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クライシス~白銀の空~  作者: 古河新後
第1部 白銀者の帰還
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白銀者の帰還2

 「…………」


 時間的にも、他の作業チームは仕事を上がっている頃だ。一応はローテーションで24時間作業が行われている。しかし、半年だった今でも瓦礫の撤去さえ終わっていないのが現実だった。


 「やれやれ。今日も疲れた」


 【クランク】を“歩行”ではなく、脚部の裏にあるローラーを駆使した地走状態で移動していた。地上アステロイドは、こういったローラーによる移動が主なのだ。

 高低差のある段差などは脚部を上げて移動せざる得ないが、なるべく機体の磨耗を防ぐ意味もあって使い分ける事が好ましい。


 『本日は当り無しでしたね。良いのか悪いのかわかりませんが』

 「良いに決まってるだろ。被害者が少なくて済めばそれで良いんだよ」

 『そうでしょうか? 本当に?』

 「とりあえずそう言っとくだけだ。いちいち、うるさいぞ――」

 と、不意に機体が急停止し、モニターに頭をぶつけた。

 「うごあ!? ……勝手に止めるな!」

 『シートベルトをしてください。前方に乗用車が停止しています。確認をお願いします』


 モニターを見ると、撤去後に走る事が許された公道の真ん中で横向きに停止している一台のワゴンだった。表示されているデータを見ると、エンジンはかかっており生体反応も確認できる。


 「動いてねぇな。ったく――」


 内部から操作して、機体に片膝の態勢に持って行き、ハッチを開ける。爽やかな夜の空気が心地よい。


 「どうしました? 大丈夫ですか?」


 【クランク】のライトで照らし、車に近づきながらドライバーに話しかけた。エンジンもかかっているし、居ると判断したのだ。しかし、運転席には誰も乗っていない。確か生命反応は車から――


 「はーい。動かないでねー」


 ワゴンのドアを開けようと手をかけた時だった。背後から首筋にナイフを突き立てられていた。


 「お? ……んだよ。万札入ってねーじゃん」


 ナイフを突きつけている奴とは違う人間の声も聞こえる。そいつは開けっぱなしの【クランク】のコアに入って財布を見つけて物色していた。

 二人。声も結構若い……二十前後と言った所だろう。


 「ハズレじゃん! 次だな! あはは!」


 恐らく、この若者たちは最近問題になっている強盗の類だろう。戦乱後、治安の維持が難しい現在では、こうした犯罪が多く起こっているらしい。

 この二人は、車を止めて隠れていた。じゃあ、ワゴンの中の生体反応は――


 「ん? 車の中気になるぅ? 良いよ。もうヤるだけやっちまったからよ。飽きちゃってたんだわ」


 眼が慣れて来ると、窓越しに車の中に居る人物の姿を捉えることが出来た。

 下着姿の女。しかし、殴られた後と口にテープを張られ、手足も拘束されている。そして本人は怯えた様子で泣いていた。


 「……ったく。これだから、子供って奴は――」


 その言葉が合図であったように、待機状態の【クランク】が腕部のアームを地面に叩きつけた。


 「!?」


 搭乗者(ドライバー)が居ないにもかかわらず機体が動いた事に気を取られた強盗の二人。

 そんな中、当然の様にナイフを持っている強盗の一人に向き直る。そして、ナイフを持っている手を掴むと、その関節へ逆方向に力を入れて圧し折った。


 「ぎ――」


 腕が折れた激痛に悲鳴を上げる前に、決まっている動作の様に肘をこめかみに薙ぐように叩きつけて、意識を飛ばす。そのまま慣れたように、力の入らなくなった強盗の手からナイフを奪った。


 「ひ、ひぃぃ」


 と、強盗の相方が逃げ出した。得体の知れない現場に恐怖を感じたのだろう。


 「おい。友達置いて逃げんのか?」


 奪ったナイフを投げる。その背中に突き刺さり、ギャッ、と相方の短い悲鳴を上げて転んだ。


 「痛てぇよ!! た、助けて――」


 激痛にバランスを崩して俯せに倒れた相方は、背中に刺さった激痛の元であるナイフを抜こうと手を回している。しかし、ナイフは一人では抜く事の出来ない位置に刺さっていた。


