試験までの日々
幼きものは実に無知である。彼らにとっても世界は極めて狭くて、そして守られている場合が多い。私はその中でも、最も守られていた部類だったのかもしれない。おそらく父は名君の資質があったのだろう。現実の一部を見せられた際の失意は、初めて見る外の都市の雄大さに心を奪われた自身の幼さも相まって影を潜めてしまった。その時の私では王都の闇に潜む憎悪の感情を読み取ることは出来なかったのだ。
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「坊ちゃん、時間もあることですし狩りにでも行きましょうや。試験の前に腕がなまってもいけねえですし。」
隣県で歩を速めていたこともあり、試験まで時間の余裕があった僕は快くガイウスさんの誘いに乗った。
ガイウスさんが元々王都を拠点に活動していた冒険者だったこともあり、その時一緒に活動していた仲間と一時的にパーティを組むとのことだった。
「俺の名はアディ、そんでもって連れがシアだ。坊主、短い間だが宜しくな!」
アディさんと、シアさんは犬獣人であり夫婦であった。ガイウスさんのように陽気なアディさんとそれを見守るシアさん、子供ながらに理想の夫婦のように見えた。
「坊主、いい筋してんな。ちょっと俺ともやらんか。」
顔合わせの日の翌日、いつもながらガイウスさんと組み手をしていると、寝ぐせのついた頭を掻きながら現れたアディさんから組手を申し込まれた。確認のためガイウスさんの方を見ると、困った顔をしながらも首を縦に振ってくれたことから組手を受けることにした。
同じランス使いのガイウスさんと違い、大剣を使うアディさんとの組手は新鮮で、また非常に勉強になるものだった。最終的に力で押し込まれ負けてしまったのが心残りだったが。後から聞いた話だが、この組手は共に依頼を受ける僕の力量を図るものであり、この組手をもって正式なメンバーと認められたようだった。組手の後、”末恐ろしいガキだな、ありゃなんだ”と言われましたぜと、ガイウスさんが嬉しそうに伝えてくれたのを今でも鮮明に覚えている。
依頼を含めてアディさん達と一緒にいた期間は短かったが、気付けば兄や姉のような存在になっていた。別れ際にそのことを伝えたら、二人とも一瞬ポカンとした表情を浮かべお互いの顔を見合わせた後に、うっすらと涙を浮かべながら僕を抱きしめてくれた。
「別に一生の別れってわけでもないだろ。学園が暇なときは何時でも飯とか依頼に行こうぜ。」
この二人の温もりを僕は一生忘れることはないだろう。