40.
※ちょっとだけ暴力シーンがあります。
さらっと読んでください。
何も話してくれない二人だったが、しばらくすると先生は重い口を開いた。
「なんというか・・・あれだな・・過保護な親だな・・」
『それか纏わりついてくる妻と言えばいいのでしょうか』
「・・・・・」
その言葉に山を見上げているタマを見る。
ダンジョンコアと言うのは似通った人格を持つ物なんだろうか?
と言うか、これの女バージョン?
「いや、こいつよりもっとひどいぞ・・」
『まだ、タマ様はお嬢様の意見を聞きますから・・』
「はぁ?て、何?!何で僕を見てんのさ!」
私の視線の先に居る人物に気が付いた先生とザラップがため息をついて言う。
その声に魔水晶の山に興味津々なタマは振り返り話題の中心にいる事に気が付くと抗議の声を上げた。
と言うか、これも相当親バカしている気がすんだけど・・。
『あの方はあれですね。彼の方のする事には何であっても口を出してくるのですよ。お茶をどうぞ。彼の方も最初の内はありがたいと言っておりましたが、旦那様を迎え入れる頃にはどうやったら遠ざけることができるかとその事ばかり考えているようで・・・』
いつの間にかマリアさんが紅茶のカップを渡してくる。
どうやら、前のダンジョンマスターと一番長い付き合いだったのはマリアさんだったらしい。
それはそうと、聞くだけでうざい気がしてきた。
「ちなみに前のダンジョンマスターってどんな人?」
『お嬢様もそうですが、立派な人ですよ!どんな種族でも分け隔てなく迎え入れてくださるお優しい方です!』
『そうでいて、攻め入ってきた者には無慈悲に思えるほど厳しい方でした』
「使えそうな者は敵だったとしても戯れと言って蘇らせるような奴だったがな・・・」
『それが彼の方の優しさなのですよ!それにあの時は』
「あぁ・・、すまん、すまん。そうだったな」
あぁ・・・先生は遠い目をして、ザラップは一つため息をつく。
その一方で目をキラキラさせて力説するマリアさん。
話をまとめると己が配下を傷つける者は許さない博愛主義の人と言った感じか・・。
違うかもしれないけど、自分に似たタイプだろう。
そして、コアは自分とマスター以外屑か捨て石ぐらいしか思ってないと来たか・・。
こりゃ、反りが合わないどころか混ぜるな危険な気がする。
ちなみにエアリアが行ったことを上げると
一、マスターが外へ出るといえば、モンスターを100体ほどだし、外の危険だと思う者を一掃し、外の環境めちゃくちゃにした。
二、ダンジョンを改装するといえば、一から作り直し、その層に住んでいたモンスターを全滅させた。
三、攻めてきた事を配下全員に知らせ不安を煽り、交渉をせず配下の自由意思で攻防戦をさせ、大損害を出した。
と言った様な事らしい。
そんなこんなである日、このダンジョンの一部機能を先生に譲るとだけ書かれた書置きだけを置いてどこかに出かけていったらしい。
それに気が付いたエアリアは半狂乱で探しまくったが自分の及ぶ範囲には見つからず部屋に籠ってしまったのだそうだ。
それからずっと先生たちがダンジョンを仕切ってたらしいが、ある時を境にDP変換が行われず、慌ててエアリアを問い質したが返事が無く・・・仕方なく今の形で運営していくことになったそうな。
と言うか・・・あら?
先生は私の部下で、でもそのマスターの部下でもあるという事で・・・。
と言うか、そもそも私から見たらそのダンジョンはどういう扱いになるんだ?
「あれぇ?」
「ん?どうしたの?リナちゃん」
「タマ。んっとねぇ・・・先生は今は私の部下なんだよね?」
「ん?そうだねぇ」
「でも、前はそのダンジョンマスターの部下で今はそのダンジョンの主なんだよね」
「・・・そうなるねぇ」
「じゃぁさ、『完了しました。継続して行うなら次の対象に触れてください』と、無いよコア」
『魔素の回収を終了します』
「で、ここをこうっと・・みんな回収終わったよ」
「お、やっとか」
『では、点検してきます』
「あ、待って!さっきの話!できればそうねぇ、50ほどこっちに。あとは使えない使えるで分けて保管で」
『承知いたしました』
「他になんかある?」
『いえ、特には』
「じゃぁ、お願い」
一斉操作で魔水晶の設定を変え、声をかける。
その声に合わせてザラップが一袋を抱え部屋へ行こうとするのを呼び止め必要以上の数をお願いした。
ちなみに点検と言うのは傷の有無を調べるという事らしい。
魔水晶と言うのは魔素を吸収し排出する過程でどうしても歪むらしい。
その歪みが大きければ内部に亀裂が生じ、それが広がってやがて破損するそうな。
ちなみに限界ギリギリで運用なども悪影響らしい。
そこでまずは目視で、次に光にかざして投影される映像から傷の有無を調べるそうである。
それで安全かと言えばそうでもないが、使用時に割れると言ったことはないらしい。
と言う話は置いといて・・。
さっさと部屋に戻り、マリアさんが改めて入れたお茶をすすりながらさっきの話を思い返す。
やはりわからない。
分からないなら聞くべきである。
「それでさ、先生に聞きたいと言うか、確認したいことあるんだけど」
「なんだ?」
「んっと・・先生は私の部下なんだよね」
「あ?何をいまさら」
「じゃ、先生のダンジョンは私にとってどういう物なの?」
「・・・・・・あ・・っと・・・お前の物・・なのか?」
「あぁ、そういう事ね」
先生も考えた事無いようで首をひねる。
だが、何か納得したと言うニュアンスの声が隣で上がった。
見上げるとそれはタマだったようだ。
先ほどから私が何に疑問を持っているのか分かったようだ。
「タマは分かるの?」
「まぁね、コアの常識だし」
「常識?」
「そ!まぁ、まずは先生の疑問の答えからね。端的に言えばノーだよ」
「私の物じゃない?」
「ん。そんでもって他のダンジョンをリナちゃんの物にする条件は立った一つ。あ、自然発生的なのは除いてだよ。そのダンジョンに入って、その頂点の人を倒すか配下に入れる事だけなんだ」
「・・はぁ・はい?」「・・・・ほぉ」『・・・・』
ニコニコといつもの調子で喋るタマの説明を聞き生返事を先生と共に漏らし・・・その意味が分かろうとして思考が停止する。
それはつまり・・・・。
「つまりリナちゃんが先生のダンジョンに踏み込んだら自動的に、そのままそっくりリナちゃんの物になるわけさ!」
「・・・・・そんな重要な事さっさと話せ!!!」
『お嬢様。こちらを』
「え、マリア!え!うちょあだ!ちょ!リナちゃん!いた!殴らないで!うお!な!マリアさん!?先生も何!みんなして何さ!」
ちょうど持っていたのだろうか?マリアさんが渡してきた麺棒を使いタマを殴る。
それに続いて先ほどまで加熱していた気がするフライパンが飛び、部屋から逃げ出そうとするタマを部屋に押し戻す先生。
タマを追いかけまわしてどれだけ経ったのだろう。
「うぉ!なんすか!これ!」
しばらくして入ってきたギルバさんの驚いた声がするまで続いたのだった。




