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クライシス~白銀の空~  作者: 古河新後
第2部 空からの狂兵
37/43

空からの狂兵9

 山を流れるように木々をしならせる衝撃波は『サーモバリックショット』によって生み出される無慈悲な余波だった。

 山岳地帯を駆け抜ける衝撃に耐えながらも、目の前で起こった事をスペラとフィロは、副隊長(カルメラ)の残した情報を受け入れていた。


 『9分57秒』


 それが何の情報なのかは姿を隠している二人は瞬時に理解する。『サーモバリックショット』の次弾発射時間であると――


『!』

『なに――』


 次に【ジェノサイド】は下半部から息を吐く様に、白い煙を放出するとゆっくりと降下を始めた。そして、『サーモバリックショット』によって、焼却されて舞い上がった灰の中へ落ちていく。

 何かがオーバーヒートしたのか、背部から蒸気のように多くの煙を一度に吹き出すと重々しく地へ降り立つ。


『GOだな』

『同意見』


 二機の【メイガスIII】は『ACF』を発動したまま、【ジェノサイド】の降下地点へ走る。

 白銀の円は未だ淡く北部山岳地区を照らし続けていた。






 フィロとスペラの予想通りに、【ジェノサイド】はオーバーヒートを起こしていた。

 『SOA』の冷却による熱量の増加を処理しきれなくなり浮力機能を維持できなくなったのである。周囲に漂う小形高空機関を積んでいる『SOA』ユニットの冷却機能はさほど高くないのだ。

 本来なら六機全てをフル稼働するよりも、半々に分けて負担を分散して使う事がベストなのだ。本来は【メイガスIII(カルメラ機)】による施設設備の一斉掃射もユニット三機で事足りる弾幕だった。

 しかし、真下からの攻撃が予想外の負荷を強いた。前方を防いでいた三機では対応が遅れ、仕方なく残った三機で迎撃したのである。


 高空機関のクールタイムは30分。本来ならこうなる前に、『サーモバリックショット』で吹き飛ばす事が前提である為、特に気にはしていなかった欠点である。

 当然、今も気にするほどの事では無い。


『ほら好機だよ? 来ないのかい? 君達は、ソレを表現する事しか出来ない生物だろう?』


 独り言を呟くヴェロニカは、まだ終わっていないと当然のように察している。

 左腕に持つ折り畳み式の武装を展開。銃身と薬室の接続が整うと同時に――


『へぇ』


 森が作る闇の中に発射光(マズルフラッシュ)が煌めき弾丸が飛来する。






 向かって来る弾丸に反応した『SOA』は完璧に全ての弾丸をレーザーで撃ち落としていく。


『そこかな?』


 【ジェノサイド】は弾丸の射線から、敵機の場所を逆算しそちらへ左腕に展開した武装を向ける。

 長い銃身と、カートリッジ式にも関わらず大きなマガジンは大口径の弾丸を装填している。『SOA』の絶対防御の恩恵を受けつつ発砲を開始した。銃声が響くと、未だ視界を遮る木々が粉々に消し飛んでいく。

 『対アステロイド用機関砲』。毎秒二発という低速射だが、長い銃身と、高い炸裂性を持つ特殊な火薬によって撃ち出される弾丸は、アステロイドの装甲を容易く貫通する威力を生み出す。

 スライドと同時に薬莢は排出され、セミオート式の連続射は1カートリッジ30発中15発まで。それ以上は弾詰まりの可能性が飛躍的に上昇する為、流石に一度は停止する。


『吹き飛んじゃったかな?』


 銃先から薄く煙の登る『対アステロイド用機関砲』は15発を撃ち一旦停止していた。狙った先は森が消え、煙と炎が不気味に【ジェノサイド】に影を作る。


『その威力で反動が殆どねぇな。マジでふざけてやがる!』


 『対アステロイド用機関砲』で狙った【メイガスIII(スペラ機)】は動いて躱していた。『ACF』によって透明となった【メイガスIII(スペラ機)】は暗闇で一層の迷彩性を保持していた。

