32.厄介人物いらっしゃ~い・・・-3-
まずは話の整理をしよう。
とは言っても、長老とは話し合いにはならなかったというのが私の意見である。
長老は先生が現れてからずっとまくしたて、こちらの話など聞く耳持たなかったのだ。
よって先生はそのまま言いたいことを言わせていたというのが今回の話し合いの内容である。
その中から拾えたことと言えば、
一、岩玉様は我々の物だ。
よってすぐに返せ!
二、岩玉様の使いになれるのは我々ゴブリン族だけだ!
よって偽物はさっさと出ていけ!
出て行かなければ殺してやる!
三、本当に岩玉様の使いならば、岩玉様を世話してきた我々に感謝し、直ちに我々の要求をかなえろ!
である。
他の要求はいろいろあったが、一番はこれだろう。
この森は元来自分たちの物であったので今居る者たち(人の姿をした種族)を追い出せと言うものだった。
無理にもほどがある。
この主張を言い方を変えて繰り返し・・四、五度目でタマがぶちぎれた。
あのほんわかしていると言うか切れるなんて言葉が出てきそうにないあのタマがである。
うるさいとスピーカー越しに聞いても腹に来る低いドスの効いたと言うべき声が聞こえた時は「あの長老、連れに怒られてやんの」と思ったぐらいである。
その後に聞こえてきたタマの軽い謝罪であれを言ったのがタマだと気付いた時は驚いた、驚いた。
一瞬その時してた作業内容を忘れるぐらい驚いて、スピーカーを見ちゃったもん。
そこから先はスムーズだった。
たぶんタマの謝罪の中で分かったことだが、タマが魔法を使って、長老を眠らせたからだろう。
うるさい上司が居なくなったからとこいつに逆らったら何されるか分からないからだと思うが彼らの口は良く回った。
なぜこの森の他の者を追い出したいのかと聞けば、彼ら曰く
嘘か本当かは分からないが、伝承では数千年前までは人の姿をした住人はゴブリンだけだった。
そこに谷上から鳥族がやってきてここに住んで良いかと聞いてきたらしい。
ゴブリンたちは自分たちの分を脅かさなければ良いと言って住まわせた。
そこから鳥族に聞いた昆虫族がやってきて、次に山から狼族その他の獣人、海側から魚族が続々とこの森に住みついてしまったのだという事らしい。
これを聞いた時、ゴブリンでも歳月の数え方を知ってたのかと驚いてしまった。
まぁ、これも横に置いてだ。
岩玉様はゴブリンの物なのかという質問をすれば、岩玉様の使いはゴブリンの前に現れるからという答えが返ってきた。
ここで何か聞くべきかと先生が口を閉じ、沈黙がその場を支配した時だった。
今まで黙って聞いていた巫女が骨休めに岩玉様の昔話をしましょうかと言い出したのだ。
それは良いと言う話で(タマはかなり反対したが)聞くことになった。
他の種族が移住してきてから数千年。
その頃に今のように食料が確保できず、それ以上に木々が生きたまま腐り始めたという異常が発生したというのだ。
その頃には横柄な態度を取っていただろうゴブリンたちは嫌われており食料を分けてもらう所か、見つかれば殺されるぐらい恨まれていた。
そんなわけで食料を十分に集められなかったゴブリンは若い者でも戦いなどで手足を無くした者やもともと障害を持っている者、それに老人などが次々と森の中の大岩のところに置いてかれ人減らしをしていたのだと言う。
その頃からこの行為を巫女を神にささげると言っていたらしい。
そうしているうちに目の見えなかった青年が帰ってきた。
捨ててきた、健康な体を得た人々とネバネバと森の主を連れて。
驚いたことに自分だけで歩けなかったその青年は自分の足でしっかりと帰ってきたのだ。
虹色に輝く岩の玉を持って。
そして、その岩の玉を掲げると高らかに宣言したのだ。
この我は神と対話しこの不思議な岩玉を与えられた。
この岩玉の力を使えば、知恵を得、傷ついた者を癒し、ここに食べ物を作り出すことができる。
ゆえにこの森に住む全ての者にこの神の祝福を与えることにした。
そして、この森を救うのだ!と。
最初はこの森に住むゴブリンたちだけに祝福を与えると思っていたのだが、青年は次々と森の中に点在する村々を回り祝福を与えていった。
そして、いつの間にか森を元通りにしてしまったのだ。
だからだろうか、岩玉を神とし、青年を神の使いと言われるようになる。
それから、それぞれの種族は使いによって中を取り持ち、様々な取り決めをしていったという。
傷ついた者や障害がある者はこの森の岩玉様の使いから特別な力、魔法や薬草を煎じて薬を作る方法などを教わり、巫女、神子としての地位を確立したのである。
この状況に一部のゴブリンたちは面白くなかった。
また、昔に聞いたようにこの森を取り戻すチャンスだったのにと思ったのだ。
そこでゴブリンたちは青年を困らせようと、こっそり森の外に居た島の侵略者たちの町に出向いて、不思議な玉を持ったゴブリンの話をしたのだそうだ。
その話を聞いた侵略者たちは森に執拗に攻撃をして、ついに岩神の使いは倒されてしまった。
それでもあきらめることなく、森の住人たちは力を合わせなんとか侵略者を追い出すことはできた時だった。
使いは最後の力を使い島を動かし今の崖と山を作り、大岩に岩玉様を祀る社を立てたらしい。
そして言ったのだ。
この森に大いなる災いが振りかぶるとき、この地に再び岩玉に選ばれし者が現れるだろう。
そして、そのまま事切れたそうだ。
それが一番古い岩玉様に関する伝承らしい。
ただ、その噂話をしたゴブリンの一部の子孫は、使いが死んだのは自業自得、我々の意見を踏みにじり、この森を様々な侵略者に明け渡した愚か者であると伝えているらしい。
嘆かわしいことだと巫女が締めくくった時だ。
いつの間にか起きていた長老がそれが真実ではないか!と巫女に食って掛かって・・・。
巫女を守る先生たち対長老という長老の不利な状況となっていた。
年寄衆は長老を宥めようとしている声が聞こえてきている。
これからみても長老のような考えをしている者は少ないと考えた方が良いのかもしれない。
そう言った意見を黙殺するのは後々問題が先延ばしになるし、だからと言ってそういった意見のこんな地位の者を排除するでは後でこの人を慕っていた者が裏切り者となるかもしれない。
ホント、こういう輩の扱いが難しい・・・。
いやだなぁ・・もう・・・。




