来世への希望
「未来の見えぬ現世を生きている以上、多くの失敗を残し後悔は必ず残る。ここは現世と幽世の間。次の人生を歩むために人が自分の人生を回顧し、そして気持ちに区切りをつける所じゃ。現世では一度もしなかった大泣きをして、少しは心の整理がついたかのう。」
持国天様は意地悪な笑みを浮かべながら、そう言った。
思わず恥ずかしさで少し目線を落としてしまう。
言われてみれば確かに声を上げて大泣きしたことは一度もなかったように思う。
「はい。」
当然、前世での後悔は未だに残っているが、ここに長く居たところで完全に無くなることはないだろう。
であれば、少しでも早く次に進んだほうが建設的というものだ。
「あい、わかった。それでは先の話に進めるとしよう。」
私の顔を少しの間じっと見つめた後、持国天様は話を続けた。
「この宇宙を生きるすべての生命は輪廻転生の輪の中に存在し、現世と幽世との間を行き来する。すなわち、お前は今から現世で次の生を歩むことになる。次の生といっても人間とは限らない。輪廻転生の対象は動物だからな。おや、少し顔色が悪いのう。」
すべての動物と聞いて、苦手なムカデになった自分を想像してしまい気分が悪くなる。
きっと鏡があったら、驚くほど真っ青な顔を見ることができただろう。
「なあに、それほど心配することはない。前世にて大きな功績を上げたものには、来世での種族を選ぶ権利が与えられる。お主は選べる側の人間じゃ。」
功績といわれても一つも思いつかない。
私はただひたすら武芸を磨き、戦に身を投じ、数多の命を奪った末に何も得られなかった愚者に過ぎない。
「そう辛そうな顔をするな。お主の意識の中では人を殺めただけであろうが、その分多くの命を救っておるのだ。まあ、これは天界基準であるゆえお主の心安めになるわけではない言葉じゃな。さて話を戻すが、お主は来世でどの種族を選ぶ。」
「人族でお願い致します」
かつての部下に前世の記憶を持つ者がいた。
初めてその話を受けたときは、戯言と突き放したものだが、
その者は見聞きしたことのない特殊な武術を修めていたことから、
そのようなこともあるかもしれないと認識していたことを思い出す。
おそらく輪廻転生の輪の中で、転生の度に記憶は消えども、
強く魂に刻み付けられたものは受け継がれることがあるのかもしれない。
来世の私がどのような生き方をするかはわからない。
しかし、もし前世の私の残物が来世に受け継がれるようなことがあるのであれば、
それを生かせる種族にしたいと思ったのだ。