 そして、『ACF』を発動したまま遊撃機関銃(アサルトライフル)を発砲する。


『口径が小さいね。遊撃機関銃(アサルトライフル)と言う事は機動力重視の機体かな? 隠れている君は』


 『SOA』による迎撃は一部の隙もない。全てを完璧に処理し、【ジェノサイド】は射線の先に『対アステロイド用機関砲』を向ける。


『と、少し射線を変えようか』


 射線から推測した位置よりも少し横に射線をずらして発砲。音を立てて林が消し飛んでいく。と――


『やべ――』


 ショートする音を立てて、走り逃げて行く【メイガスIII(スペラ機)】の姿をモニターとレーダーを含める全ての感知機関で捉えた。肩部を撃ち抜かれ、腕部が爆発した様に撥ね飛んだ。

 その衝撃によって『ACF』が強制的に解除されたのである。


『一発かよ』


 直接叩きつけられた様な衝撃は機体全体に響き、コアでは腕部消失と『ACF』の機能維持が困難である旨を警告していた。


『よく真似で来てるね。でも【リベリオン】には遠く及ばない』


 こちらが感知できない程に高性能な迷彩システムには驚いたが、姿を消す分、防弾性能は低い。低くなってしまうのだ。【リベリオン】以外は――


『一機だけか……まぁいい』


 捉える事さえできれば後は的でしかない。

 弾切れになったマガジンを廃棄。新しいマガジンを手動で装填する。そして、移動しているがレーダーに捉え続けている【メイガスIII(スペラ機)】へ、障害物ごと気飛ばす為に『対アステロイド用機関砲』を向け――


『GO』


 背後にもう一機――【メイガスIII(フィロ機)】の反応が現れた。






 『ACF』の欠点。それは、特殊な装甲を使っている為、防御性能が極端に低いと言う事と、近接まで近づけば熱量によって捉えられてしまうと言う事だった。

 だが、気づかれる距離まで接近する事が出来るのなら、フィロの得意とする必勝の間合で相対する事が出来る。

 【メイガスIII(フィロ機)】は後腰に装着したショートダガーを逆手に持ち、身を低く滑る様にその背面へ接近する。


『驚いたよ。二機いたなんてね』


 そうは言っているが、“ヴェロニカ”の口調に焦りの様子は無い。

 ショートダガーが【ジェノサイド】の背部――高空機関らしき部位を狙って突き立てられた。


『――――!!?』


 しかし、その攻撃は咄嗟に振り向いた【ジェノサイド】の『対アステロイド用機関砲』の銃身部位で受け止められて停止する。驚く事にショートダガーの切先は、銃身には僅かにも突き刺さっていなかった。


『この――』


 残ったもう腕部のショートダガーを【ジェノサイド】の頭部を狙って振るう。ダガーをガードする程の距離まで肉薄している。頭部は十分に狙える距離だった。


『その接近の動きは知ってるよ。そして、お前達の様なゴミが使っていい技術じゃない』


 次の瞬間、【メイガスIII(フィロ機)】は周囲に浮く『SOA』から放たれたレーザー(・・・・・・・・)によって、蜂の巣にされた。


『それは、母さんの敬愛する、セレグリッド・カーターの技術だ。ゴミごときが、覚えた程度で使える気になったと思うな――』



 フィロ! もう少し耐えろ! 後数秒でいい――

 スペラはコアの警告を抑え機体を走らせる。あの周囲に浮く円柱のユニットが迎撃だけでは無く攻撃も出来る事は予想外だった。しかし、それも含めて【ジェノサイド】の武器は近接での相性は極端に悪い。

 円柱ユニットの攻撃性能はさほど高く、機関砲も長物だからだ。内側に入り、二体一ならば――


『射程距離――だ!』


 片腕を吹き飛ばされた為、リロードは出来ない。このカートリッジが最後の射撃だ。弾幕で視界を覆いつつ、機関砲の内側まで近づく。

 すると【ジェノサイド】は、『対アステロイド用機関砲』を肩に担ぐように銃口をこちらに肩口から覗かせた。


『!? チィ!!』


 スペラは進行方向を咄嗟に変える。その時、バランスを崩した様に盛大に転倒した。


『な!?』


 倒れ込む衝撃がコアを襲う。倒れて停止したところでスペラは何が起こったのか確認する。

 脚部に支障!? 関節部が……溶解だと!?

