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クライシス~白銀の空~  作者: 古河新後
第1部 白銀者の帰還
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白銀者の帰還17

 『それが、貴公の答えか――』

 『ああ』


 【フリーク】は、シゼンの返答を聞いて少しだけ考えるように沈黙する。そして、決断したように数秒で動き出した。


 『残念だ……実に残念だよ!』


 火が灯る様に右腕がオレンジ色に発光を始め、【クライシス】を貫こうと動作に入った――


 『――――!?』


 刹那、貫く直前に後ろからの攻撃に反応して身を捻る様に移動する。その動作で【クライシス】から必然に距離を取る形となった。


 『――――』


 イィィィィ。何かの駆動音が響きながら【クライシス】のコアには“ACT1”と表示され、周囲の瓦礫が浮き上がり【フリーク】へ攻撃する様に飛来する。

 そして、【フリーク】が警戒し躱したソレは、回転しながら【クライシス】に飛んで行く。

 ソレは、この場に残された人々の意志が繋いだ軌跡だった。


 無駄な事など何も無い。全ては必然と繋がっていた。

 この戦いで、蹂躙され、無抵抗に近い形で殺された者達。

 勝てないと悟りつつも、己の身を賭けて敵を倒そうとした者。

 彼らの抵抗(たたかい)は無駄ではなかった。今、この瞬間――彼の手に“ソレ”が戻り、敵と相対する未来に繋がっている――


 【クライシス】の残った右腕に引きつけられるように、飛来する“ソレ”の柄が逆手に握られる。


 この戦場(ばしょ)で……命を賭けて戦った戦士(なかま)達がいた――


 【クライシス】は片膝の態勢で、防御するように逆手で斜めに構えて【フリーク】へ対峙する。

 “ソレ”は彼の為に造られた武器。複数の鉱物を組み合わせて製造された事で、特殊な電磁作用が働き、微細に鳴動することで地上のあらゆる物質を両断する(ぶき)


 対アグレッサー戦特化部隊『セブンス』の部隊員、シゼン・オードの専用武器――


 全長10メートルの反った刀身を持つ、対アグレッサー戦用装甲両断刀――『鳴月』と呼ばれている武器であった。


 『お前が、オレ達を滅ぼすと言うなら、こっちも全力で相対させてもらうぜ』






 『――――』


 【フリーク】は取っていた距離を更に飛び離れて、【クライシス】を警戒していた。今の【クライシス】を見て、片腕片脚の機体に近接武器が一つ増えただけで大した害は無い、と思うのが一般的な会見だろう。

 しかし、【フリーク】は搭乗者(ドライバー)がシゼン・オードである事を知っていた。

 だから、距離を取ったのだが【クライシス】である以上、全ての『ACT機関』が解放されれば、物理的な距離など無意味となる。


 『だからこそ、ここで断つ。全てを――』


 【フリーク】は黒腕の発光を停止し、指部は地面に突き立てる。何かを流し込む様に光が走ると、周囲に黒く細長い棒が地面を突き破る様に突き出して来た。

 その内の一つを黒腕で掴むと引き抜く。それは先端が円錐形に尖った黒い槍だった。黒槍は黒腕に掴まれた瞬間にオレンジ色に発光。そのまま【クライシス】に向かって槍投げのように投擲される。


 槍が【クライシス】に向かって空間を直進する際に、空気が震えて吹き飛ぶ音と風が発生する。

 万物を全て貫く槍をシゼンは【フリーク】が動作の際に予測し機体を動かし片脚で跳躍して躱していた。

 黒槍は、射線に存在する障害すべて貫通させて、熱で溶かしたような穴を残している。


 『うぇ』

 『まだ、鳴くか?』


 【フリーク】は二本目を手に取っていた。そして、【クライシス】へ投擲。最初よりも距離が縮まった分、到達時間と速度が速い。


 『――――』


 二射目の槍もシゼンの操る【クライシス】は転がるように躱す。先ほど現れていた“ACT”の文字はモニターから消えていた。


 『片脚で、どこまで避けられ――』


 三本目を手に取ったところで、【クライシス】は前に重心を傾け、片脚で【フリーク】へ跳躍する。強靭な跳躍力で距離は凄まじい速度で縮まる。しかし、その動きも【フリーク】は予測済みであった。


 『終わりだ』


 よもや、こちらが投げるよりも速く接撃出来ると思っているのか?

