表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クライシス~白銀の空~  作者: 古河新後
第1部 白銀者の帰還
10/43

白銀者の帰還3

 それは、神のようなモノなのだ。

 天地を創造し、愚者へ天罰を降す、古の神。

 空を飛び、空間の移動を可能にする。全てを溶かす灼熱でも、全てを停止させる白銀の冷気でも、かの神を止める事は出来ない。

 それどころか、傷一つ付けられないかもしれない。

 人が羽虫などを気に掛けないように、神もまた、人の事など眼中にないのだ。

 それでも、ソレは降臨した。この世界で唯一触れる事の出来る……機械仕掛けの(クライシス)が――

 星の意志がどこへ行くのか、ソレはまだ、人に託されている。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 報告。

 “グラウンドゼロ”主戦場都市ウォーターフォードの復興作業にて、かねてより情報のあった“機体”を発見しました。

 地盤が崩れ、地下鉄道の線路に落ち、更に崩れた天井の瓦礫に埋もれていた模様。どうやら、『セブンス』の部隊員(セイバー4)との交戦で、ここまで落ちてしまい後の瓦解で姿が完全に瓦礫に隠れてしまったようです。

 本日、作業をしていた【クランク】のチームより、機体が埋まっていると情報を受け、現場へ向かいました。

 瓦礫から露出している一部分の装甲を調べた結果……この世界のどの素材にも当てはまらない材質であることが判明。

 事態を情報レベル8として現場には厳重注意。発見した作業員の上役会社にも圧力をかけ秘匿とする約束を取り付けました。

 やはり、エルサレム様の言っていた【クライシス】であることは確実であるようです。後日回収の輸送ヘリと、撤去用の専用重機の導入を願います。



 部下からの、この報告を聞いた世界最高峰の頭脳を持つ『サンクトゥス』の総帥は安堵した。


 「少し歳を取ったが……私と、お前の悲願だ。クライシス――」


 これで、多くの犠牲が報われた。と――



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「元気にしてたか?」


 シゼンとセレグリッドは基地の近くにある酒場にいた。

 ウォーターフォード市街の飲み屋は、全て瓦礫と化してしまった為、郊外の旅人や通りすがりを歓迎する酒場は連日満席となって繁盛している。

 ウェイトレスは次々に来る注文で大忙しで、カウンターの奥でつまみを調理する店の主人も普段溢れる事の無い客足に大満足だろう。


 「そっちこそ……髪切ったんですね。失恋でもしました?」


 相変わらず、不動の様子が衰えない部隊長に対して、シゼンは安堵の様子だった。唯一心を許すことのできる人物――セレグリッドは、背に届く程度の髪を後ろで三つ編みにしていた。前はもっと髪の量が多かったが、今ではすっきりしている。


 「馬鹿。むしろ逆だよ」

 「逆?」

 「今のは聞き流せ。命令な」

 「はぁ……別にいいですけど」


 任務先で何かあったのだろうか? 昔から、“負けたら切る”とか言っていたので切った理由は、その辺りが濃厚だ。


 「まぁ、中身は変わらん。それに、今や『セブンス』は世界の花形だ。俺としては……あんまり派手なのは好きじゃないんだがな……『ナイトメア』や『フォルス』が裏で動くには、体の良い隠れ蓑だと」


 アステロイド開発の第一権威でもある、サンクトゥスには三つの私兵部隊が存在している。

 『セブンス』もその内の一つで、他の二つ――『ナイトメア』と『フォルス』は他の部門での特化部隊である。


 そして、公に出来ない事柄も少なからずある為、残り二つの存在は、世間的にはもちろん、サンクトゥスの内部でも上層部の者達が知るのみとなっているのだ。


 「隊長は、今も任務を?」

 「ああ。ちょっとばかり仕上げの段階でな。調整に時間がかかるってんで、二日ほど離れてる。まぁ、ここは最後に寄ったところだから。この後の基地からの輸送船に乗って戻るさ」

 「そうですか。良かったような、そうでないような……」

 「態々、ここに来た理由を察して見ろ。セイバー4」

 「……その呼び方、止めてくれません?」

 「お前が“隊長”って呼ぶからだ」


 その言葉に、シゼンは身内でも無意識に距離を取っている事に今日初めて気が付いた。


 「……わかったよ。親父」

 「おう、クソガキ。ようやくか」


 やっと、いつもの様子に戻ったシゼンに、セレグリッドは笑みを浮かべながら煙草に火をつけた。





 「はっきり言って隠居はごめんだ」


 セレグリッドは運ばれてきた酒のつまみなどを食べながら、息子(シゼン)との時間を過ごしていた。ちなみに二人とも酒は飲まないので、その席だけこの店一番の嗜好品が無い事に若干違和感があった。