 それほどに磨耗したわけではない。要因は……あの浮いている円柱にユニットからのレーザー攻撃――


『目障りだ』


 半身を向けた【ジェノサイド】の『対アステロイド用機関砲』は【メイガスIII(スペラ機)】へ大口径の弾丸を吐き出した。

 落した人形の様に、【メイガスIII(スペラ機)】はバラバラに吹き飛ぶ。






 フィロは【メイガスIII(スペラ機)】に発砲されている『対アステロイド用機関砲』の銃声で気を取り戻した。


「……くっ――」


 半停止したコアの中でまだ生きていると認識する。レーザーの穿った箇所は無数。その内の一つはコアを掠め、それに伴った爆発で負傷し少しの間気を失っていたようだ。


「痛っ……――」


 そして、額を流れる血と、感覚が薄れている片腕を見る。腕には破片が深く刺さり痛々しく出血していた。

 『ACF』は機能停止。だが、機体の損傷は軽微で武器もまだある。


「…………ほんと……これだから……ね」


 服の一部を破って、操縦桿から離れないように手を巻きつける。足は動く。なら、まだ立ち上がれるわね?


「【メイガスIII】……行くわよ。任務を……続けるわ」


 グライスト小隊の任務は敵指揮官機の撃破。それはただ一人になった今でも変わらない。

 【メイガスIII(フィロ機)】は正面から【ジェノサイド】へ走る。迂回する余力も無ければ、『ACF』が停止している以上、一度引く事も無意味だからだ。


『厄介だよ。この世界はそんな意志を持つ君達で溢れている。だが――――』


 【ジェノサイド】は『対アステロイド用機関砲』を向けると一射。火薬が炸裂し長い銃身のライフリングを通って音速の破壊を吐き出す。

 フィロは極限の中で、その動きを洗練させる。脚を伸ばし、『対アステロイド用機関砲』の内側へ。そして、銃身を蹴ると銃口を僅かに逸らした。


『くっ……』


 それでも、弾丸は【メイガスIII(フィロ機)】の上半身の右側を抉る様に破壊する。頭部に損傷し、モニターが半分消失した。だが――


『命の距離に――』


 腰部……残った武器――『ハイブリットソード』のロックを解除。浮いている円柱のユニットは至近距離過ぎて攻撃に移れない。


『入ったわよ! アグレッサー!!』


 刃渡り7メートルの直刀(ハイブリットソード)の狙う先は、【ジェノサイド】のコア。神速で突き出された一閃は――


『―――――』


 【ジェノサイド】のコアを貫き、その背後から切先が突き出る。






 一閃は確かな手ごたえをフィロへ伝え、コアを貫いたと確信していた。

 アステロイド全てにおける共通の弱点。それは、搭乗者(ドライバー)が居るコアを破壊する事だ。基本にして原点となる一閃は、多くの犠牲の下、フィロが手繰り寄せたグライスト小隊の一刺し。

 【ジェノサイド】は漏電のように表層に電流が流れ出ている。そして、その(センサー)から光が消えた。


「ハッ……ハッ……」


 フィロはその様を目の前で確認していた。整っていた呼吸が荒くなったのは、そうなるだけの余裕が出来たからだ。

 コアを貫いた。光も消え、間違いなく機能停止を確認――


『そう言うのは君達の常識。これは、僕たちの常識だ』


 途端、【ジェノサイド】はその眼に光を取り戻すと、直刀を握っている【メイガスIII(フィロ機)】の腕部を掴んだ。


「!? な――」


 『対アステロイド用機関砲』が旋回すると、打撃武器となって【メイガスIII(フィロ機)】の胴部に直撃。大きく機体を殴り飛ばす威力はアステロイドの持つ腕部出力を遥かに凌駕している。