 先んじた二射よりも短い動作で【フリーク】は黒槍を投擲する。【クライシス】の跳躍接近速度があるのなら、熱を纏わせるだけで多少低速でも問題なく貫けるからだ。


 『――――』


 コアを狙って飛来してくる黒槍は【クライシス】を通過して、後方へ抜けた――


 『――――布石だっただと!?』

 『戦場は駆け引きに勝つ方が、生き残るのさ』


 【クライシス】は直進してくる黒槍を二つに両断して、【フリーク】へ間合いを詰めたのだ。

 敵が正確にコアを狙って来る事は解っていた。だから、その位置に『鳴月』を合わせて置いておくだけで、一発は凌げる。しかし、それは一回きりしか使えない。決定的な瞬間に使って次につながなくては一気に不利になるだろう。

 だから、シゼンは最初の二射をあえて躱した。


 『この距離は、オレの必勝の間合いだ』

 『――っ!!』


 【クライシス】は【フリーク】に直進しながら『鳴月』を振り上げる。

 まだ、投げ終えた動作からまだ回復していない【フリーク】は、持ち替えた『鳴月』を振り下ろしてくる【クライシス】の攻撃を側面に転がる様に躱した。その際に、僅かに剣線に入っていた装甲が、チーズでも切られたように滑らかな断面を見せて剥離する。


 『降参するなら、命だけは助けてやるぞ?』

 『なめるな!!』


 態勢を立て直した【フリーク】は、黒腕をオレンジ色に発光させ、主体として攻撃を仕掛ける。

 【クライシス】は重心の移動で、側面を向きつつ逆手で、その攻撃を受ける。

 火花が散り、一定量の熱では溶解できない『鳴月』と黒腕は互いの攻撃距離で何度も接触を重ねる。

 片脚にもかかわらず、攻撃を受け止める【クライシス】が、転倒せずにバランスを保っているのはシゼンの操作技術による所が大きい。

 更に【フリーク】としては、一撃で致命傷となる『鳴月』を黒腕でしか受けられず、躱された際に向けられる攻撃を懸念して、力強く打ち込む事は出来ない事も要因の一つだった。


 『良く動く――』

 『近接防衛(それ)しか取り柄が無いんでね――』


 『鳴月』と黒腕が接触する度に、命をさらけ出し、すぐそこまで“死”が迫っていると自覚できる音と光が発生し続ける。


 『今、オレは……命を失いたくないって思ってるし、こんな命はどうでもいいとも思ってる!!』


 【クライシス】にはシゼンとエイルの乗る二つの搭乗席があった。

 消えても良い命は前席に、救いたい命は後席に――


 今、この機体には“死”と“生”の二つの命が宿り、目の前の……オレ達が戦い続ける敵と対峙している!

 腕なんて、脚なんて、無くても問題ない。この戦いに見える命の光こそが――


 『ここに居ると言う――人の証だ!!』


 【フリーク】は横なぎに振ってきた『鳴月』を、身を低くして躱すと同時に、機体を半回転させ、【クライシス】の片脚を払ってバランスを奪った。


 『――』


 そして、再び【クライシス】へ向き直し、熱を纏った黒腕で貫く為に指部を手刀のように揃えると、突き出そうとして――


 『武器が『鳴月』だけだと思っていたか?』


 向きなおした際に、バランスを崩して落下している【クライシス】の足裏が胴体に接触している事に気づく。

 次の瞬間【クライシス】は跳躍。その際に発生する衝撃によって地面代わりにされた【フリーク】は、大きく装甲を凹ませて吹き飛ばされた。


 『コイツの跳躍力は、お手頃な大砲だよ』


 形だけ残っているビルへ【フリーク】は激突すると、崩れてくる瓦礫に少しだけ埋もれた。【クライシス】は、弧を描く様に着地――出来ず、無様に横に倒れるように落ちた。


 『ミスった……』


 シゼンの単純な操作ミスである。







 『…………だが、この戦いは私の勝ちだ――』


 多少の瓦礫をものともせず立ち上がる【フリーク】は黒腕に掴んでいる『鳴月』を見せながら告げた。

 【フリーク】は黒腕で吹き飛ばされる直前に『鳴月』を掴んでいた。そして、吹き飛ばされ、その際に【クライシス】の右腕から『鳴月』を奪っていたのである。


 『終わりだ』


 左腕に『鳴月』を持ち【フリーク】は、倒れて起き上がるのに時間がかかっている【クライシス】へ走って近づいて行く。


 『お前たちは知っていると思ってたけどな――』


 そんな声は、ただの雑音であると【フリーク】は【クライシス】を攻撃圏内に捉えると『鳴月』を振り上げた。


 『ここは、オレ達の世界だぜ? お前が相手にするのは――人類だ』


 途端、【フリーク】の左側が爆発した。

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