26.家の外も中も・・・-2-
『私はザラップと申します。レイアード様の補佐としてミラエア神殿ダンジョンの雑務を一手に引き受けている者です。このたびはレイアード様から荷物の運び入れと人員の増員という要望でしたので、まずは荷物の運び入れと同時にどのような場所か誰がよろしいのか見て回ろうと思いまして荷物運びの人員と共に参った次第です』
うむ、先生よりこの人の方がほしかったは、置いといて、まぁ、人手がほしいのは分かる。荷物が何かは後で聞く。やはり、一番の問題はまずはこちらに来る条件を決めておくべきだったことだろうか。でもなぁ、最初に来る者拒まずと言ってしまった手前、規制するというのも・・・しといた方が良いか・・。
「うん、事情は分かった。マリアさんが来た時点でこういう事を想定してなかった私も悪いと思うし。ただ、これからはアンデッド系や人とはかけ離れた者が来る場合は事前に連絡を取ってほしいなぁ。連絡先はマリアさんね。マリアさんはこの家から動かす気は無いから必ず敷地内には居るはずだし。良いよね」
『はい、分かりました』
『承知しました』
「あと人手の話だけど。この家に働く・・来るなら常に人の振りができることが条件かな。正直言うと先生よりも君の方がほしいんだけど・・・たぶんこの家、森の住人が出入りするからね。君のような人が居ることでこの森の住人と争うなんてことになるかもしれないからね。ごめんね。あ、この家で働くならその人員はマリアさんと相談して。それと外で動いてもらうから、ある程度魔素に耐性のある獣人かゴブリンとかから数名出してほしいかな」
『魔素に耐性ですか?』
「うん、そう」
『失礼ですが、この場所でそれほど魔素耐性が必要とは思えないのですが』
「あぁ、そりゃぁ、ここは魔素濃度をいじってないもん。ただね、この森のダンジョンの外。元々の森の木々がねぇ木々に影響で出るぐらいの濃度してるからね。原因を突き止めるにはもっと濃度が高い所に行く必要がって。そういや、先生。どこまで話したの?」
「え、お!おぅ。・・・あ・・れ・・・?こっちの事情話したか?」
『ただ、調査するための人材とメイド長の補佐を数名を頼むとしか聞いておりませんね』
「う、うむ・・だそうだ」
「・・そう。まずはそこから説明か。簡単にいうとここの住人にこの森を元通りにしてほしいとお願いされたの。で、この森の異変は魔素が急激に増えたからじゃないかとみているの。でも森全体をダンジョンに取り込むのはまず無理だという事でこの魔素の増大の原因を探るという事になった。それで、その調査の人員がほしいというわけ」
『なるほど。承知しました。では、皆さん。さっそく帰って』
「あ、待って。あなたたちの意見も聞きたいから。で、先生。そんなところでいじけて無いでまずは昨日の話をしたいんだけど」
「お、おぅ!昨日の話だな。」
「そう、昨日の話。昨日見た人影とダンジョンに帰り着くまでの間に起こった事は後にするとして最初の人影だけどさぁ、先生あれは何だと思う?」
「うむ。魔素にやられた住人と言う線は代表者たちの話を聞いているとなさそうだな。崖の上の住人が下りてきたという可能性もある・・崖付近に安全に降りれる道があるというならだが」
「あ、それはなさそうだよ」
「え?タマ?なんで言い切れるの?」
「昨日寝れないっていう人の話をね、聞いたんだ。ほら、話したら楽になるっていうじゃない。でね、その人たちの聞いた話によればなんだけど」
すぐに帰ろうとする彼らに慌ててとどめ、昨日の話をすることにする。先生が自分の意見を言いそれにタマが口を挟んできた。今までかなり存在が薄くなっていたがここにきて自分の話を聞いてくれることがうれしいのだろうか。ニコッと笑うと言葉を切って周りを見渡した。そして前かがみになって話し始める。何気に怖い話をするように声をひそめてだ。
