72.
さてと。
話し合いでこちらが説明すると言ったのは確か二つ。
さっきの狗族の処分と調査の結果だ。
案内役の選抜については、あの後ライサの方に追加でお願いしてある。
あと追加で説明する事と言えば・・・・襲ってきたゴブリンたちについてと人間の扱いについて。
まずゴブリンたちの方だが加担したほとんどは長老の口車に乗せられた連中である。
とはいえ、ここで無罪放免というのも都合が悪い。
ならば・・・・彼らは私の実験に付き合ってもらう要員としよう。
ただし、長老とまとめ役の数名については・・・・・望み通り、彼らだけの土地を与えて幽閉することにしよう。
そうだなぁ、あそこ・・野生動物の保護している階層にでも・・・・・。
それで要観察という事で。
ゴブリンってなんか動物のメスが居れば繁殖できるとか言う話があるが・・・。
まぁ、あの年だし、確かゴブリンって一応女性もいるし・・・・・・たぶん無いよなぁ。
『お嬢様。ザラップ様から託り、リー様との契約内容をお持ちしました』
その声に顔を上げると入口に一人の男が立っていた。
この場合はボーイか。
メイドの対義語は確かそうだったはずだ。
それはそうと、持ってきた皮紙を受け取り。
「確かに」
『失礼いたします』
中身を確認して・・・ん?
顔を上げるとそこにはさっきの男は居なかった。
だけど扉の開く音も、閉まる音もしなかった。
・・・・・・・一つ、全体的に命令しておくか。
それはそうと・・・・うん、チンプンカンプンだ。
まぁ、最低限の・・「私に危害を加えない」とか「自給自足する」とか「他にダンジョンの事を漏らさない」といった内容は織り込まれているし。
たぶん不利になる事もあるだろうが・・・・・契約しても良いだろう。
「コア、この内容を取り込み保存」
『タマが行ってあります』
「そう、なら・・・これで契約する」
その言葉と共にそれは二つの光の塊となり、一つは消え、もう一つは私の中へ消えて行く。
これで契約は完了だ。
「さて、タマ」
『ん?なぁに?リナちゃん』
「一応リーさんにあんたの事ばらした?」
『んにゃ?ばらしてない』
「エアリアの事もあんたの事もしばらくは黙って置こうか。神殿やら森の奥に隠しているとでも説明しておけばいいと思うんだ。あとは階層主たちと先生たちあたりに口止めしておけばばれないでしょう。それと・・・・リーさんには”これまで”と”これから”を説明しないと」
『それならこっちに来る? 今、階層主たちと顔合わせさせることになってたし』
意外と話は進んでいるのかもしれない。
知らぬ間に先生たちとリーさんの間が近くなっているようだ。
これが好ましい状況なのか悩ましい状況なのかは今の所分からないが。
「それじゃぁ、行くから」
『了解~。先生の方にそう伝えておくね。あ、あとちょっと出入り口の費用、もう出したから。少々お高くついたけど。ごめんね?』
慌ててDPを確認し・・・・まぁ、その他の家とか改変とかで使った金額から考えたら微々たる物であるが、それだけ見れば高い買い物をしたと思える金額である。
まぁ、終わったことのようだし、必要経費だ。
何も連絡が・・・・って、そういやさっきの契約書にそこらへん含まれていた様な。
まぁ、仕方ないな・・・はぁ・・。
~・~・~・~・~・~・~・~
「事前に通達してあったと思うが、一人このダンジョンに政治面での指導者を引き入れることになった。そこでだ。数点すり合わせることができたので皆に集まってもらった」
先生はそういうと皆を見渡した。
このいつもの円卓の間に居るのはこれまたいつものメンバーだ。
階層主たちに騎士団団長と副長。
それにタマにエアリア、マリアさんはじめとするいつものメンバーだ。
調査隊の二人はリーさんの自宅へ行っていると聞いている。
「さて、すり合わせる内容だが・・・一つはそこのコアであるタマとエアリアの事だ。一応契約はなったとはいえ、信じて良いか分からぬ者にこの事を打ち明けるのはどうも引ける。なので、このことは黙って置くことにしようと思うのだが・・・・。お前たちはどう思う」
「そりゃぁ、そぉした方が良いだろうなぁ。なぁ、母ちゃん」
「・・・はぁ・・そうさねぇ」
「あたしゃも異論は無いよ。てか、そいつらコアだったんだねぇ」
「こっちも異論はねぇ」
「ご命令とあらば」
「当然の処置であろうのぉ」
「・・・私も異論は無い。で、他にも話すことがあるのだろ」
それぞれが同意の意思を示した後、ルッセイが話をこちらに戻す。
いつもの事なのか皆何も言わずこちらに目を向けてくる。
「そうだな。あとは・・・・タマの立ち位置だが、俺より下でお前たちより上だってことぐらいだ。それとエアリアの方はタマの補佐という立ち位置と説明してある。で、これから来る奴はタマと同じぐらいだと思ってくれ」
「・・・・・まぁ、良いだろう」
不満そうだがそれに同意するルッセイ。
他の人たちの中には不満そうな雰囲気を醸し出している者もいるがルッセイが承知したからだろうか、異論は無いようだ。
「あとは来る奴の説明だが・・・・それはそいつにさせるとしてだ。他に何かあるか?」
「うん? あぁとだな。その人が来てからこのダンジョンと森の方の現状を説明するのと、それぞれをどうしていくかって所を説明するつもりだから。そのつもりで」
「ほぉ、ん?・・・・なに?・・・・・分かった。そのまま来い。皆、少々面倒事が増えたようだ。だが、説明している時間が無い。席に着け。来るぞ」
一瞬ざわついたもののすぐに静かになり扉の方を向いて。
しばらくしてから扉が音もなく開く。
今更だが重量感のある扉のわりに音が出ない扉だよなぁ。
「お招きに預かり、参上いたしました。リー・シャン(李・翔)と申します。今後ともよろしくお願いいたします」
これはあれだな。
メイドたちが用意した仙女の服装とあまり変わりがない気がする。
それに頭の上に貴金属で装飾した帽子をかぶり、これぞ古代中国のお偉いさんと言った感じだ。
それと髪を団子にして布で巻いている人が二人その後ろにいる。
・・・ん?
古代中国って・・・まぁ、良いか、いつもの事だ。
そんな人たちがグーにした手にパーの手を添えて顔の前に出し、頭を下げた状態でそこに居るのだ。
その様子に先生を見る。
先生も渋い顔している。
なるほど、これが手違いか。
私はため息を飲み込み、笑顔で歓迎の言葉を言うのだった。