 「そんな話があったの?」

 「総帥からな。『ナイトメア』に異動しないか考えてくれって言われた。断ったけどな」

 「ふーん。ていうか、『ナイトメア』ってあれでしょ? オレたち以上の特機専用部隊で、総帥の直属部隊」

 「『ナイトメア』は、シギントが仕切っている。俺は気楽な部隊長が出来る『セブンス』の方が良い。まぁ、いずれは『ナイトメア』の方がアグレッサーには有効打を与えられるようになるだろ。オレ達はその繋ぎだ」

 「こっちとしてはどうでも良いけどね。まぁ、奴らとの戦いで楽できるならそれでいい」


 シゼンはウーロン茶を飲み干しながら、セレグリッドは摘みを口に運びながら言う。


 「なんとも、世界は少しずつ滅びに向かってる気がするんだよ」

 「“アグレッサー”の所為で?」


 今、最も世界中に被害をもたらしている存在の名前を挙げた。しかし、セレグリッドは肯定も否定もしない。


 「さぁな。だが、サンクトゥスも規模がでかくなって、維持も大変な大企業だ。ほぼ、全ての国がアステロイドを保有する時代であるからこそ、多くの需要があるんだが……それでも背中を撫でる不気味な悪寒は消えねぇ。それどころか年々、デカくなってる気がするんだよ」


 “グラウンドゼロ”はソレに気が付くキッカケに過ぎなかったかもしれない、とセレグリッドは語る。

 彼の言う事はシゼンも少なからず感じ取っていたし、父の勘は結構当たる。


 劇的な流れの中で、ただ目の前のことに必死だった。“グラウンドゼロ”では生き残るために、全神経を集中させ、出来る事の限界を超えて、渡り続けた。そして、渡り切った先に待っていたのは――


 スカイホールを通り、目の前に降り立った白い機体。敵だと解った。

 交戦。不思議な事に白い機体は戦おうとしなかった。まるで戦う事を拒否するかのように、退きながら戦場を離脱しようとしていたのだ。

 ソレを逃すほど、甘い戦場ではない。今はそうじゃなくても、いずれ牙を剥かない可能性は無いのだ。

 シゼンは背を向けた白い機体に瞬時に肉薄。そして、撃墜し、地に仰向けに墜落した白い機体の動向を確認しようと近づくと“コア”が開いていた。中には――


 「…………親父。オレってやっぱり壊れてるかも」

 「馬鹿。もう二十年も前の話じゃねぇか。今更、思い出すなよ。しかも食事中に――」

 「ハハ。ごめん」


 困ったように笑う息子を見て、セレグリッドは昔から抱いていた懸念が、たった半年でかなり膨れ上がっている事を危険視していた。


 ソレは時限爆弾のようなモノだ。ミアンは上手く処理しているが、シゼンのは、いつ炸裂するか分からない。


 「やっぱり、お前はヘコヘコ、バイトするより……戦場に居る方が良い」

 「ソレを親が子に言う?」

 「ああ。特に心に深い傷を負ったクソガキには、普通の生活は無理だ。だから、普通じゃない生活で自分を保て」

 「…………」

 「“普通”のフリは止めろ。そんなんじゃ、マジでいつか壊れるぞ?」


 昔……本当に昔の事だ。オレ達はもう普通には戻れないところまで、追いつめられたのだ。

 3歳の頃が初めて。そして2年間やらされた。そして、ソレを今やれと言われても問題なく行使できるだろう。人たちが“人形”に見えている限り――


 「……なぁ、シゼン。もう、良いんじゃないか?」

 「何が?」

 「何か変われると思うモノが、ここにあると思ったから残ったんだろ?」


 正直な所、シゼン自身も何故、部隊から離れているのか……よくわからなかった。なにか……完成するはずだったパズルが、急に正しいピースの並びでない事に気が付いて、組み立てるのを止めてしまう。なんとなくだが、今の自分はソレに近い気がする。自分で例えを上げておいて、本懐はよく解らないが……


 正しいと思ってやっていた事が、普通だと思って目指したモノが、あの一日(グラウンドゼロ)で急に変わってしまった。

 しかし、ソレに対する“答え”も結局のところ見つかっていない。


 「結局は無かった。これで良いじゃねぇか」

 「…………」


 そう。ただの気の所為で、本当は何も無いのかもしれない。半年間……ただ黙々と瓦礫を掘り起こし続けたのも、分からない“何か”を探すと言う、訳の分からない行動だったのだろう。

 つくづく壊れている。シゼンは心の中で自虐した。


 「『セブンス』に戻ってこい。そうすれば、“いつもの日常”に戻れる。カナンも、シエンも、シルバーも、リンも……お前が戻るのを待ってるぞ」


 その言葉に、シゼンは明確な返事は出来なかった。ただの“日常”で壊れていると感じる自分の……過去で“抉られてしまったモノ”が何なのか……

 誰にも解らないし、答えなんてもらえない。だけど確かな事が一つだけある。


 今日も“答え”が出なかった事だけが、“確かな答え”だと言う事だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