52.
一旦深呼吸してから私はしっかりと前を見て声を張り上げる。
「まずは、この神殿に住みし、我が民たちよ。我の手際が悪く、多くの者を死なせてしまった。心からお詫びを言わせてほしい。すまなかった」
軽く頭を下げ、謝罪する。
それに動揺する声が聞こえ、それよりも大きな声の喚き声が目の前で上がった。
「は!これが獣共の親玉か。化け物共にふさわしい醜い顔をしているのだろう!だから顔を見せないと見える!それに見ろ!我々を捕まえて頭を下げ謝ったぞ!それぐらいわかっているなら捕まえず我々に素直に化け物共を引き渡せば良かったのだ!そうすれば」
シャラシャララ
「はて、この愚か者は何を言っておるのか・・・分かるか?レイアード」
「さぁ、分かりかねるが・・不愉快な事だろう。このような奴は・・こう掻っ切れば良いのだ」
鳴杖で喚き散らした男を差すとギョッとした顔でこちらを見てきた。
なぜ驚くのか分からず首をかしげつつ、先生に問いかける。
名前で躓かなかった私をちょっとほめてやりたい。
それに答えるように言う先生は首を掻っ切るようなジェスチャーを。
何を言われたのか分からなくとも・・と言っても私も先生も世界の言葉は理解できるし、話せると言うか翻訳されるので彼らはしっかりと理解しているだろうが・・そのジェスチャーを見て顔が白くなってワナワナと震えだした。
後ろではお許しが出たと勘違いしたのか数人、彼を取り押さえ首を掻っ切るために前に出ようとして。
「待て!それでは一瞬ではないか・・口は塞げても屈辱は与えられん、だろ?まぁ、こういう者からしたら死よりもあれかもしれんがな」
指を鳴らし、それに合わせて目の前に召喚して見せたのは数匹のスライムだ。
森のダンジョンから呼んだ数匹である。
それらはコアの指示だろう、一回高々と飛び跳ねてから一目散に暴言を吐いた男に群がった。
と言っても前にも言ったかもしれないが、こいつらは生き物は基本食べない。
食べるのは死骸に枯れ葉などであって、つまり男から垢や毛、服をはぎ取るという事になり・・。
数分もしないうちに全身真っ赤にしたツンツルテンの男が出来上がっていた。
ただし手を縛っていた紐は対象外に設定していたのだろう、縛られたままで身を丸めて見られないようにして見上げている男と目が合う。
じっくり何も考えずに見てから何もなかったようにふるまう。
その様子を見ていた周りはガタガタと震え、戦ていた男たちもガチガチと歯を鳴らしていた。
恐怖したならそれでいいか・・。
その奥の人たちは何が起こったか分からないようだ。
まぁ、それは面白くない・・が・・・。
「さて・・レイオード。こやつらをどうこうするのは明日、式典の時にしようと思うのだが・・・」
「承知した。こいつらを檻へ繋いで置け。お前たち!喜べ!明日は大事な日ゆえ!生かしてやる!連れて行け!」
私の提案に先生はうなずくと、後ろに控えていた人に声をかけ、いつもより恐ろしい声を張り上げた。
それに一度ビクッとして息も荒くなる連中を騎士たちが引っ張り連れて行こうとし。
「おい!待てよ!」
周りにいた人たちの間から一人が声を上げた。
幼い顔の・・小人系の少年だ。
怯えた顔ではあるがこちらをジッと見ていた。
たぶん怒っているのだろう。
「なぜ!てめぇみてぇなガキが俺たちに命令すんだ!それに!レイオード様になんて口の利き方しやがる!誰か知らねぇが!そうだ!さっきみたいな変な術でレイオード様達を騙しているんだな!」
・・・・あぁそうか・・・こういう面倒なことが起こるんだ・・・。
さて、どう説得するべきか・・・・。
そう考えていると私の裾を後ろから引っ張る何かが・・。
「おい!どこみてやがる!やっぱりやましいことがあるんだろう!」
「おい!こら!ケイン!やめろ!」
「うるせぇ!みんなだって気になるだろうがよぉ!」
そんな会話を聞きつつ、後ろを見るとそこに居るのはリアだった。
その腕には何かが布で隠されており・・。
『マスター。私が出ます』
かすかに聞こえてきた声に私はうなずいた。
ただ・・文句言っているこいつに通じるか分からないが・・・。
「・・・明日、式典にて話すつもりでは居たのだが・・これでは支障が出るな。皆の者聞いてくれ!」
先生がちらりとこちらを見て、ため息交じりの・・芝居かかった言葉をつぶやく。
それに捕まっていた連中とその場に集まっている人たちの目がこちらを向く。
「ここに居られる方はこの神殿の新しく迎える主!リナ様だ!」
その言葉に続いて後ろから急に光が差す。その光源が私の周りを二、三周飛び、鳴仗の上に降り立つようにとどまった。
それを見た数名からは感嘆の声が上がる。
ほとんどは何だと言う顔だが・・。
「ただの光る玉じゃねぇか!レイオード様!何言いだす!!!!いてぇ!!!」
「ケイン!黙れ!あれにあられるはご神体様だ!」
「いてぇな!じじぃ!なにねごど!」
「あれにあられるはご神体様だと言っているんだ!馬鹿たれ!この神殿で一番大事な物だと言っているんだ!ここ数百年お目にかかることが無かったが・・あの方があらわれたという事はだな!この神殿が前のようになるという事でだな」
「前って・ぉ・いてぇ・じじぃたちの寝言じゃねぇか・・ぃ!何でもねぇ!何も言ってねぇ!」
感嘆の声を上げた人たちなのか、その人たちが周りに涙ながらこの神殿が蘇るぞと声を上げる。
それになんと反応していいか分からないと言った感じの周りは呆然とこちらを見ていた。
長生きの人種の年寄りたちと、短命な人種と若者たちの違いがここに出ている気がする。
それとは別の反応を示したのは捕まっている連中だ。
ほとんどは周りと同じ反応だが武具を持っていた連中の目はギラギラしだし、他の連中は今まで以上に怯えが見て取れた。
それが何か周りよりも知っているようだ。
「さて!これ以上は目の毒であろう。エアリア。先に帰っておれ。」
『はい。承知いたしました。主様。また後でお会いしましょう』
エアリアは周りに聞こえるように声を上げると頭を下げるように少し上下したのち強く光って姿を消す。
ように見えて、後ろのリアの手元に戻った。
たぶん、見られてはいない・・だろう。
「では、我も城へ戻るとしよう。あとのことは任せたぞ。リア、行こう」
『はい、仰せのままに』
身を翻し、先生に面と向かって一言言ってリアと数人の騎士を引き連れ家路につくのだった。
あぁ・・・疲れた・・・・・。
あとは野となれ山となれ!だ・・こんちくしょう!




