とある冒険者の話 5.
この人の話はここで一旦終わり。
「ふぅ・・・・お腹・・いっぱい・・」
エレナのうっとりとした顔でポツリとこぼした。
それにガストンも頷いている。
そんなこと言いながらも、盛られて置かれている果物にエレナは手を伸ばすのはどうしてだろうか・・。
まぁ、あれだ。
果物は別腹なのだろうか・・。
それはそうと・・・どうしたらこんな味になるのだろうか・・。
出てきたのは、お馴染みの黒パンと肉や野菜が入っているスープだ。
このダンジョンでは、よくある一般的な料理と言えるだろう。
自分で作るとあまりおいしいとは思えないのだが、今回のは本当においしかった。
「さて、食べ終わったし。一応、これまでの経緯を《おさらい》しようか」
「は?ここでか?」
そう言って周りを見渡した。
そこはそれなりに広い・・・数十人が座っても大丈夫な机と数脚の椅子が並んだ部屋である。
話し合いに使うような部屋である。
たった5人で使うような部屋とは思えないのだが。
「こういう所だからいいのだ。何か考える時、籠っていてはあまり良い案は出てこないのでな」
「そういうもんなの?まぁ、良いけど」
エレナの一言に俺も頷いた。
「では、ここに来るまでの話を・・・」
そう言うと横を見る。
そこには片づけをしていたリアーナが。
それに気が付いたリアーナはどこからか皮紙を取り出し。
『ザラック様から聞いた話はここに』
その皮紙を見せてくる。
そこには要点のみが書かれた紙だった。
「なに・・書いてんの?」
エレナは首をかしげる。
そう言えば、ここで読めるのは俺か、ザラックだけだろう。
そう思い、その皮紙を取り、読み上げるのだった。
~・~・~・~・~・~・~・~
さて、書いている内容は本当に簡潔である。
まずは俺たちの国が滅亡したあたりからここに来るまでの経緯。
そして、ここにきてからのザラックの生活。
その間にあった出来事が書かれている。
まぁ、大まかに言えば、だ。
ザラックのお願いから山奥にある幻の花を探しに行って、山の主だろう大熊退治に発展。
帰ってみれば、村々が焼かれ、城は落とされた後だった。
で、城に戻ろうとしたところで逃げてきた城の兵士たち、国民たちと偶然、遭遇。
陥落を知る。
妹、弟たちはなんとか逃げ延びたが、兄たちの行方は分からないらしい。
そこで、その兵士たちと逃げる事を選択し、攻めてきた国とは別の隣国に落ちのびる。
だが、そこは攻めてきた国と手を結んでおり、国民と兵士は逆にとらえられる。
兵士の咄嗟の機転で、旅の冒険者として扱われることに。
そこで、冒険者の道を歩みだす。
その国で冒険者家業をしつつ、家族の動向を探るとどうやら父と姉は囚われの身に。
そのまま風の噂で攻めてきた国の王の妾になったと言う話であった。
そして、兄たちには懸賞金が賭けられ、隣国には手配書が回っていた。
妹と弟たちは捕らえられたものの、姉の計らい、それとも姉の機嫌取りなのかもしれないが一緒に暮らしていると言う話である。
それを確認してから俺たちは話し合い、いつばれるか分からないこの国を出て一路海の向こうへ行くことに。
隣国の隣国の隣国。
俺の国とは別の港を持つ国に入り、途中で魔物が出て困っていると聞けば魔物退治。
盗賊に出くわせば、盗賊狩りして資金を調達しつつ港町へ。
そこで、漁師にケチを付けていた胸糞悪い商人を見かけ、あれじゃ怒るのも無理はない考えていると。
連れが平謝りをしだし、だけど、その商人それが当たり前と一言こんな卑しい奴に下げる頭なんぞ持ってないと言い放ち・・。
ひょんなことから平謝りしていた連れを助けることに。
お礼がしたいと言うのを断ろうとしたが、ザラックが話を付けるとそいつらの護衛をすると言う依頼を受けることになっていて。
あれよ、あれよ、という間に船の上。
退屈しのぎにと話を聞けば、あの胸糞悪い商人はそれなりに良心的な奴隷商のバカ息子らしい。
人道的な商売をすると言う話だが、どう狂ったのか息子はこのありさま。
一度仕事をさせたら何とかなると思ったのか、ある程度は筋道を立てた大口の商談にそのバカ息子とそのお目付け役を付けて向かわしたのは良いのだが、その奴隷の扱いもひどくほとほと困っていたのだと言う。
そんな話をしつつ・・だが、その商品だと言う奴隷を見ることができずに数日後、嵐に出会う。
俺たちの乗った船を含む三隻は無事だったが、残りの二隻が無残にも粉々に。
船員も奴隷たちも海の藻屑となったようで・・・。
それに慌てたのが商人だ。
このままでは父親に怒られるとかなんとかお目付け役たちに当たり散らす。
そこに護衛の一人が一言漏らしたのだ。
この近くに亜人たちの巣があったはずだ。
前、この海域を通った時見たことがあると。
そこで見つけたのがこのダンジョンだった。
護衛たちと腕の立つ奴隷(売り物ではなく商人個人所有の)が騒ぎたて、その裏で数名の奴隷が攫うと言う話がまとまり、渋々俺たちも出て・・・。
途中までは順調に進んでいた。
烏合の衆と言っていいだろう亜人たちを叩き伏せることは簡単で、こちらにも油断があったのかもしれない。
突如として吹き荒れた風に翻弄され、船は横倒しになり、船に乗っていた者たちは全員捕まる事に。
亜人たちの真ん中に奴隷も商人も護衛の兵士たちも関係なく引き出されこのまま殺されるかと思われた時だった。
大量の兵士と大柄の貫頭衣を着た人間とフードを部下に被った幼い人間らしき何かが現れたのだ。
兵士・・なのだろう。
ゴブリンや小人、獣人から大柄な亜人と言った種族がバラバラなのだが、同じ装備しているのだ。
今更だが、周りを取り囲む亜人たちと俺たち囚われの身の人間の間にも同じ格好の亜人たちが等間隔で立っており・・・亜人を近づけないようにしていた。
不意に甲高い、だが体に響くような声が轟く。
それに続いてシャランと音がしたとたん、地面が揺れ。
俺は慌ててそちらを向いた。
そこに立っているのは子供の大きさの何か・・ダンジョンマスターが立っていたのだ。
黒のローブにフードを目深に被り、透けるような黒の糸で編まれた布で顔半分以上覆った子供。
そのローブは所々に銀糸・・だろうもので質素な刺繍がされている。
パッと見て強烈な印象は無いし、目の前から消えれば忘れそうだが。
何か目の離せない印象だった。
そこから罰を与え、許し、仲良く暮らしました。
と、こんな話が書かれている。
それを全て声に出して話せば・・。
「うん、そんな話だよね」
「あぁ。そうだな」
「それで?これからどうするんだよ」
『偽りは・・・ないのですね?』
三人が三人とも同意すると、リアーナはこちらを見て真剣に聞いてきた。
なぜそんな事を確認するのか不思議に思いつつ・・。
「あぁ、そうだな」
そう頷いて・・・。
「それじゃ、人間代表は君にお願いするよ」
不意にかかった言葉に俺は振り返る。
そこには幼い少女が立っていたのだった。




