三日目、シナリオの進みがやばいです⑦
『我らのツインテール☆アイドルナに彼氏がいるんじゃないか』疑惑が否定された昼休みから二時間ほど経過し、サラリーマンなら誰もが早退してやろうかと考えるおやつどき。
俺はモニターに向かって関数を組みこんでいると、無意識に『kaeritai』と打ち込んでた。ほんと帰りたい。
そんなダメ社員こと江坂拓斗に近づく一つの黒い影。
菜畑さんとこの可憐ちゃんである。
「江坂君、設定とシナリオ送ってくれてありがとう。それで、内容についてちょっと打ち合わせしたいんだけど」
「先輩、シナリオ出来たんですか? 私にも見せてくださいよ」
ルナルナがなんか言ってるが無視する。
「わかりました。それじゃ、空いてる会議室取りますね」
「よろしくね」
俺は社内サイトから会議室の空き状況を確認する。今の時間で空いてるのは……っと、二号室だな。
どのくらい使うかな……とりあえず一時間くらい確保しとくか。
使用者と使用時間を打ち込んで、ぽちっとな。予約完了である。
「菜畑さん、二号室取れましたので今からよろしくお願いします」
「ありがとう。用意が出来たらすぐに向かうわ」
可憐ちゃんはにっこり微笑んで自席に戻る。あの人なんかいっつも微笑んでるから、こっちもなんか丁寧な言葉選ぶようになっちゃうんだよな。
完全に狙ってるような気もしないでもないが、それでも悪い気はしない。むしろ、明日には社内ファンクラブを作るまである。隣の毒舌フォークザブッチャーとはえらい違いである。
「先輩先輩! その会議、私も参加させてくださいよ」
ブッチャーが食い下がってくる。
「お前は自分の仕事あるだろうが。会議終わるまでに俺がチェックできるようにしとけよ」
「けち! セクハラ豚! 性犯罪予備軍!」
むちゃくちゃ言ってくる。根も葉もない誹謗中傷である。ルナちゃん、俺が髪の毛触った騒動はこれ以上社内に広めないでね? ケーキで示談だよね?
俺はそそくさと会議室に向かった。
会議室は壁がガラス張りになってて社内から誰が打ち合わせしているかわかるような状態になっている。朱理さん曰く、完全に遮断された個室になっていると、打ち合わせと称して無駄話したり、サボったりする輩がでるからだそうだ。
朱理さんは本当に俺のことがわかってらっしゃる。
「時間とってくれてありがとう。もらった設定を基に、キャラのラフを何枚か描いてみたんだけど、どうかな?」
そう言って菜畑さんは数枚のイラストを机に並べる。
「もうこんなに描いてくれたんですね。それじゃちょっと見せてもらいますね」
俺は一言断ってから、イラストを手に取る。
一人は刀を持った、長く赤い髪の女戦士。
もう一人は弓を携えた、金髪ショートの女狩人。
表情も複数のパターンが用意されている。
「さすが菜畑さん。俺のイメージにかなり近いキャラになってますね」
「ふふっ、それなら良かった。詳細は設定に合わせて詰めていくとして、方向としてはこれでオッケーかな? 今のイラストとは違うパターンも用意してみるね」
「はい、ぜひお願いします!」
仕事のできるお姉さんはカッコいい。養っていただきたい。
「それと、これは設定とシナリオ読ませてもらった感想というか、質問なんだけど」
「なんでしょう、なんか不味いところとか直すべきところはドンドン指摘して下さい」
菜畑さんのアドバイスは的確そうな気がする。
「でも、ちょっと言いづらいというか……」
珍しく困った顔をする菜畑嬢。
「遠慮せず、じゃんじゃん言ってください」
「じゃあ、ちょっと今の時点で思ったことを言うね」
「はい、お願いします!」
菜畑さんは、少しためらいながらも口を開いた。
「このシナリオ、登場するヒロインが少なすぎない?」
「……え?」