「この崖を上るには山の急な斜面を行くか、崖をよじ登るしかないんだって。でもその人影が居るあたりは山からかなり離れているし、降りやすいでこぼこした個所が少ない場所だったこともあって不思議になった村人数人が確認に行ったんだと。その確認しに行った人によるとその場所に行くまでに何度か吐き気がしたり気分が悪くなったりしてやっとそこに行くと今までに見たことも無い山ができていたんだって。その山からはかなり強烈な臭いがして鼻もきかないし気分のすぐれないという事でその場から帰ったんだけどその途中で人と出会ったわけだ。なんとなく声をかけるとグワッと襲ってきて慌てて村まで帰ってきたんだって。飛び込んできた人たちの姿を見た話してくれた人がその逃げてきた人を見てびっくりして聞いたわけだ。その肩にある手は誰の手だって。それに言われた方は何のことかを自分の肩を見て悲鳴を上げて転倒して頭を打ってしばらく意識がなくなってしまったんだって・・・・」
「それで?」
「ん?それで?」
「それで、その手はなんだったの?」
「あ、死んだ人の手だって言ってたよ。腐って取れたようだったって。気絶した人は嘘をつくような人じゃなかったんだが後で聞いたらそれが襲ってきた人の手だっていうんだってさ。でも信じられないとも言ってたよ」
「そうか・・では、決まりかな。そいつら全てかそいつだけかは分からんがグールである可能性が高いな」
「グール」
そう言って、目の前に居並ぶ人たちの中の一人、ぽろぽろと体のどこかが落ちるお兄さんを見る。お兄さんはちょっとキョロキョロと私と斜め上を見比べて慌てた。
「待ってくれっス!俺はゾンビであってグールじゃ無いっス!って、もしかして違い知らないっすか?」
その質問に頷く。それを見たお兄さんはうなだれ、その隣に居た頭を持ったお兄さんが背中をポンポンと叩く。どうやら明確な違いがあるらしい。
「えっと、コ、先生。どんな違いがあるの?」
「ん?あぁ、まぁ、こいつが言うほど違いは無いが大まかにいうとだ。儀式や魔法といった類が成功した奴がゾンビ、失敗した奴や魔素が高い場所で死んだまたは葬られた連中がグールと呼ばれるな。ゾンビは生前の意識や肉体性能を持ってる者でグールは死体から魔素が抜けきらないために発生する自然現象っていう説を唱える連中もいるな。違いっていやこれくらいだな。対峙する連中からしたら動きが良いのとか悪いとかそれぐらいの違いはしか無いし人から見れば大差ないと言われるんだが」
「旦那!」
「と、本人たちからしたら一緒にされたくないというのが本音だろうな」
耳元から恨めしそうな気配がするのはたぶん気のせいだろう。先生に説明を頼んでよかったと思う。コアに振ったら絶対三倍か五倍には膨れ上がっていただろうし。さて、これで問題が発生している場所の見当はついた。なら。
「偵察してきてほしんだけど獣人かゴブリンで行ってきてくれる人見繕える?」
そう、ザラップに微笑むのだった。
ゾンビ(モンスター図鑑初級:とあるダンジョンマスターの蔵書より抜粋)
魔導生物網魔導生命体目アンデッド科
錬金術での不老不死の秘薬、またはゾンビ化の魔法など様々な儀式などで人工的に作られる存在または放置された埋葬地、疫病などで全滅した土地、戦場などで偶発的に現れる存在である。中には人と話をする個体もあるがその場合は大概作られた存在である。倒し方としては治癒魔法を使用、スキル:マナ吸引所有者または付加されている武具による攻撃、広範囲攻撃でそこ一帯を攻撃、または永続周辺マナ使用の魔法、儀式を施すといった物がある。
※人種から見たゾンビ、グールを混同した説明である。また、ここで書かれているマナとは魔素の事であり、治癒魔法とは相手の魔素を使用し執行する魔法だと思われる。また広範囲攻撃はそこ一帯の魔素を吹き飛ばす効果があり、永続魔法または儀式とはその一帯の魔素を一定値以下にするための物だと推測する。




