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シナリオ書いたらボロボロにけなされました…どうしよう…②

「なあ、蛍池。ちょっといいか?」


 入社二年目の女子社員、蛍池瑠奈ほたるがいけるなはキーボードを叩いていた手を止め、こちらに小柄な体ごとぐるんと顔をむける。


 短めの髪を左右で結ったツインテールが頭の動きとともにプルンと揺れる。

 うちの会社は基本私服オッケーなんだが、なぜか蛍池は青色のスーツだ。

 パンツスタイルなので体ごとこちらを向けてもぱんつは見えない。


「あ、先輩! シナリオはどうだったんですか? 社長に見せたんですよね?」

 この後輩は先輩様の用件を聞かずに、逆に質問を投げかけてきた。しかもしっかり傷口に触れてきやがる。若い子ってやんなっちゃう。


「お、おう。まあなんだ…… ダメだった」

「やっぱりですか! 社長がシュレッダーかけるの見えたんでそうだと思ったんですよ~」

 カラカラと笑いながら、蛍池はそんなことを言い出す。

 そりゃあ、別段広くないオフィスだからやりとりも聞こえてるし見えてますよねぇ。

 わかってて聞いてくるとかどんだけドSなのこいつ?

 あれ? もしかして俺のこと嫌いなの?

 ちょっと傷ついちゃうんですけど……


 俺は気を取り直して、蛍池にシナリオ制作について聞いてみた。

「来週までに新しく作り直さなきゃなんだけど、なんかいいアイデアくれ! お前の恋愛談でいいから」

「……先輩、それセクハラですよ。社内の立場を利用してプライベートを聞いてくるなんて、ちょっとキモイです。私には特にネタになる恋バナなんてないですよ。あと、キモイです」

 なんで二回言ったのでしょうか? 俺のこと嫌いなのこの子? みんなのことは嫌いでも、俺のことは嫌いにならないでください!


 でも本当に、自分では良かれと思って聞いたことが民事訴訟に発展―― なんてよくあるので、みんな言動には気を付けよう! 社会って怖い!

 おんなじ発言しても、そいつがイケメンやら、面白いやつなら許されたりするんだよなぁ。

あれほんとなんだってんだよ。差別いくない。


「先輩、もしかして怒っちゃいました? いきなり無言にならないでくださいよ~」


 社会の理不尽について思案していると、無言の圧力を感じたらしい蛍池が話かけてくる。

 不安な気持ちにさせてしまったか。ここは心の広い先輩らしく振舞わなくてはなるまい。


「んや、特に怒ってはいないよ。考え事をしてて眼中になかっただけだ」

「うざい!」

 蛍池が叫んだ。

「すまなかったな…… 蛍池ならいいアイデアを持ってるかと思ったんだけど、期待した俺が悪かったんだ。ああ、勝手に俺が期待しただけで、お前が悪いわけじゃないんだぜ?」

「~~っ! シナリオなんて、先輩の体験談を書けばいいじゃないですかっ! そもそも先輩がシナリオ書いてる間、先輩が担当するはずのプログラム、私がやらなきゃならないんですからね!」


 蛍池が顔を真っ赤にして言葉を発するたびに、短く結ってるツインテールがプルプル揺れている。

 そのままふんっと鼻を鳴らすと、モニターに向き直り作業に戻ってしまった。


 あちゃあ、怒らせてしまったなぁ。コンゴキヲツケナイトネ、ハハハ。

 それにしても、自分の体験談か。ふむ…

 しばし瞑目し、自分の過去を掘り起こしてみても、恋愛の話なんかはひとつもない。


 ネトゲとポテチだけが友達だった人生を振り返ると涙がでちゃう。


 視界が霞み、がっくりうなだれる。その横で蛍池がうわぁって顔をしているが気にしない。

 そもそも俺みたいなやつにリア充の色恋沙汰やらキャッキャウフフやらがわかるかよ!


 ネトゲの中なら無双なのに。


 俺の仮想世界でいちゃいちゃしてる奴らは、いつも蹴散らしてやってるのに。

 大体、ネトゲでいちゃいちゃとか何やってんだっていう話なんだよ。そういうんじゃないだろネトゲっていうのはよ~。


 ……ん?

 ここで、俺の中にあるひとつの仮説が思い浮かぶ。


 ――ことネトゲの中では、俺は無双である。

 ――ネトゲの中にも、色恋沙汰は存在する。

 ――いつの世でも、強い男はモテる

 ――無双である俺は、ネトゲの世界ではモテる!


 俺はひとつの結論に思い立った。


『色恋沙汰がなければ、ネットで作ればいいじゃない!』

 俺は一週間後の減給を免れる秘策を手にしたのだった。


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