とある奴隷少女の話 1.
「では、主様のお言葉を伝えます」
そこに集められたのは元々奴隷として檻に入れられていた者たちだけでした。
その前で獣人の・・ダンジョンマスター様の使いの方がピンと背筋を伸ばして立っています。
何とも不思議な服をまとったその人は全員が見ているのを確認するように見渡すと口を開きました。
「この一年ご苦労様でした。これより先は各々お好きなようにして良いとの事です。簡単に言えば、元の土地に帰りたいと言うならダンジョンの外へとご案内するよう言いつけられております。そこから先は費用はこちらで賄いますので、各々で冒険者を雇って帰っていただきます。また、この場に留まりたいと言う方がおられるなら、この、あなた方が開墾した土地と住む家を提供するとのことです。何か質問はありますか?」
「あ・・お・・あの!それはどういうことでしょうか?」
・・・本当にどういう事でしょう。
周りを見ても、何のことか分からないと言う顔の人たちばかりです。
「・・・どういう事か分からないのですか?」
「え、は、はい。」
周りの反応に彼女はそれ以上に困惑しているようです。
そして、彼女はどう答えたらいいのか分からないようでした。
「つまり、そなたらは自分を買い戻すぐらいの働きをしたとダンジョンマスター様が判断したという事だ」
横から聞こえてきた声に私は誰だろうと振り向きました。
そこに居るのは一人の私と同じぐらいだろう青年たちでした。
確か冒険者様たちだったはずです。
強い獣たちを持って帰ってくるのを見かけましたし、小柄な女性は良く町で見かけました。
買い出しに行った日とか、休みをとってこの地で出会った友達と色々行った日に見かけたんです。
決して、さぼったりしてはいません。
ちなみに私たちの仕事はここの元々の住人達と畑を作ったり、動物や食べれる草とか実とかを植えて育てることでした。
一通りするだけで一年たってしまいました。
ここにきて食べれる物がこんなにもあるのかと驚いたぐらいです。
は、それよりもその青年たちが、使いの方の横まで来るとこちらを見渡しました。
「あんたは誰だ?」
「あぁ、お、ゴホン。私はダンジョンマスター直ぎ・・様直々に、この村を預かることになったルトヴァーという者だ。聞きたいことは多いだろうが、それよりも!そなたらの身の振り方を、共に!考えようではないか!」
誰かの質問にその人は言葉を途切れさせながら答えます。
その言葉に周りはだんだん静かになっていきます。
正直、頭が痛いです。
考えたくないとも言います。
たった一年だけで私は自分を買い戻すほど働いたとは思えません。
大変は大変ですが、休めたり、怪我をすれば治療されたり、食べ物を見つける方法も教わったり。
食べれたり、ゆっくり寝れたり。
私が考える奴隷とはかなりかけ離れた生活を送ってきたのです。
学ぶことしかしていないとも言います。
それはもう、奴隷になる前の生活よりも充実した生活です。
分からない事も多かったですが。
えいせいとかいう物のためと言われ、必ず三日に一日は湯あみをさせられたり。
これは人によっては毎日入っていました。
長生きするためと言われ、木・・だと思う何かの小さな刷毛で食べた後、歯を掃除するよう指導されたり。
私は恥ずかしながら一日に一回しかしてません。
「おい、そなたは家族と話さなくていいのか?」
不意にかかった声に私は顔を上げました。
そこには先ほどの青年が眉をひそめて立ってました。
慌てて周りを見るとあれほど居た人たちはもう家に帰ってしまったらしく誰もいません。
「あ、・・・えっと・・その・・」
「ん?・・・聞いてなかったな?まぁ、良い。まずは考える時間が必要だろう。まずは家に帰ってゆっくりと考えることになったのだよ。」
しどろもどろになった私に彼は吹き出しそうな顔をしてから先ほど言ったのだろう言葉を言ってくれました。
なるほど。
だから、皆さん帰ったんですね。
と言っても、私の結論はもう出ています。
「でしたら、私はここに残ります。帰っても家・・無いですから」
にっこり笑いながら言いました。
改めて彼の顔を見るとなぜか今にも泣きそうな顔をしています。
それになぜそんな顔をしているのでしょうか?
「あ、でも。ここが新しい家なんです。家族は・・居ませんけど。友達だってできたんですよ。て、何言ってんだろ。あ、私も帰りますね!」
慌てて私は家に向かって走りました。
でも、何であんな話したんでしょうか。
あんな話しても何か変わったとは思えないのに・・。
ただ・・彼の悲しい顔見たくないなと思ったんです。
~・~・~・~・~・~・~・~
「ただいま帰り・・ましたです」
いつものように声を上げ、家に誰もいない事を思い出してしまいました。
そうです。
私は一人でした。
その事を思い出しながら・・・料理をする気も起きませんが・・・。
外で食べる気もしないので、いつものように台所に足を向けます。
そこにあるパンに角羊の乳から作ったチーズをのせ、買ってあった乳を添えて食べました。
あんな話をした後だからでしょうか。
いつも以上に奴隷になった時のことが良く思い出せました。
そう、あの日は・・・。




