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昨日の早朝、12層にある奥の森の中。
そこにポツンとある小屋の前でジゼンを含む特殊部隊の2班と3名のメイドが整列し、そしてザラップ様とレイオード様、マリア様の前で緊張を強いられていた。
ちなみに他の特殊部隊は夜の見回りをしていたり、巨体のために連れていくことはできないと断られたりと様々な理由で通常任務に戻され、残ったのは総勢10名であった。
つまり、この場にいるのは計16名となっている。
あの後も見回り組が運んできたのだろう。
保管箱は1つ増え、2つになっていた。
ジゼンたちはこのまま箱で運び入れるものだと思っていたのだがそうではないらしい。
レイオード様の言うには、向こう側の入り口は狭く箱のままでは運び入れられないこと。
保管場所にするつもりの場所へ行く動線も人がすれ違うぐらいの幅しかないということであった。
そういうことで袋を担いで運ぶことになったのだった。
初めて行く転送門の向こう側は普通の部屋であった。
そこは本来広い空間ではあるだろうと推測できるのだが、物が置かれた棚が全方向の壁にあり少し狭いと言う感覚を持つ部屋だった。
そこに我先にと突入していったのだからもっと狭いことになっていた。
そこで待っていたタマと名乗る男の案内でジゼンたちは一度運び入れる部屋まで行き、もう一度転送門まで引き返す。
シンプルな動線というべきか、ずいぶん分かりやすい道のりだ。
神殿みたいに行きの道を帰ろうとしたら罠に襲われたり、道自体に幻覚の類がかかっていたりしないため周りを見回す余裕さえ出てくる。
見回して思ったことは地方貴族の屋敷と言われればそうだと思うし、地主の屋敷と言われても頷きそうだということだった。
少し頑張ればちょっと豊かな庶民だったらもてそうな家であると思う。
そんなことを考えながら数度往復したころだろうか。
指定された保管部屋から廊下へ出たとき、その人を見たのだ。
その子はあんぐりと口を開き、こちらを、正確にはこちらに歩いてくるザラップ様の背を目を見開いてみていた。
そのまま固まっているのかと思ったのだが、すぐに何か気付いたのだろう。
そのまますぐに下へ降りていく。
その後、しばらくしてジゼンはもう一袋担いで転送門から出た時に扉の向こうから悲鳴が響くのを聞いたのだ。
慌てて出ればそこにはアレクとヴェーロが重なり合って倒れていた。
なるほど、ヴェーロの頭は遠くにあり、アレクはバラバラ、普通に考えればそれは怖い光景だろう。
だが、同じ部隊の者には見慣れた光景であった。
ジゼンはため息をつきながらもいつものようにアレクを助けていたころに突然聞こえたため息。
振り返ればそこにマリア様がいたのだった。
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生まれて初めて紹介されたダンジョンマスターは人であった。
それも幼子と言っていい子供である。
そして先ほど見た子だった。
その子は高い声を無理やり低い声にしているような怒ってますと全身でしているところがかわいいなんて思えるほど幼い子供であった。
だが、言っていることは何となく分かる気がした。
普通の子供の前に見たこともないそれもお化けが突然現れたらそれは怖いだろう。
事前に話をしているものだと思っていたのだが、そうではなかったらしい。
そんな子供の勢いにタジタジになるレイオード様。
その様子にまともな回答が返ってこないと思ったのかその標的をザラップ様にぶつけた。
そのあとはスラスラと答えるザラップ様に怒りが静まったのか真剣な顔でいろいろと指示や質問が飛んでくる。
そこには違和感が残った。
レイオード様よりもあれだ。
しっかりしているというところがとても違和感があるのだ。
なにせ、見た目がやっと自分の足で歩き回れるようになったぐらいの子供なのだ。
それが子供用の椅子に座って、レイオード様たちと対等にそして真っ当なことを話している。
一切の幼児言葉が出ずに。
そして最後にニコッと笑うと一つの命令を出した。
「偵察してきてほしんだけど獣人かゴブリンで行ってきてくれる人見繕える?」
それにザラップ様は迷うことなくジゼンとワガーの名を挙げたのだった。
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その日のうちに食料や水などや必要な道具をそろえ、4匹の狼と4匹のスライムたちを連れて夕方近くに出て少し、ダンジョンを抜けると分かりやすいぐらい違った森が広がっていた。
草は枯れかけ、地面がむき出しの場所も目立つ。
木々にも夏真っ盛りのはずなのに元気がない。
そんな中を進んでいき川を越え、日がそろそろ崖の向こうに差し掛かる頃、ちょうどいい倒木を見つけ出しそこで野宿をすることになった。
ジゼンは落ち葉をかき集めその上に焚き木を組み、火打石で火を起こし、焚き火をして、魔水晶を設定する。
その間にワガーは倒木近くに落ち葉をかき集めその上に毛皮を引く。
それで寝床の出来上がりだ。
あとは虫よけの草を焚き火の中に放り込んで調理をするだけになった頃だった。
スーッと寒い風が吹いたような気がした。
ジゼンは何気なく顔をあげるとそこには見慣れない顔が浮かんでいた。
そう浮かんでいたのである。
焚き火の火に照らされた顔だけがそこにあるのだ。
だがその顔はそれ以上は近づいてこない。
魔水晶の範囲ギリギリだったからだろう。
「ワイトじゃん。そういや旦那たちの話じゃ、グールも居んだからそりゃワイトも居るよなぁ」
「そぉっすね。まぁ、一晩ぐらいならこれ1個で何とかなるっすよ」
近くにある魔水晶をポンポンと叩く。
前にも言ったが魔素によって変異した生き物はその濃度が極端に低い場所には近づかない。
理由は簡単で彼らにとって魔素とは言ってしまえば酸素のようなものであるからだ。
ある一定量以上の急激な変動は体に支障をきたすのである。
普通に暮らせる環境があるのにわざわざ苦しい思いをする必要はない。
だから、近づかないのである。
それは魔導生物特に本能に忠実なグールやワイトはその傾向が強いと言われている。
まぁ、突入したらグールでもワイトでも昇天するので仮に襲ってきても大丈夫。
と考えつつ、のんびりと野宿を楽しむのであった。