「くぅ!!?」


 その衝撃で、【メイガスIII(フィロ機)】は態勢を崩し後ろへよろめく。そこへ、『対アステロイド用機関砲』がゼロ距離で突き立てられた。

 【ジェノサイド】は、そのコアに直刀(ハイブリットソード)が突き立ったまま行動している。その事実だけにフィロは驚愕し、そして――


『そう、それでいいんだよ? 解からなくていいんだよ? 君達は“例外”じゃない。僕たちの敵となる“例外”は『セブンス』以外に有り得ない』


 『対アステロイド用機関砲』の引き金が引かれる。


「――――出てきちゃダメよ。リエス――」


 フィロの脳裏へ最後によぎったのは妹のように思っていた後輩の事だった。そして、破壊されるコアと共にその生涯を終えた。


 北部山岳地区、上空に展開していた『スカイホール』が消える。






 『スカイホール』が消えると同時に、カナンは【ジェノサイド】の姿を捉えた。レーダーと、衛星による現地映像をモニターに表示し、今まで見た事の無い機体を検索にかける。


「イヴ。あの機体の骨格から、最も近い機体を検索」

了解(イエス・マスター)


 その言葉を受けて瞬時に、一機の機体が表示される。


『全身の骨格は【ヴルム】に近いのですが、脚部に機動ローラーが存在しません』


 映像から検出した誤差10%ほどの【ジェノサイド】の3D映像が目の前に現れる。


「歩行を想定している様だな。ブラックから連絡は?」

『ありません。現在は移動しているようですが』

「仕方ない。武装を映せ」

了解(イエス・マスター)


 【ヴルム】は主戦場となる地上戦を想定された機体であり、装甲や火器の重量の関係から鈍重になりやすい。その為、脚部による歩行は高低差を乗り越える為の要素なのだ。本来は脚部に装備された機動ローラーによる滑る様な移動が主流である。


『武装は『|燃料気化爆弾専用射出銃器サーモバリックショット』を装備』

「! やはりか!」


 ヴェロニカ……奴は人では無い。人のような思考と発言を持つAIなのだ。その為、コアへの攻撃は即死にはならない。


『『SOA』『対アステロイド用機関砲』を完備』


 イヴは【ジェノサイド】の周囲に浮遊する円柱のユニットも眼前に3Dで映し出す。『SOA』やはりと言うべきか……


「交戦状況は? 現地のグライスト小隊はどうなった?」


 『サーモバリックショット』は二度使われた。AI故に、正確無慈悲な射撃能力を持つヴェロニカが外すとは考え辛い。


『山岳基地の武装展開を履歴にて確認。グライスト小隊は交戦したようですが【メイガスIII】の信号は一つしかありません』


 ほぼ全滅か……

 指揮官機が『SOA』と『サーモバリックショット』を同時携帯している事は想定していた。予想外だったのは、ヴェロニカが乗っていると言う事。奴はアグレッサーの機体から機体へ移動する厄介なAIある。

 それが特機に乗って離れた場所に現れたと言う事は、機体を移り変わる事を想定していないと言う事か……


「本気と言う事か。それが、お前の機体かどうかは別としてな」


 これはチャンスでもある。機体を乗り換え、実質倒す事が不可能なヴェロニカをここで倒す事が出来れば、この戦場での天秤は大きくこちら側に傾く。


「イヴ。残っているグライスト小隊の【メイガスIII】に通信を繋げ」

了解(イエス・マスター)






