42.
振り返ったそこには頬をポリポリ掻いているタマが。
『「「「誰!(だ!)(っす!)(ですか!)」」」』
見事にシンクロして詰め寄る私たちにタマはのけ反った。
ガタン!
・・・・・・・・テーブルを叩いたような音に私も先生たち(行者しているギルバさん除く)も、音のした後ろを見、荷台の台の板と板の間に指を食い込ませ顔の見えない頭半分が覗いていた。
もう片腕を振り上げ荷台に叩き付け・・。
「ん?あ、やぁ、初めまして。お嬢さん何しに来たの?」
少しでも離れようと背中の板に体を寄せ何もしゃべれない私の頭をポンポンと叩くとタマは彼女に声をかけた。
大きくはない声なのに届いたのだろうか、タマのはなった言葉にその女性の動きが止まったように見えた。
ギロッとタマの方を見、周りを二回ほどゆっくり見渡してこちらを見る。
顔を上げたその唇は微かに動き出し、最初はか細い音が聞こえてきて・・。
『許さない・・許さない。殺してやる。許さない。許さない、許さない!ここはあの人と私のダンジョンよ!たかが使い捨ての駒に渡すのも嫌だったのに!!他の人の手に渡るなんて!許さない!許さない!消してやる!許さない!!許さない!!!!!』
甲高いヒステリックそうな声がその場に木霊した。
ゆっくりと這い上がりそのままずるずるとこちらに迫りつつ、あの人が返ってこないこととかあの人が冷たくなったこととかが私たちのせいだと言う言葉が・・・繰り返す許さないや殺すと言った言葉の間に挟んでくる。
あぁ、言葉が通じない相手だ。
何でもかんでも自分の道理が通らないと相手のせいにするそんな感じの言動が続き、荷台の半分まで来たときだったろうか。
おもむろにタマは立ち上がり、ずいぶん揺れる荷台を普通の地面を歩くように進み彼女の顔の横まで来ると。
「馬鹿だなぁ。捨てられたことに気付いてないの?」
一言つぶやいた。
その言葉に彼女は素早く横を向く。
だが、そこに誰もいないように周りを見渡し、またこちらをキッと睨んでこちらへ這ってこようと手を伸ばし・・・。
「タ、タマ?」
私はすごくガラガラになった声で声をかけるとタマは笑顔で手を振って、彼女は視線をこちらに向けた。
今度は見えているようでこちらに進むために動こうとして・・。
タマがその彼女の胸あたりの背中に手を突っ込んだのだ!
そのとたんに獣の怒鳴り声のような悲鳴が響き、抜き出したタマの手に玉が握られていた。
それはタマやコアのコアと同じように輝いている。
だが、色合いは黒とか紫とか暗い色を合わせた様な輝きだ。
「あ~ぁ、もう。こんなになっちゃって」
『離せ!離しなさいよ!誰よ!私を抜き出したのは!!』
「ん?良いじゃない?そんな事それよりも・・リナちゃんこれ触って?」
「え?」
『!離せ!!!!誰が!こんな』
「ミラエアか?」
『ミラエア様と言いなさい!裏切り者が!それよりもマリア!この手を離させなさい!私を開放しなさいよ!使えないわねぇ!』
ゆっくりとこっちにきて、いつもの笑顔で抜き出したコアを突き出してくる。
突きつけてきたコアとタマを見比べていると先生が唖然としながら声をかけると離せ!離せ!とコアが狂ったように金切声を上げた。
どうやらこれがこのダンジョンのコアらしい。
ギルバさんが速度を落とすのを感じながら私は手を上げ、それを見ていたタマはニコッと笑うとゆっくりその手にそのコアを当てた。
『いや!いや!やめて!!いやあ!・・表の人格停止。所有ダンジョンマスターの書き換えを開始します。・・・・・・・終了しました。これより森のダンジョンと接続します』
『神殿ダンジョンの接続を確認しました。データをダウンロードします。・・・しばらくお待ちください・・・』
「あとはコアに任せてっと・・・確かそろそろコア同士の接続は終了かな?・・ん、してるね。さてと・・・確かここらへんに・・・』
「な、何が起こってる?」
「私に聞かないでよ」
目の前と耳元から聞こえる声に呆然と眺め、今更だが、馬車が止まっている事を気付く。
それは置いといてボーッと座り込みミラエアを見つめてぶつぶつを言うタマを眺めていたら肩をつつく手が。
そっちを見ると先生が困惑した顔で聞いてきた。
マリアさんも呆然をタマを見ており、ギルバさんもこっちを振り返って何が起こるか見守っている。
「あ、あった、あった。ここをポチッとな。っと」
『現人格を放棄。初期化開始します。・・・初期化完了しました。再起動いたします・・・・』
「やぁ、おはよう?」
『おはようございます。森のメインコア。初めましてマスター、その配下の皆さん。私はこの神殿型ダンジョンのメインコアです』
耳元のコアのしばらくお待ちくださいと言う言葉を聞きつつ、声をかけても良い物か分からず見ているとタマは声を上げ、見た目では何かした様子はないのにミラエアのコアから聞こえてきた声にビクッと反応してしまった。
その後に続いた言葉にポカーンとミラエアを見てしまう。
何というか何も知らない清楚な女性のような声だった。
すぐに私は先生たちを見渡した。
だが、三人は唖然として声も出ないと言う風だ。
ポカンと口を開けてコアを凝視していた。
まぁ、あんなのがここまで変貌したらこうなるか?
『いかがいたしましたか?』
「ん、んん!何でもない!初めまして。私はリナ。あなたのマスターよ。君、名前は?」
『リナ様ですね。私の名前・・・ですか?・・・ございません。あったような気がするのですが・・・リナ様、私に名前を付けていただけませんか?』
「え?・・・えぇっと・・・エアリア!エアリアでいいんじゃない!」
思わず似た響きの名を口にする。
この状況で元の名を与えるのも何か変な気がしたのでこれで良いだろう。
ただ・・ふと同じ人格に育ちそうで怖い気がした。
無いよね・・・有るかなぁ・・・いやだなぁ・・・。




