73.
頭下げたまま動こうとしない三人。
先生とか事情のわかっている者たちはいらだった様子を隠そうともせず。
事情を知らない者たちは困惑している様子だ。
さっさと説明ぐらいしてくれと思うが・・・・・。
こちらから聞くしかないのか。
「さて、リーよ。その者達はどなたかな?」
「失礼いたしました。この者たちは我が甥、リー・シン(李・信)、リュ・シャオ(呂・豪)と申します。我が家に戻った折、訪ねてきておりまして。こちらに連れて参りました。用意していただいた家でいるように申し付けていたのですが・・・・ご挨拶がしたいと申しましたので連れて参った次第」
「そうか。・・・・で、リーよ。・・・我に何を求めて引き合わせた?」
「出来うるならば、我がそばにて働かせたいの」
「それはできぬ。・・・不満か?」
「い・・いえ。しかし、彼らは武にも文にも秀でた者達ゆえ、主様のお役に立てるかと」
「ほぉ・・・」
まぁ、それならと思うが・・・。
だからと言って、よそ者を増やすのは今までここを支えてきた者たちから反発を食らう結果になるはずであって・・・。
こういう時はあれだな。
「だとしても、今はできぬな」
「はぁ・・・今はですか?」
「そう今はだ。そうだな・・・何と言えば良いか・・郷に入れば郷に従えだったか? まずはこの土地の理を知り、近隣の者たちと友好を結び、・・・・・まぁ、この地を良くしたいと思うなら受け入れよう。まぁ、まずは己の世話ができるかだがな」
「「己の世話?」」
「ん? リーよ。言っていないのか」
「な、何をでしょうか?」
「・・・・・伝えてなかったのか?」
「・・・・・何をだ?」
「先生・・・・タマ?」
「ん?己の世話・・ねぇ・・あ、確か契約書に・・・あぁそうそう。この項目かな。乙の連れし者の事に甲は関与しない。この場合乙はリーさん、甲はリナ様の事で。つまりはリーさんが連れてきた人に関しては何もしないよってことだったんだけど。・・・つまり、リナ様が言いたいのは自分の世話、家の準備とか食事の準備とか、生きていくうえで必要なことは自分たちでしてという事・・・で、合ってるよね?」
「という事だ。まぁ、リー。そなたはこちらが呼んだ客人。家や身の回りの世話ぐらいは人を出すが・・・後ろの者たちは自身の家を建て、畑を耕し、まぁ、生活基盤を整える所からであろうなぁ」
リーさんの後ろで顔を上げ、こちらを見つめてくる二人。
若干顔色が悪い気がするが・・・今は気にしないでおこう。
あ、リーさんも何か顔色悪い気がする。
「あぁ、そういえば同じ階の者たちと同じ条件で受け入れるという話でまとめたのだったな」
「・・・・なるほど。詳しくしなかったんだね。まぁ、一応公共の場所としての集会場、調理場、井戸や厠といった物は用意してある・・はずだな?」
「うん、そこはリー殿の家とは別に設置してあるよ」
「と、いう事だ。リーよ。ここではそなたの連れだからと言って優遇するつもりは無い。それを今後連れてくる者たちに伝えよ。とはいえ、今連れてきている者を追い返すのも気が引ける。もう良いからこちらへ。
マリア」
『お二人はこちらへ。リー様。・・・・こちらに。失礼します』
二人は部屋の隅へ、リーさんは私の横に連れてくる。
これで一応話が進むだろう。
「では、色々言いたいことはあるが・・まずは説明と紹介をしていこう」
先生はやっと予定していた通り、この場に居る階層主たちの紹介を始めるのだった。
~・~・~・~・~・~・~・~
さて、先生の説明は簡潔だ。
このダンジョンが多層構造であり、それぞれ何層か受け持つ階層主である事。
それとそれぞれこういった仕事のまとめ役である事を説明していくだけである。
ここで私もおさらいしておこう。
まず、上から・・4から6階をまとめるのはクード騎士団長。
言わずと知れた治安維持機関である。
まぁ、これは外敵対応組織と治安組織と分けるべきかもしれない。
あと外を探るスパイ組織作れるなら作りたいと思っている。
次に7、8階は巨人のヘローゼの土地だ。
前にも言った気がするが畜産をしている。
簡単に言えば、そこで警戒心の薄い動物を連れてきて、育て、繁殖させ家畜化しているらしい。
9階はオーガのアロイが治めている。
ここは林業と鉱業を主な仕事としている。
それに関連した職業の町がいくつかあるが、これは別の階を提供できればと思ってたりする。
10階はエルフのベンノで果樹や食用になる木々を育てている。
先生も説明を省いたが昆虫のエキスパートでもあるらしい。
まぁ、そこは置いといて11階は竜人のパトリスの土地である。
ここは畑だ。
野菜を作っている。
薬草も育てている。
キノコも栽培に取り組んでいるらしい。
そして12階は私の管轄になっている。
よそ者たちの管理区だ。
13、14階はノーム・ドワーフ夫妻のエミールとブライムが管理している。
職人が多く輩出されているが・・・それとは別に主食の栽培を主な産業としている。
ここは基本は主食の畑というべきか。
麦類に米、トウモロコシ、芋類と言った物もあるらしい。
・・・・あれ?なんか変な気が・・・。
・・・・・・・・気にしたらダメだろう・・・たぶん。
・・・それで、15階は中央区。
獣人のエミス爺様が納める区画だ。
職人の町だったが今では商人の町になっている。
財政を担っているといってもいいだろう。
最後は16階で龍人のルッセイが納めている。
基本は漁業であるが、先生の次に偉いらしく先生が居ないとかできないときは代行をしていたらしい。
牡蠣の養殖には成功しているらしい。
魚の養殖もある程度目途が立ったと聞いている。
海藻類については採って食べているらしい。
まぁ、これで外敵の対処以外は問題もなく回っていたと言う話である。
「以上がここの主だった者達だ」
先生がそう締めくくるとリーさんの方からため息らしきものが聞こえてきた気がする。
まぁ、そこは置いとくとしてだ。
気にしても仕方ないし、ここからが本題だ。
たぶん。
少し深呼吸してから・・・。
「主様。皆様も、お願いがあります。できうるならば私の事はリーシャンまたはシャンとお呼びください」
「ん? そうか?・・・・それは構わんが・・・んじゃ、堅苦しいしゃべり方はここまでとして。シャンさん。そっちの二人にも合わせて現状の説明をしてから・・一応私が目指しているところを軽く話をしましょうか。コア。ここと森の全体図を」
そういって、周りを見渡した。
呆然というんだろうか。
こちらを見てくる3人に微笑んで私はコアに資料提示を頼むのだった。




