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クライシス~白銀の空~  作者: 古河新後
第2部 空からの狂兵
31/43

空からの狂兵3

 スタッグリフォード。

 多くの企業が参列するオフィス街。高級住宅街に、気品ある高価な店舗が一並ぶセレブ街。公共の機関が集中している中心街。数多くの市民がまばらに暮らし、一般的な生活環境が揃っている市街地。


 それらを利用する総人口100万人の市民たちは、三日前の『サンクトゥス』からの通達によって、スタッグリフォードを離れざる得ない状況だった。

 約100万人の大移動。周辺諸国は都市から離れる市民たちへ支援を行い、都市から10キロ離れた地点へ仮説住宅を設置。だが、三日で100万人の人間をカバーする事は不可能であり、現在は難民キャンプの様な地域が出来上がっていた。






 スタッグリフォード北部山岳地区。

 『サンクトゥス』の招集によって三日以内に駆けつけられる各方面、国々の部隊が勢ぞろいしていた。そして、敵勢勢力(アグレッサー)の出現予測時間が半日に迫っている事もあり、視界には各国の様々な主力アステロイドが、点々と待機していた。


 その様は、まるでアステロイドの展覧会である。


 各国、独特のカスタムがされているため、ある意味、自国の機密を見せびらかしているようなモノだった。様々な改良(カスタム)が施された【ヴルム】タイプや、【メイガスIII】の様に、基礎骨格のみが基準で、外見が全く違う機体も少なくない。


 「おー! すっごーい!!」


 自機の【メイガスIII】を運送用のトレーラーから降ろしたリエスは、コアハッチから機体の肩部へ乗り移ると、山岳へ待機している様々な部隊のアステロイドを眺める。


 『……リエス。あんまり、ジロジロ見てやるなよ』


 遊撃機関銃(アサルトライフル)を背に装着したスペラの【メイガスIII】が、リエスの【メイガスIII】の隣に片膝を着いて待機状態へ移行する。


 「何でですか?」


 リエスはコアから聞こえたスペラからの通信を聴いて応えた。


 『この場に居る部隊の大半は、スタッグリフォードを“救う”事が第一優先じゃないからだ』

 「え?」

 『ったく。もうちょっと、考えなさいよ』


 その近くへ、フィロの近接接近用の【メイガスIII】がトレーラーから降りる。近接用のダガーを後ろ腰に二本。刃渡り7メートルの直刀(ハイブリットソード)を片腰に装備していた。


 『この戦いは、『セブンス』へ自国の戦力と人材を見せつける場でもある。何せ、この戦いの指揮を執るのは――』


 近接銃器を装備したのは中距離戦仕様の【メイガスIII】。ソレに乗るカルメラは、この場所が、グライスト小隊の一時待機場所である事を一時仮設本部へ通信を送っていた。


 『対アグレッサー戦特化部隊『セブンス』の指揮官。カナン・ファラフリだからな』


 最後にトレーラーから降りたのは、ハイブリットソードを両腰に一本ずつ携え、脚部に跳躍補佐の機構を着けたグライストの【メイガスIII】だった。






 参加国11ヶ国。総アステロイド107機。歩兵部隊60小隊。広大なスタッグリフォードをカバーするには、一個師団程度の戦力ではあまりにも不足だった。


 「この倍は欲しかったが……相当な犠牲者が出るな」


 スタッグリフォード防衛同盟軍、総指揮官カナン・ファラフリは集まりつつある各国からの戦力を見直しつつ、戦いの流れを組み立てていた。


 場所はスタッグリフォードの中央市街地。そこに造られた仮設本部に居るのは今回の作戦で臨時に組み立てられた一個小隊の拠点である。現在、市民は都市を自由に避難している。時間がなかった事もあるが、避難ルートを制限できなかった事で、広範囲にわたってアステロイドを配置しなければならない。


 スタッグリフォードに“スカイホール”が現れる事は確定しているが、どの地点に現れるかが不明なのだ。そこまでの精度は、未だ観測不可能であるのが現状である。

 故に、出来るだけ警戒の目を外す意味で、避難ルートを制限した方がアステロイドの警戒地区を全域に出す必要は無かったのだが……3日で100万の市民をより多く避難させるには、自由なルートで都市を避難させるしか方法が無かった。


 民間人の命を優先するなら仕方のない事柄と言えるが……それでも時間は残り半日だと言うのに全体の7割しか避難は完了していない。


 「イヴ、避難完了した地区への警備意識はAでいい。半日後の避難状況で、完了しない他の地区へ部隊を移動」

 『了解(イエス・マスター)


 このままでは、最悪避難する市民を護りながらアグレッサーと交戦しなければならなくなるだろう。

 ただでさえ、戦力的にも余裕が無い上に別の要素を抱えるのは得策ではない。なるべく避難を急がせているが、スタッグリフォードの駐屯軍も他国からの部隊へ、周辺の地形や地図との相違箇所の説明に出向いており、避難まで人手が回らない事が現状だ。


