とある商人の話 1.
気分が悪くなるような内容かも?
覚悟して読んでください?
「うわぁぁぁぁ!来るな!来るな!来るな!!誰か!誰かぁぁ!ひ!・・来るな!」
・・・・・はぁ・・・・
いつものように叫ぶお坊ちゃんの声に起こされた私はため息を吐いた。
そして、周りを見渡し・・・そこがいつもの牢獄であることを認識する。
そう、牢獄の中だ。
そして、声のした方を木材とツタで作られた格子越しに覗いた。
その先には頑丈そうな扉があり、そこがドンドンと激しく音を立てて揺れていた。
隙間でもあるのか、それよりも大声で叫んでいるのか・・。
岩とその扉はあまり音を遮断してくれないようだ。
そうしているとスーーっと目の前を幽霊がその扉まで進んでいき、中に消えて行き。
もっと悲鳴が大きくなって、静かになる。
「今日もか・・・」
「元気な事で」
向かいの牢獄から皮肉たっぷりの声がした。
そこには元奴隷たちがいる牢獄だ。
それに返す事はしない。
それをすれば、飛び火するのは目に見えて分かるからだ。
誰だって、自分がかわいいからな。
そう思い、私は奥へと行き、あてがわれた毛布をかぶり横になる。
同居人の一人はこんなうるさい中でグースカいびきをかいて寝ているのである。
羨ましいやら、あきれるやらである。
それだけ疲れているのか、神経がいかれているのか・・。
そんな事を考えながら私は今までの事を考えていた。
~・~・~・~・~・~・~・~
あれは旦那様からお目付け役として、目利きとして息子に付いて行ってくれと言う・・お願いという命令に従ったのが、ケチの付き始めだった。
行きでの散財に、因縁付けの後始末から始まり、文句の多いこと。
一軒しかない宿に泊まれば、あの宿で寝たくないと駄々をこね、馬車の車軸が壊れたのに、早く出せと馬車を揺らして急かし・・・。
女を買うと出かけ、あそこはブスしかいないとかその娼館の主人を怒らすようなことを大声で叫び・・。
その都度、私とここに寝ている同僚たちが頭を下げ、代わりに殴られ、貶され、取引相手には蔑まれたり、時には同情されたり・・・まぁ、今後取引はしないと言われたが・・・。
頭の痛いこと、痛いこと。
何とか死守した金で若旦那(呼びたくなかったが、そう呼ばないと怒る)に、目的の奴隷の目利きを教える段になって、商談相手に乗せられ、持ち帰りの厳しい女子供、病人中心に大量に買わされる始末。
何とかその場に集まっている知人の奴隷商に頼み込み交換してもらい、何とか数と男を確保はしたものの。
そんな奴らを運ぶ資金もないと奴隷用の馬車を渋り、病人、子供と男衆は歩かせ、途中で数名殺し・・。
女衆には何とか馬車を用意して。
でも、その女に手を出して価値を貶める。
何とか港まで戻ってきたら、残ったお金で食料を買い足そうとしたのだが・・。
そこでまた騒動。
あわや、殴られると思った瞬間、助けてくれたのが冒険者一行だった。
その人たちを何とか口説き落とし、他に数組の冒険者たちを雇い入れ、残していた奴隷たちに買ってきた者たちの世話を頼み、やっと一息ついた時・・嵐に出会い、多数の買い付けていた奴隷と共に二隻を失って。
今回は大失敗だ。
これで諦めよう・・私たちが奴隷として売られるのを覚悟した時だ。
それ以上に焦っていたのだろう。
さすがに怒られるのは嫌だったのか、若旦那はこの近くの村を襲って攫ってくるようなことを言い出したのだ。
私たちの奴隷商は奴隷との関係を良く持ち、品質が良い(この場合は算学や文字を読む書くなどから良く主の話を聞き行動できるぐらい)事を売りにしているのだ。
そして、それはある程度、良い環境で過ごさせたりすることで今までよりも良い環境だと錯覚させると言った技法を使う。
つまり、買ってきた者たちに不信感を抱かせた今までの扱いでギリギリ失敗になるのだ。
その上。
その上、村を襲い連れてくるなど言語道断な話である。
さすがにそれはいけない、旦那様を怒らせますと声高に止めるのだが、その時、誰かがいったのだ。
この近くに亜人の村があったはずだと。
そのまま坂を岩が転がるようにドンドン私たちを置いていって話は進み、その村を探すことに・・。
見つからない事を願っていたのだが・・・。
すんなりと見つかり、計画通りに話が進み・・・。
若旦那も安堵したような余裕が戻ってきたときである。
船に異変が起こったのは・・。
ゆっくりと横に揺れだしたと思えば船が転覆したのだ。
これで死ぬっと思った時だった。
海の中で強く引っ張られ、気が付けば岸に打ち上げられていた。
その後は縛られ、連れて行かれた場所で不思議な少女と厳つい顔の威厳のある男が現れ・・・。
牢獄行きとなった。
ちなみにだ。若旦那は最初、私たち、付き添いと一緒の部屋だったのだが・・。
とことん罵声を浴びせ、罰として課された仕事もしない問題児という事で独房行きとなっていた。
そして、ここには時折スライムが出る。
からだを拭くためのスライムだと言う話で、だが、若旦那には強烈なトラウマがあった。
捕まった時にスライムに全身の毛を毟られ、裸にされたのだ。
その後、少女の冷たい視線にさらされ、何事もなく無視され。
彼には屈辱以外何物でもないだろう。
さて、話は戻って、そのままこの牢獄に入れられたのだ。
ただ、ここに来た当初とは入れられている檻は違っている。
最初それぞれ割り当てられる部屋を見て不思議に思ったのだ。
それは的確と言っても良いだろう割り当てだったのだから。
入口近くの片方の檻に買ってきた奴隷たち。
その前の檻にただの船の漕ぎ手たち。
その次少し進んだ所の二つには私たちが連れてきた手持ちの奴隷たちと冒険者たち。
そして、最奥に私たち、奴隷商人たち。
まるで罪がそれだけ重いと言われているようだった。




