59.
「お待ちしておりました」
長々と待たせていた階層主たちは怒った様子も見せず頭を下げる。
「すまぬな。長々と待たせてしまったようだ」
「いえ、このような見たことない建物やこの庭に心奪われ時が過ぎるのも忘れておりました」
「そ、そうか?まぁ、それならば良かった。では、そなたらの疑問に答えることにしよう。で、どこに疑問があるのかな?やはり、殺さない事か?」
「いえ、そこは我々も承知しておりますとも。野蛮人共とはいえ、血で大地を汚したくないとは・・なんとお優しい事か。それにあの罰はなんと不毛か、わしらも胸がスッと空く思いでございますれば文句もありませぬよ」
いつもの柔和な笑顔で返す亀のエミス爺様。
ふもう・・まぁ、簡単に道は作れるのだ・・そう考えたら不毛だろうなぁ・・。
で、そこは問題ないという事なら・・。
「では・・・共に暮らすという所か?」
「そう!そこだ!」「あ、また、あんたは!お願いだから黙って座っときな!」
「・・すみませぬ。しかし」
さっきから真っ赤にして叫ぶブライムに慌てるエミール。
他の階層主も渋い顔をしているようだ。
「あぁ、そなたらの階層の話だったからな。だがな、もしここでこのまま放り出したとして、それで襲って来ないと言い切れるか?」
「そ、それは・・・そうでしょうが」
「それに、あれらは我らの戦果であろう?それを有効活用するだけではないか」
「有効活用だと?」
「そうだ。ブライム殿。皆も。今は住む場所に食糧事情も芳しくない事は私も知っている。それなりの者は移り住むことを考えている事だろう。だが、今の生活を捨てれるかと言えばできない者も多いはずだ。特に食糧を生産している者たちや別の職についた者は、な」
それに目をそらすブライム。
そう、ノームやドワーフはその手先の器用さからか、特に別の職についていたりするのだ。
それに18階で畑仕事をしている竜人も果樹園のエルフも動くことを考えていないではないだろうか。
それを考えれば今でも土地は余っているという事で。
「なら、わしらの階層を使わずとも良いではないか!」
そう、そこなのだが・・・
「そこはな。ヘローゼ殿の畜産はそれなりに土地が居る。アロイ殿やベンノ殿、パトリス殿の階層は元々一つだ。防衛設備を減らすわけにはいかない。残るはそなたらの12階層のみであってな」
「・・・あんた。仕方ないさね」
「だがな!」
まぁ、新しく階層を作るでもいいのだが。
それだけ経費が掛かるのだ。
なんせ1階層増やすのに面積✖階層数✖10DP。
面積が広いため、それなりの出費となる。
だが、ある物を使わない手は無いのだ。
というか、何でここ増やしたんだろう。
全体的な面積からしたら今使っているのは3分の1ぐらいだ。
魔素で汚染されている階層に限ってでも3分の2なのだ。
まぁ、そういう権限は無かったか、思いつかなかったという事だろう。
あ、ちなみに巨人のお姉さんがヘローゼ、オーガがアロイ、エルフのベンノ、竜人のパトリスとなっている。
「そなたらの階層はあのダンジョンの胃袋であることは私も重々承知している。だが、外の・・彼らの生活を知り、それをダンジョンで生かす。それも大事な事であると思う。こちらも歩み寄る努力をしないといけないからな。それにこちらの生活を見せることで、何しているか分からない存在から身近な存在とできるかもしれないだろう。その後で開放するでいいのではないか?」
「それでも攻めて来たらどうするのです?」
眉を顰めて聞いてきたのは龍人のルッセイ。
まぁ、そういう事はあるだろうな。
「なら、迎え撃つのみだ。あぁ、そうそう。新しく作った階層についてだが、何もないからな」
「?それは、どういう意味でしょうかな?」
皆、眉を顰めた
何を言っているのか分からないと言う風だ。
「あぁ、それはなぁ。先日、防衛設備をまず増やした時に分かったのだが、その階層は同じ地形と言うだけでな、自然が広がっているだけで、家も壁も無かったそうだ。遺跡部分に関していえばトラップは全て無いのではないかと報告が来ている」
それに答えたのは先生だった。
先生の言う通り、トラップや設備については再度設置するかと言うメッセージが出ている
今は保留しているが。
トラップについては騎士団と要相談である。
家に着いても・・・これは自分で建ててもらうのが経費としては助かるのだ。
訓練と言う名目で!
「それはつまり、切り開けという事か・・」
パトリスが渋い顔になっているのだろう。
それに苦笑しつつ先生も話す。
と言うか、かなり親しげだね・・。
まぁ、長い付き合いなのだろう。
「そういう事だ。まぁ、残っているなら俺も反対していた。だが、家を建てる所からという事ならな」
「あぁ、あと、湖の事だが・・」
「水の中、人一人が通れる程度の道で、外の扉近くそれよりも深い場所に設置するならば我々は文句はありません」
「わ、分かった。そうしよう。他に、あるか?」
ルッセイが畳みかけるように条件を並べたてる。
待っている間に考えていたみたいである。
問いかけに横に首を振る一同。
これで一応、終了という事で・・・もうこんな時間か・・・。
見上げれば、外は真っ暗だ。
部屋の端にある魔術灯(スタンド型)のおかげで皆の顔は分かる程度だが。
「では、遅くなった。今日はここで泊まっていってもらおう。風呂もあるし。ゆっくりとしていかれよ」
その言葉に待ってましたとメイドさんたちが食事を持ってきた。
小さな脚付きのお盆に乗せた一人分の食事だ。
それと、それぞれにどのような場所で寝たいかなどを聞いて回っている。
それを横目に私は家へと足を向けるのだった。
明日はそれぞれの階層作りと捕らえた連中の処罰の通達と。
まぁ、猪族と蜘蛛族の出方次第・・・という事で・・・。
・・・処罰の方、もう少し先に伸ばすべきか?




