仕事を全部丸投げしたい。
「すみません、色々フォローしてもらって」
「いいよ。せっかく創るんだし、良いゲームに出来るといいね」
「ですね! 明日までになるべくプロット進めてきます!」
「ふふっ、楽しみにしてるね」
これで打ち合わせは終了ということなのか、可憐さんは机に広げられた資料を片付け始めた。
俺も可憐さんにならって片付ける。
「それじゃ、明日もよろしくね」
先に片付けを終えた可憐さんはそう言って会議室を後にした。
可憐さんがいなくなった後も、なんかいい香りが部屋に漂う。残り香である。
俺はシナリオをどう進めていくか、残された匂いを嗅ぎながら頭を悩ませた。