【短編】ニット帽から始まるクリスマス
*軽い百合成分有注意*
今年もクリスマスの雰囲気になるのは早かった。11月の初旬からだっただろうか。学生たちは、雪、クリスマス、そしてその後のお年玉を楽しみにして賑わい出す。一方で、社会人の方々は忙しさから肩を落としているように見える。その頃からだったのだろうか、私は隣の席の女の子を好きになってしまった。
女子高に通っている私は、隣の席の女の子が他の女の子と話している事に嫉妬していた。11月の中頃なのに2人でクリスマス会の話をしていたのだ。勿論、私も誘われた。正直、自分が話し合いに参加しなかったクリスマス会に参加したくはなかった。でも、1秒でも一緒にいたい自分は参加する事にした。
クリスマス当日……私は約束の駅前に30分前についてしまった。右手の手提げにはプレゼントと親が買ってくれたお寿司が入っている。誰もまだ来ていないだろうと思い、売店でホッカイロ代わりに温かい飲み物を購入する。もうすでに誰か来ているのだろうか。約束の時計台の下に向かう。もう、来ているようだ。しかも、お目当ての女の子1人だ。時計台の下、制服で手袋に自分の息をあてて暖をとっている。本当に可愛かった。本当に絵になっている。私は気付かれないような位置で携帯でこの光景を写真に撮る。
かしゃっ。
音を立ててしまったが幸い気付かれなかったようだ。待ち受けにするのは家に帰ってからにしよう。後ろから気付かれないように近付き、まだ暖かい飲み物を彼女のほっぺたに当てる。
「あっちっ。」
反射で体が一瞬こわばる。そして、振り返りつつ安心し笑顔に変わる。
「えいっ。」
仕返しに手袋をとって冷たい手をほっぺたに当てられる。寒いという演技をしつつ、彼女の手の感触を楽しんでいた。15分前になると5人の女の子は集まり始める。誰にも分け隔てなく笑顔を振りまいている彼女に嫉妬しつつも、会話は本当に楽しかった。
クリスマス会の会場はここから1番家が近い女の子の家だ。寒くて震える雪道を越えると、5人が入る大きめなこたつが出迎えていた。こたつの中でお互いにいたずらをしながら、食事や人生ゲームを楽しむ。プレゼント交換では、私はお目当てのプレゼントを手にする事は出来なかった。でも、目的の相手にプレゼントを渡す事ができた。私のプレゼントは3ヵ月間編んだ手編みのニット帽だ。
「ありがとう。」
この一言の為の3ヵ月だったと思い、感動して涙があふれそうになる。帰り道さっそく帽子をかぶってくれた。
「暖かい。」
ニット帽、毛糸の手袋、制服。誰が見ても可愛いと思うだろう。より彼女と接近してしまいたいと思ってしまう。帰り道もほとんど一緒。そして、電車で帰るのは2人だけだ。
「ごめん、疲れたから寝るね。電車来たら起こしてね。」
会話を楽しもうと思っていた私は少し残念だった。でも、田舎の電車は30分おきで、ゲームで奮闘していた彼女は疲れてしまったのだろう。待合室で眠ってしまった。彼女の寝顔は完全に「無垢」だ。私は、我慢できなくなってしまう。ニット帽を伸ばして目隠しをする。そして、ほっぺたに軽くキスをしてしまった。彼女は起きなかった。それに対して、すこし残念に思いつつ安心する。クリスマスの夜が自分にとって忘れられない物になる瞬間だった。
次の日の帰り道……駅の待合室において
「今日はあなたがニット帽を被る番だね。」
授業中は全く変わらない態度だった。でも今の彼女の顔は小悪魔の顔だ。
花言葉は「無垢」や「純潔」だ。でも、冬は百合の花の枯れる季節だった。
3作目
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