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クライシス~白銀の空~  作者: 古河新後
第1部 白銀者の帰還
18/43

白銀者の帰還11

 「ねーよ! これって楽しすぎるだろ!!」


 シゼンは、スカイホールの出現を確認すると、適当な自転車を盗み、避難していく人間とは反対方向に、こいでいた。目指すのはウォーターフォード駐屯基地。そこに戦えるだけの装備(アステロイド)があるハズだ。


 『緊張感がありませんね。敵は未知の装備を数多装備しています。【ヴルムIII】では勝利するには、要素が足りません』


 ファラは現地に先駆けて到着した【ヴルムIII】二機のメインカメラをハッキングして、シゼンに見せていた。

 彼はクリスタの画像を表示する専用の小型画面を片目の前に装着して、随時判明する情報を閲覧している。『セブンス』の標準装備の一つであり、迅速な情報を閲覧する事が可能である。ちなみに非売品。


 「うは。あの右手なんだよ。デザインした奴センス良すぎだろ。しかも高空機関? TRジャナフよりも高性能だぞ。あれ」


 降下してくる動きも、移動しながら常に観察(モニター)していた。その様子から今回の(アグレッサー)は高空機関を搭載していると確信する。しかも、こちらの最新機よりも高性能の物を、だ。


 『新たに判明しました。今回の“アグレッサー”には、搭乗者が居るかもしれません』

 「は?」

 『通信記録が残りました。発信元は漆黒の機体。現地の【ヴルムIII】と通信しました。同時にロスト』


 その時、地面が揺れるほどの爆発と、聞き慣れた爆音が鼓膜を突く。


 「おわ!?」


 驚いて、自転車を止める。そして、事務的なファラの声が入って来た。


 『初期交戦した【ヴルムIII】二機、撃破されました。同時に、現地に小隊が到着。隊長機は六連銃身連射機(テラ・ガトリング)を装備しています』

 「テラーの作った武装(やつ)か。アイツはネーミングセンスだけが残念だよな」


 武器に自分の名前を入れんな。と、軽口を叩きつつ、シゼンはどのように行動するのか考える。


 【クランク】で移動する事も考えたが、市民が避難している場所を横断しなくてはならず、取りに行くのも面倒だ。それに受付の人間が避難して居たら余計に時間がかかるかもしれない。更に、敵に反応されたら、まともに戦えないし、逃げても基地まで引っ張っていく事になる。


 出来るだけ『セブンス』として、人を護る事を考える。と、言っても心得程度の適当な感覚だが。


 「色々とヤバいね。死にたくないし、さっさと基地に向かいますか。最短ルートを表示してくれ」


 すると、画面に小型の平面マップとルートが表示される。距離的には3キロ。しかも、途中で自転車を運びながら降りて瓦礫を登らなければならず、かなり時間がかかりそうだ。


 『急ぎましょう。残り3.19kメートルです』

 「カウントすな」





 “ウォーターフォード第六ステーション”


 「…………」


 エイルは、そう書かれた立札を確認すると、地下へ続く階段を降りて行く。

 駅の構内に続いている階段なのだ。“グラウンドゼロ”の影響で機能の停止し、壁や足元には至る所にヒビが走っており、入り口には立ち入り禁止のラインテープが張られていた。


 不謹慎だと思いつつも、止める人もいないので中に入る。イノセントさんの話だと、見張りがいるとの事だが、この騒ぎでそれどころではなかったらしく誰もいなかった。


 「……どこ? こっち?」


 階段を下り切り、無事な道を進む。探知機も、シゼンの様に周囲の情報を拾い上げる装備も無い彼女は、先に設けられた改札で、ライトだけを持って見回した。


 右の通路は瓦礫によって塞がれて通れそうにない。左は来た道で、正面の改札。そちらは……奥が通れそうだ。


 「……これで足りるかな……」


 律儀にも、大人一人分のチケット代を形だけ残っている、受付のカウンターに置くと、改札を越えて奥へ進む。すると、


 「! ……そう……私です……力を……貸してください……」


 確かに感じたソレを頼りに、エイルは暗闇の構内を進み、【クライシス】の元へ向かう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 『隊長! 奴が――』