 「そうやって痛みを覚えろ。人の命を奪えるモノは子供の玩具じゃないんだぜ?」


 相方の顔を蹴り上げる。このまま騒がれても面倒だったので、気を失わせるつもりだったのだが、


 「あ」


 そのまま仰向けに倒れるとナイフが更に深く刺さり、夜の街路に相方の悲鳴が響き渡った。





 警察への通報により、署まで同行する形となった。

 署といっても、警察施設も跡形も無く瓦礫と化している為、臨時で代わりを務めている、都心から少し離れた軍事基地の尋問室だった。

 机と椅子以外に何も無い空間であり、取調室と変わりなく使われているらしい。

 シゼンは椅子に腰を下ろして、特に抵抗も下手な発言もすることなく、軍の判断を黙って待っていた。


 「お待たせしました。すみません、手続きに手間取りまして」


 すると、扉が開いて軍服を着た基地の人間が入ってきた。好意的な様子をシゼンへ向ける。


 「今回、逮捕した強盗は最近『ウォーターフォード』で力をつけているギャングの末端であることがわかりました。車内に居た女性も、二日前から失踪届が出ていた方でして、本当に助かりました!」


 今回の件を嬉しそうに報告する彼にシゼンは違和感を覚えたが、その様子から少しでも早く帰ってほしいと察して立ち上がった。


 「もう帰っても?」

 「はい。どうぞどうぞ」


 案の定、特に拘束するつもりも無かったようなので私物を受け取って尋問室から出る。





 「まったく。苦労かけさせやがって」


 尋問室をガラス越しに観察できるモニター室から、椅子に座った白銀髪の青年を見ている男は、息を吐いた。


 燃え上がった炎の様に赤い腰ほどの長髪。立ち方一つとっても、“普通の人”には見えない、その男はポケットから煙草を取り出すと火をつける。


 「いくら強盗とは言え、アレだけの過剰防衛を立件せずに釈放なんて……ちゃんと説明してくれるんでしょうね? 大佐」


 基地の管理を任されている、カルメラ中佐は例の白銀髪の青年が捕まると同時に現れた赤髪の男に答えを求めるように尋ねる。


 「オフレコで頼むぞ。奴が表に顔を出すのは極力避けるように言われているんでね」

 「何者なんですか? あのアステロイド操縦者(ドライバー)は」


 と、大佐は出て行こうとしている白銀髪の青年を見ながら一度煙を吐く。


 「対アグレッサー戦特化部隊『セブンス』の部隊員、近接防衛担当のシゼン・オード少尉だ」

 「『セブンス』……あの“グラウンドゼロ”の最貢献部隊の? あんなに若いのが?」


 中佐は尋問室から出て行く白銀髪の青年――シゼンを驚きつつ改めて見直す。


 「戦いに若さは関係ねぇよ。“グラウンドゼロ”の以前でも、多くの“アグレッサー”と戦って来た、アステロイド戦では世界でもトップ10に入る実力を持っている。まぁ、『セブンス』は皆、世界のトップランカーだけどな」


 シゼンが出て行くのを確認すると、大佐もモニター室を後にする。その後を追う形でカルメラ中佐が続いた。


 「だが、“グラウンドゼロ”以降、『セブンス』から抜ける様な形でウォーターフォードで撤去作業を始めたんだ。本人に理由を聞いても何も話さない」

 「はぁ。ですが、『セブンス』の部隊員が居るってだけでも、都市全体に活気が付きそうな物ですけどね」

 「あまり騒ぎ立てたくないんだよ。こっちとしても、知られてるとは言えソレは機体だけにしておきたいからな」


 今や『セブンス』は、世界的英雄な存在である。各地の軍部でも、彼らには特定の階級を承認しており、スムーズに指揮や現地の介入が出来るように考慮されているのだ。

 それが、世間に顔バレでもした時には、報道や人の波に身動きもとれない程に集られる事になるだろう。そうなれば本業にも支障が出てしまう。


 「なるほど。ん? そう言えば、なんでそんなに詳しいんです?」


 カルメラ中佐は、妙に『セブンス』の内情に詳しい大佐に問う。


 「そんなの決まってるだろ。アイツが、オレの部下だからだ」

 「へ?」


 思いもしなかった衝撃発現にカルメラ中佐が呆けていると、その場へ尋問室から出口へ向かっていたシゼンが鉢合わせる。


 「セレグリッド隊長……」


 部隊(セブンス)の隊長と半年ぶりに顔を合わせたシゼンは思わずそう呟く。


 「少し痩せたか? セイバー4」

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