とある商人の話 3.
閑話は、これで終わり!
次回、時間は戻って祭典当日からスタート!
幽霊に樽のように運ばれ、着いた部屋には藁の敷かれたベッドが二つ。
そのベッドには上質な綿の布が掛けられて・・。
その上に毛布が・・・。
その一つには・・・先に歩いていっていた同僚が何事もなかったように寝ていたのだ。
ちなみに運んできた幽霊は後で説明すると言って・・・消えて行った。
・・・・ふぅ・・・・寝るか!
~・~・~・~・~・~・~・~
「おい!起きろ!なぁ!起きろよ!ウィン!頼むから起きてくれ!」
・・・・寝てからどれくらいたったのか、分からないが・・。
今度は同僚に起こされるとは・・・。
「うるさい。ジャン。寝かせてくれ・・」
「そんなこと言っている場合じゃないんだ!起きてくれ!」
・・・それも、そうか・・・。
起きたら見知らぬ部屋で綺麗なベッドで寝ていたのだ。
パニックになっても仕方ない。
その中で唯一共有できる人物が居るのだ。
そりゃ、起こすだろう・・・。
ちなみにこんなことが無かったかと聞かれれば無かったわけじゃない。
一緒に寝ていた真面目な奴が次の日に数人単位で牢獄から居なくなっていた事はあったのだ。
看守に聞けば、真面目に刑務をしていたので別の刑務を与えられたと言われ。
確か今牢獄に残っている連中はもっとひどい刑務を課せられているのだと言い。
真面目・・とはいかないが、そこそこ頑張る連中はこれよりましな事をさせられるのだろうと真面目に刑務に取り組むようになった。
そんな連中もすぐに消えて行き・・。
それなりに人数が減って、真面目な奴が少しになった頃。
刑務は一人当たりは減ったが、しない奴の分も真面目な奴が肩代わりをするため、ひどく時間がかかるようになってきた頃。
このまま刑務をしないよりはして、少しでもいい条件で寝たい、それだけで私もこいつも真面目に働き・・。
「なぁ!起きろよ!」
ダミ声が頭上に響いた。
そちらに目を向けるともう涙で顔はぐちゃぐちゃのジャンが覗きこんできていた。
「あぁ、分かった、分かった。退いてくれ」
「なんでそんなに冷静なんだ!」
「気にするな・・ん!~~~はぁ」
私は体を起こし・・。
ここに来た時と同じ部屋であることを確認して。
『よくお眠りになれましたか?』
声のした方に振り返る。
そこは入口の方だったはずだ。
・・・・・・そこには骨が服を着て立っていた。
・・・・・・・・・・
「ひぃ!!な、な、」
隣で、悲鳴を上げ転がるようにこけながらも私の後ろへと・・。
おい、大の大人がそれするか?
「あぁっとだな。あん、あなたは?」
『すみません。私はザラップと申します。ダンジョンマスターにお仕えする者の一人。そして、この都度の刑務の終了と新しい世界への案内役を仰せつかっております。まずは・・・』
ポンポンと手を叩くと扉が開き、食べ物が手押し車と言うべき何かに乗ってきたのだ。
それは二台。
それぞれのベッド脇に置かれ、それを運んできた女たちはすぐに身を引いていった。
それを確認するとザラップと言った骨がまたこちらに目を向ける。
正確には顔をこちらに向けた。
『まずはお食事と着替えをお持ちいたしました。着替えはこの・・・台の下の段に入っておりますので。何かありましたら扉の向こうに居ります者にお言いつけください。では、ごゆっくり』
ザラップは食べ物を乗せた何かに近付くとその何かにかけられた布をめくりその下にある着替えだろう布を見せ、軽く頭を下げてから、ザラップは出ていく。
その姿は流れるような動きであった。
「なんだったんだ?」
「さぁな。まぁ、まずは食べようじゃないか」
少々放心気味なジャンの背を叩き脇に置かれた食べ物に手を伸ばす。
うん、うまい。
~・~・~・~・~・~・~・~
『では、そろいましたので、これからについて話させていただきます。まずは改めまして・・・お疲れ様でした。あなた方の働きを鑑みてあの洞窟での仕事は本日をもって終了とさせていただきます』
「シュウリョウ・・・?」
「どういう意味だ?」
『終わったのです。あの仕事をもうしなくて良い。と言えば、分かりますか?』
食事をし、服を着替え、それを見ていたかのタイミングで現れた男に案内され、来た先には前を歩いていた元奴隷たちが待っていた。
現れた私たちに驚いた様子だが、これから何が起こるか分からないからか、何も言ってこなかった。
そうこうしているうちにザラップが現れ・・。
「おわった・・もうしなくて良い・・」
『はい、終わりました。これからは別の事をいくつかの中から一つ選び、その仕事をしていただきます』
「選ぶ?」
『はい、自分にあっていると思う仕事をしていただきます。決められないとおっしゃるなら、こちらの都合で選ばさせていただきます』
そして、告げられた仕事の中から私は・・。
~・~・~・~・~・~・~・~
「旦那!旦那!見えた!見えて来やしたぜ!」
・・・・あぁ。
「分かった!行く!」
寝起きの強張った体を伸ばし、デッキへと足を向けた。
外へ出れば、海と懐かしい故郷の風景。
デッキには多くの人が居た。
戻ると決心していた船人足(すぐに持ち場に戻るが)、そして洞窟作業を一年続けていた同僚や元奴隷たち(泣いていた)。
それに苦笑しつつ、もう一度陸地へと目を向けた。
少々建物が増えた気もしないでもないが、それぐらいの変化はあっても仕方ない。
あれから・・ダンジョンに囚われてから一年半。
私はダンジョンマスターが想定していた期間あの洞窟に留まっていた若旦那と同僚、元奴隷たちをダンジョンマスターからもらい受け、前の船より小ぶりの船を作ってもらい。
いくばくかの工芸品を買い取って・・・。
これを足掛かりに身を立て、商人として戻ってくる約束をし、護衛を付けてもらって。
船旅すること半年。
これからが忙しくなるな・・。
まずは、縁切りから始めなくては・・。
そう思い、後ろを見る。
そこには部屋の奥で震えている塊が。
「若旦那。家に着きましたよ」
「い、い、いえ?ついた?」
「はい、こちらに来て」
「いやだ!いやだ!うごきたくない!」
・・・はぁ・・
『エルヴィン殿、ご苦労様です』
「まったくだ」
不意にかかった声に返しつつ私はもう一度故郷を見。
これからを考えたのだった。




