68.
ずいぶんお待たせしました。
すみませんでした!
「ほぉ・・・・これは・・仙人の術か? にて、この老いぼれに何用かな?」
そこに現れたのは、何というか・・・・・あれだな。
好々爺然としたエミス爺と・・・・トラヒコ・・クマヒコだったか?
あの元気印の肉体派爺さんを足して割ったような印象だ。
柔和な、それでいて、がっちりとした体の小父さんと言った所だろう。
それにしても龍人と言うのは、こう! と言う規格と言うのだろうか? が、無いようだ。
まぁ、知っている龍人は一人だけ、階層主のルッセイだ。
ルッセイは何というか、すらっとした体つきである。
全体的に白いし、手足の指は長い。
指と指の間に水かきがあって、尾っぽは縦に平たい。
あと、角と言う部分は神経の通った髪の毛の束のようである。
何というか、水のイメージの、魚のような印象の青年なのだ。
に、対して、目の前の小父さんは土のようなイメージだ。
竜人の翼が無い人というイメージと言えばいいのか。
竜人はどんなに人に近くても、ごつい蝙蝠のような翼とトカゲの尾っぽを持っているのだが。
彼には翼が無く、代わりにコメカミあたりからスッと後ろに二本角がそそり立っていた。
動物で言えば、ヤギか鹿といった所か。
ちなみに彼の方が仙人に見える格好をしてたりする。
見た目は先生よりちょっと上のように見える程度だが。
「我から見れば、まだ若いように見えるがな。急な呼び出しをして、すまなかった。リー・シャン殿」
ゆったりとした口調で、にこやかに言う先生。
ちなみに、先生は漆黒のゆったりとしたローブに・・・・ストール・・じゃなくて、ケープっていうのだろうか。
二の腕までを覆う布を首元に巻いていた。
留め金は金色のボタンで同色の飾紐が繋がっている。
・・・・・やっぱり仙人と言うよりは魔法使いとか魔導師と言う感じだ。
ちなみに、先生はなめられないように少々年を取った姿を取っていた。
便利な体である。
「ぅむ。ここの所、何もすることが無く。暇を持て余していたのでな。こういった刺激はむしろ望む所よ」
「そう言っていただけると、こちらも助かるという物だ。さて、先の質問の答えになるかどうかは、分からぬが・・・聞きたいことは一つだけ。我らの力になてほしい。どうか、ここで働いてくれぬかな?」
「この老いぼれに何を望むかと思えば・・?・・・・どのような力を望みか?」
先生の言葉に呆れたと言うような声色で言ったあと、少々眉が動いた気がした。
気がしただけで、見間違いだったかもしれない。
それはそうと、急に真剣な顔で先生を睨んできている。
真顔の小父さんは怖いよぉ。
「うむ。少々あれだ。何と言えば良いのか」
『ここからは、わたくしが』
「あぁ、頼む」
どう言えば良いのか迷っているように振舞う先生の横からスーッと出てきたのはザラップである。
ただし、骸骨では無い。
肉付きの立派な老人だ。
・・・・・自分で何言ってるんだろう。
まぁ、あれだ。
よく映画とかで出るセバスチャンとか名乗る白髪をオールバックにしたご老体だ。
スラッとした細いが体格の良い、先生よりも皺の濃いお爺様。
服装はいつもの黒のズボンに白のシャツ。
その上から黒のベストに・・・・確か・・・スーツじゃなくて・・・燕尾服・・だったか?
ただただ似合っていると言っておこう。
『横から失礼します。わたくし、主様に仕えるザラップという者です。お見知りおきを』
「ほぉ、ザラップ殿ですな。で、説明いただけるのですかな?」
『はい。この度、リー様をお呼びしたのは、何と言いましょうか・・・国を導いてきたその手腕を買ったと言うべきなのでしょう』
「国を・・・ですかな? 我の事を知っているようだが、なら良くお分かりであろう? 我は国を追われた身。手腕と言われてものぉ」
『ご謙遜を。この遠き地まで轟く彼の国を支えてこられた方が何をおっしゃりますか。それに、あなた様が打ち出した広い国土を活かした食糧改善。侵略ではなく交渉、そして、その交渉から友好を結ぶ手腕を買ったのですよ。と言うのも、この洞に住まう者たちは外から見たら野蛮な者たちだと考えられているようで、度々襲撃に遭うのです。その魔の手から守るうえでも、集落としてではなく国として立ち上げることにしたのですが・・。しかし、私たちも我が主も国と言う物を良く知りません。その上、色々と困ったことも多く。そこで、あなたのような経験豊富で、基本、曲がったことは嫌いな、ですが、国のためなら悪鬼にもなれる、あなたのような方を探していたのです。不快に感じられたのなら謝ります。しかし、右も左も分からない我々にはあなたが必要なのです』
これって交渉と言うのだろうか?
ほめて、持ち上げて・・・・貶して?泣き落とし?
でも、まぁ、満更でもない・・様子・・だと思う。
リーさん、無精髭だろう、それなりに長い髭を撫でてるし。
・・・・・もしかして、あれ剃れば、先生の若いバージョンよりちょっと年上に見えるぐらいじゃないだろうか?
「ふむ・・・・・ですがなぁ。我にもいろいろと事情と言う物がありましてな。ここで即答しかねますなぁ」
『それは、そうでしょう。しかし、ここで返す事は出来かねます。数日滞在して考えていただけないでしょうか?』
「それは・・・・構わぬよ。いや、これ以上無い申し出。こちらからお願いしたい」
『では、結界を』
「待て。ザラップよ。リー殿。すまないが、いくつか契約をしていただきたい。こちらとしても身の安全を確保してからでなければ、人を招き入れる事はできぬのだ。おい、あれを」
先生の言葉に私とリアは椅子から立ち上がり、膝の上に置いていたお盆をそれぞれに持っていく。
お盆の上には、インクの入った皿と鳥の羽一枚、それに契約書が乗っていた。
私は先生のもとに、リアはリーさんのもとに、それを持っていく。
ちなみにこれはタマが神々の契約書を事前に出した物である。
出した時は、事前に用意できる物なんだと感心してたりする。
もう一言言えば、私の運んでいる物には、私の署名がしてあるのだ。
後は先生が署名したように動かすだけである。
「・・・・ほぉ、ちなみにこれを背いた場合はどうなるのですかな」
『主もあなた様も背けば、死ぬことはありませんが、苦痛を受けます』
横からザラップが答える。
まぁ、あちらが守るよう書かれている事は先生と仮契約した時の内容にちょこちょこ付け加えた物だ。
つまり、主に本人または同行者が危害を加える事を禁ずる、これがメインである。
その前に見聞きしたことは話すことを禁じるとだけ書かれ、その後はこの二項を守れるならば我々はできうる限り要望に応えると書かれているのだ。
どう考えても相手の方が優遇されているような内容であるが、ここで一番大切なのはやはり、私に危害を加えないといった所だろう。
「内容に何か気になる事でも?」
「いや、無いですな」
「では、承知していただけますかな?」
「あぁ」
頷いた声に反応して契約書が光となって私の中に消えて行く。
これで、神々の契約は成立したと判断されたのだろう。
振り返るとそこには羽を手に取ったまま、何が起こったのか分からないと言った顔のリーさんが立っていた。
うん、人の呆気にとられた顔って間抜けだよねぇ。
そんな顔の彼に私はにっこりと笑って見せたのだった。