 『全員落ち着け!! いいか? 小隊で動く! 個人の感情で隊列を乱すなよ!!』


 先行していた部隊員である、ライオットとブルーノは死んだ。機体が爆散したところを見ると、遺体の回収も絶望的だろう。


 『また……増えたな。虫けらが――』


 漆黒の機体は右腕を持ち上げる。その指部はオレンジ色のエネルギーが出現していた。

 アレは【ヴルムIII】を容易く両断した兵装だ。攻撃距離は最低でも100メートルはある。迂闊に近づけば、二人の二の舞……彼らの死を無駄にするわけにはいかない。


 『全員聞け。ネットランチャーは役に立たん。100メートル以上距離を取りつつ、建物の影も利用しろ! 俺か奴を釘づけする間に、包囲陣を完成させろ!!』

 『イエッサー!!』


 カルメラの【ヴルムIII】は、背負う様に固定していた六連銃身連射機(テラ・ガトリング)のロックを解除する。


 長い銃身に両手持ちの武装だ。弾数は一つの弾倉で500発。連続発射は250発まで可能とデータを見た。


 『飛び道具はねぇだろ!? ありったけくれてやるぜ!!』


 キュイイ、と空転を始めると一秒もかからず、毎秒25発の対甲弾丸が発射された。

 一発の発射音さえ聞き取れないほどの断続的な連射。派手な音と、無視できない火力に自然と敵を引き寄せる武装でもある。だが、その欠点を除けば、反動は殆ど無く正確な狙いをつける事が出来ていた。


 こいつは……今まで使ったどの武装よりも反動が無い。


 カルメラは、六連銃身連射機(テラ・ガトリング)を作った技術者と、送ってくれた上層部に感謝する。まるでスコールが横から襲い掛かる様に、漆黒の機体は弾丸の雨に呑み込まれた。


 『隊長。全機、配置に着きました!』


 彼が敵を惹きつけている間に、部隊の他の者達も配置を完了していた。各々で相討ちにならない場所を選び、手にはアサルトライフルを持って隊長(カルメラ)の指示を待つ。


 すると、六連銃身連射機(テラ・ガトリング)は銃身の熱処理限界を迎え、連射を停止した。周りの建物も吹き飛ばしたため、土埃が舞い上がって敵機の姿を隠しているが無事では済まないだろう。


 『待機だ。ダメージを計測後、合図と共に一斉射撃――』


 途端に、土煙が晴れる。時間と共に薄れたわけでは無く、敵機が晴らしたのだとカルメラは悟る。周囲に包囲した部隊員も撃てる位置から一斉に武器を構える。


 そして、姿を現した漆黒の機体は、目立った損傷も無く何事も無かったかのように佇んでいた。


 『!? 馬鹿な!!』


 敵の外装を、攻撃前と比較する。損傷は0。ダメージは無かった。


 『撃て!! 全員! 一斉射撃!!』


 カルメラは自身も六連銃身連射機(テラ・ガトリング)を構え、部下と共に弾幕を厚く形成した。本来なら破壊どころか、原形さえも留めない程の火力が単機の敵に向かっている。


 漆黒の機体は全方位からの射撃を受けていながら意に介さずと言った様子で、その場に立ちつくし、浴びるように弾丸の雨をその身に受け続けた。


 『どうなっている!? 奴に攻撃は通っているハズだ!!』


 弾丸が跳弾している様子は無い。全て命中しており、それでも尚、敵は倒れない。


 『た、隊長――』


 すると、部下の一人から通信とデータが送られてくる。


 『奴に攻撃が通らない理由がわかりました……』


 カルメラは六連銃身連射機(テラ・ガトリング)を撃ちつつ、そのデータに眼を通す。それは、熱源カメラで敵機を見た映像だった。


 黒い装甲なので解りにくい事もあった。敵は……攻撃を受け続けている今でも、全身の装甲が3000℃以上の温度を纏っており、弾丸は装甲に当る、数センチ手前で溶滅していたのだ。


 『な……に?』


 どうなっている? 3000℃以上の熱を内包して、形を崩さない機体が……物質が存在するのか? こんな装備を持った敵を倒すには……一体、どうすればいい……のだ?


 そこで、カルメラは対アグレッサー戦特化部隊である『セブンス』を思い出す。なぜ、彼らが“対アグレッサー戦特化部隊”と呼ばれているのか……実際に奴ら(アグレッサー)と対峙して理解した。


 その時、漆黒の機体は右腕を軽く振る。“爪”が300メートルほど伸び、狙ったカルメラ中佐の【ヴルムIII】を六連銃身連射機(テラ・ガトリング)ごと斜めに通り抜けた。


 バチバチと、溶断された箇所が火花を上げる。脱出装置は溶断された為機能しない。そして、膨張する様にコア内が光に包まれる――


 考えが甘かった……我々が対峙しているのは、人間同士のアステロイド戦ではない。

 未知の敵……アグレッサーという、怪物たちであるのだと――


 カルメラの乗る【ヴルムIII】は爆発した。その爆発は、ウォーターフォードの絶望の狼煙となる……

カルメラは二度死ぬ

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