 皆死んだ……隊長も……カルメラさんも……スペラさんも……フィロ先輩も……

 半日前は皆で一緒に居たのに……本当なら、わたしも一緒に戦うべきだった。そうすれば何か変わったかもしれない。

 皆死ななくてよかったのかもしれない。でも……


「……うぅ……」


 怖い……怖い……震えが止まらない。

 嘘なんだ。隊長が死んだと知った時、震えたのは次は自分が死ぬかもしれないと思ったからだ。皆は戦う事を選んだのに……わたしは最初から命を懸けて戦う事なんて出来なかったんだ……

 戦う事の意味を……わたしは何も理解していなかった……死ぬ覚悟なんて何も出来ていなかった……


「ごめん……なさい……ごめんなさい……」


 一つずつ消えて行く他の【メイガスIII】の反応だけがコアに知らせて来る。リエスは両手で耳を塞いで目を閉じると搭乗席でうずくまる様に丸まっていた。

 その時、通信が入ってくる。グライスト小隊で使われる通信回線ではなく、今回の防衛戦で使われる緊急時の通信回線だった。それはこちらから返答しなくても一方的に通話が出来るように設定されている。


『グライスト小隊。残っている機体の搭乗者(ドライバー)に告げる。至急返答をせよ』

「…………」


 この通信を聞いているのはリエスだけだった。もう彼女しか残っていないのだから。

 リエスは震える指でこちらからも回線を繋ぐ。


「グライスト小隊……リエスです」


 今更『グライスト小隊』と名乗って良いのかわからなかった。それはふと口から出た癖の様なものだった。


『リエス、他の者は? 生存者は君だけか?』


 通信先はこの戦場の総指揮をとっているカナン司令からである。


「はい……」


 そう……わたしだけだ。みんな……戦って死んだのにわたしは震えて動く事も出来なかった。


『君はまだ戦えるか?』

「わたし……わたしは……もう何も……出来ません」


 瞳から涙が溢れる。情けない事は分かっている。こんなところに居るべきではないと、兵士として失格だと……


『……君の様な兵士は珍しくない』

「え?」


 リエスは思わず顔を上げた。


『誰だってそうだ。戦場に出て死ぬのが怖くない人間なんていない。人は命を気にかけることが出来なくなった時点で“人”ではなくなる』

「“人”……じゃなくなるんですか……?」

『我々は“人”として敵と対峙しなければならない。それが兵士としての責務だ』

「……でもわたしは……わたしは! 見殺しにしました……皆を……」

『まだ、『グライスト小隊』は死んではいない(・・・・・・・)

「……わたしが……いるからでしょうか?」

『そう。君がいるからだ』

「でも……わたしは……グライスト小隊を名乗る資格は……あ、ありません!」


 戦えなかった。肩を並べる事ができなかった。わたしは死地に向かう……みんなの背しか見る事が出来なかった……


『だが、君は『グライスト小隊』と名乗った。まだ、戦う意思があるのではないか?』

「わたしは……勘違いしていただけです……本来なら――」


 こんな場所にいるべきではなかった。


『……語るのはいつだって生きている者だけだ。だが……死者を生かす事も生者にしか出来ない事なのだ』

「死者を……生かす?」

『死者は何も語れない。語れないからこそ、生きている者が証明するしかない。彼らは死んだが君に生きていた証を託した』

「――――」

『君は、彼らの意志にどう応える?』


 リエスは震える手を見る。

 まだ震えていた。考え方を変えたとしても死の恐怖は簡単には消えない。けど――


 “グライスト小隊によるアステロイド戦闘の心得”ってのがあってな!


 入隊した時に最も覚えている言葉を思い出す。


「……わたしは――」


 涙は止まっていた。目元に溜まった雫を指で払うと、操縦桿を握る手は何よりも熱く、そして――


「【メイガスIII】……弱いわたしに……力を貸して」


 いつの間にか震えは止まり、涙を払ったばかりの赤い瞳には強い皆の意志を背中に受けて“戦士の眼”を宿す――

 そして……少女は“兵士”から“戦士”となる――

 命を燃やし、駆ける機体は最凶の敵に人の意志を見せつける。死者は意味では無かったと、彼女は戦場へ身を投じ、そして――

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