 「都市各所に設置した、臨時補給拠点の状況は?」

 『現在、80%の完成度です。兵站の確保も全ての拠点で完了しています』


 カナンは、目の前の避難状況からこれからの大隊の取る最も有効な行動を判断する。


 「北区からの避難が後2時間で完了するか。あちらには山岳地域に遊撃専門の部隊を配置する」


 カナンの目の前に滑り出るように、現在スタッグリフォードに存在する多くの部隊の情報が電子画面で表示される。


 「5人以下、戦線離脱性能、連携性、状況の適性機体性能の三つに絞って検索」

 『了解(イエス・マスター)…………該当部隊1件』


 カナンの目の前に映し出されたのは、38分前にスタッグリフォードに到着した『オールブルー』からの参戦部隊が映し出された。






 対アグレッサー戦特化部隊『セブンス』。

 今や、世界でもトップに立つ部隊と言っても過言ではないこの部隊は、若干特殊な部隊編成と役職が設けられている。

 『部隊長』『副部隊長』『近接防衛』『指揮官』『機動戦闘』『無塵戦闘』の六つの役職であった。


 『部隊長』……癖の強い部隊員のまとめ役にして、最前線で情報確保を行う事が主な立ち回りであり、予測不明のアグレッサーに対して、正面から真っ先に相対する事が現在の隊長の意向である。無論、真っ先に戦闘行為を行うのが当たり前だと告げている。


 『副部隊長』……部隊長があえて敵に身を晒し、情報を得ながら戦う事に集中できるように戦場の維持を引き受ける役職である。


 『近接防衛』……部隊長と副隊長を護る役割。退却する際には殿を務める事も少なくないため、この役職の腕前で部隊全体の生存率が大きく関係してくる。


 『指揮官』……常に戦場意地を務める部隊長と副部隊長とは別に、戦場全体を把握し、指揮を執る役職である。指揮官は常に部隊に対して効率の良い立ち回りを考える事もあり、合理的で事務的な考えを持つ者が務めている。


 『機動戦闘』……本来の部隊では不必要とされている役職だが、アグレッサーと戦う際には必ず必要となる役職であり、主に単機での高機動戦闘を軸に置いた立ち回りが要求される。


 『無塵戦闘』……他の役職が戦闘不能になった際に、ソレを補う役職。SSランクの者が引き受けていると言われている。






 「へぇー、『セブンス』の部隊状況って公開されてるんですねぇ」


 リエスは、公開されている『セブンス』の部隊構成をフィロと見ていた。これから、この中で“指揮官”の指揮下に入るのである。どんな部隊なのかを知っておくのも必要だと副隊長(カルメラ)より言われていた。


 「普通なら、考えられない部隊編成ね」

 「何でですか?」

 「分からないのか?」


 スペラは呆れて、思わずリエスを見る。フィロはため息をつきながら補足した。


 「射撃特化専門の役職が無いのよ」


 基本的にアステロイド戦と言うモノは、距離を置いた射撃戦だ。物陰に隠れて、敵と撃ち合うのが当たり前の戦闘模様である。


 例外として【メイガスIII】のように特殊な兵装を持つ機体なら、近接用にカスタムしていてもおかしくないが、正面から“アグレッサー”と対峙する関係上、隠れながら奇襲は不可能に近い。


 未知の能力を持つ(アグレッサー)に対して、射撃寄りの兵装では選択の幅が極端に制限されてしまうのだろう。だが、何が飛び出すか分からない敵に対して、接近するのは自殺行為だ。

 いくら『サンクトゥス』が世界で最も最新の機体を用意してくれるとは言え、所詮は人類の枠に入った技術。全く予測のつかない性能を携えて現れる敵に対して、『セブンス』は常に正面から相対して撃破してきたのだろう。

 部隊員は戦場適性がS以上であるとの事だが、正直言って正気とは思えない。


 「何が出て来るか分からないのに、正面から、しかも近接で相対するのよ? 頼まれても『セブンス』だけには入りたくないわね」


 常に地雷原を歩いているようなモノだと、フィロは呟く。今までは運よく踏まなかったが、いつ、自分たちが相対できない敵が出て来るのか不明だからである。


 「射撃だけでは、効かなかった時のリカバリーが出来ない。故に、大半が接近戦闘を視野に置いている。普通の部隊には真似できないだろうな」


 まともでは無い。この部隊編成を行った人間は、部隊員の事を何も考えていないのだろうか? だが、未だに『セブンス』の部隊員は欠けた事が無く、今も初期編成時から全ての部隊員が生き残っているらしい。


 「一概に、部隊全員の実力と運がいいのか。それとも、指揮官が優秀なのか」


 今回のスタッグリフォードの作戦の指揮を取るのは『セブンス』の頭脳とも言える“指揮官”――カナン・ファラフリ。

 この戦いで『セブンス』の本当の実力が証明されると言えるだろう。

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