シナリオ作成用の俺の嫁が可愛すぎました。⑨
「えいやぁぁ!」
アルルはゴブリンのゴブ一郎に躍りかかった。あの~、アルルさん? 別に攻撃する時にチャットで叫び声を上げなくてもいいんですよ?
ゴブ一郎の頭は左と右に裂け、間からそれはそれは綺麗な噴水が上がりました。
アルちゃんは即座に左へ転がり、近くにいたゴブ次郎へ刀を斬り上げる。腕が飛んだ。屋根まで飛んだ。屋根まで飛んで、フェードして消えた。もちろん、屋根なんてない。ただ言いたかっただけである。普通に言うと、結構高くまで飛んだ。
そんなこと言ってる間にアルちゃんは飛び込み前転から地面を蹴ってゴブ三郎との距離を詰める。次の瞬間、横薙ぎの一閃でゴブ三郎の両足が体から離れた。パーフェクトゴブリンからゴブリンへ降格である。
……なんというか、アルちゃんめっちゃ強いやん。
相手がゴブリンとはいえ、一撃離脱の戦闘はかなりサマになってる。これって、俺より上手いんじゃないの?
いやいや、俺の本職は騎士だし。盾持ってガードを固めて敵を崩すのが基本だし。あんなに転がってるとぱんつ見えまくりだし。だから全然ちっとも悔しくなんかないんだからねっ!
アルちゃんに視線を戻すと、ちょうどゴブ四朗の首が飛んだところだ。綺麗に錐揉み回転している。ゴブ五郎とゴブ六郎の首も飛んだ。五郎の首と六郎の首が入れ変わりでお互いの胴体に着地する。
しぇー! やっぱりおんなじ、六つ子だい! 新しい顔もばっちり馴染んでる。勇気百倍!
ひととおりぶった斬ったアルルたんは、くるりんとこちらへ向くと、ばいんばいんと胸を張った。
「どうだった? オマリー程じゃないけど、結構上手くできたと思うんだ」
おやおや、アルルさんたらかなりお調子に乗っちゃってるようですね。ほっほっほ。
私が目にもの見せて差し上げましょう。
俺は、踏ん反りかえるアルルへ近づく。三メートル、二メートル、一メートル……
「オマリー? どうしたの?」
アルルが訝し気に聞いてくる。
「アルル」
オマリーの右手がアルルの頭上に置かれる。
ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ。
思いっきり撫でてみた。
「ひぃや! っは? なななっ!」
なんか世紀末のザコキャラみたいだな。動いたらボンってなりそう。
「凄いよアルル! ちょっと教えただけであれだけ動けるとかマジでビビった! 絶賛を表現するためにちょっと撫でてみた。てへぺろ☆」
オマリーが舌出して自分の頭をこつんと叩く。いやはや、♂キャラでやるとマジキモイわ。
自分でやっといてすっげーイラッとしました。
「……えへへっ、良かった!」
しばらく反応がなかったものの、アルちゃんは頬を掻いて照れのポーズをとる。
可愛い。持って帰りたい。一家に一台アルルたん。
ハァハァする自分の心を抑えて、カタカタとチャットを打つ。
「今の感じで、なるべく足を止めないように立ち回っていれば大丈夫。攻撃と回避のリズムが出来ると他プレイヤーが連携も取りやすくなるから忘れないよーに」
ちょっと偉そうだったかな? 言ってみてから不安に駆られる小心者な俺。
「はいっ! オマリー、ありがとうね!」
アルルちゃんは特に気にしてない模様。本当に良かった!
「さてと、それじゃぁそろそろ落ちようかな?」
正直かなり眠い。明日起きれなさそうで怖い。
「私もそろそろ落ちるね。遅くまで付き合って本当にありがとう!」
「んや、俺も楽しかったし、全然いいよ」
「えへへ。それじゃあ、お休みなさい。またよろしくね?」
アルルが手を振る。
「うい、お疲れさま。こちらこそまた宜しくお願いします!」
俺もアルルに手を振る。
「それじゃ、バイバイ」
「お休み~」
アルルが画面から消えた。
ふぅ~やれやれ。久しぶりに長時間プレイしてしまった。
早く寝ないと。
赤レコをログアウトしてパソコンの電源を切る。
そのまま、ベッドに飛びこんで顔を枕に埋めた。
……また明日も会えたらいいな。アイツちゃんとログインしてくるかな?
普段考えもしないモヤモヤが頭から離れず、布団の中で一時間程もぞもぞする羽目になった。