後編
しろまんま様、ご指摘ありがとうございました。該当箇所は修正いたしました。
どうやら貴国では、何らかの文化的な行き違いから、縁談をめぐっていくつか非常に重大な「手違い」が生じたようですね。
まず――
貴国は我が国の皇室に何の通達もなく、領地で軟禁されている皇弟殿下と密かに書簡を交わし、そのご令嬢を貴国の王子殿下に嫁がせようとなさった。
次に、貴国の王女殿下を、我が国のとある公爵令息へ嫁がせようとなさった。
その公爵令息は現在、反逆罪の嫌疑で調査を受けております。
しかも以前から、女皇陛下を玉座から引きずり下ろす計画に関与していた疑いまである人物です。
そして最後に――
元ワット侯爵夫人のご子息を、国王陛下が最も可愛がっておられる王女殿下と結婚させようとなさった。
ええ。
あの……ワット侯爵にはまるで似ていないと噂されている、ご長男ですよ。
……あら、ワット侯爵。
どうして急にそんなに顔色を悪くなさったのですか?
私は何も申し上げておりませんよ?
とはいえ、あの書簡をご覧になった直後に離婚を申し立て、元夫人をその兄君――つまり国王陛下のもとへ送り返されたご判断は、実に賢明だったと思います。
まさか本当に――
これほど大きなことでも、扉を閉ざした部屋の中で何通か手紙をやり取りするだけなら、他国には永遠に知られないとでもお思いだったのですか?
女皇陛下は、すでにあの書簡をご自身の目でご覧になっています。
そこには、こう書かれていたそうですよ。
貴国が資金を提供し、皇弟殿下と例の公爵令息を支援して、我らが偉大なる女皇陛下を玉座から引きずり下ろす――と。
……まさか、そんなはずはありませんよね?
私もそう思います。
もしあの書簡が本物だとすれば、それはもはや単なる非礼では済みません。
反乱勢力に資金を提供し、他国の皇位継承に介入しようとしたという、大変な問題になってしまいますから。
しかも、よりにもよって貴国が干渉しようとなさったのは、長年にわたり経済的にも軍事的にも惜しみなく貴国を支援してきた友好国です。
まったく、悲しいことですよね?
……宰相閣下?
先ほどの財務大臣よりも、さらに顔色が悪くなっていらっしゃいますよ。
どうやらこの王宮にも、あの書簡が何を意味するのか理解している方は、少なくともお一人はいらっしゃるようですね。
ですが、皆様。
どうぞご安心ください。
我らが女皇陛下も、その慈愛深き御母君であられる皇太后キャサリン殿下も、これはきっと何かの誤解に違いないとお考えです。
あれほど荒唐無稽な書簡が、まさか本当に国王陛下と王妃殿下のご意思によるものであるはずがない。
きっと何者かが悪意をもって、お二人を欺いたのでしょう。
ええ。
きっと、そうに違いありません。
ですからこそ、女皇陛下は私をここへ遣わされたのです。
王家を欺き、両国の友好を損なおうとした悪人たちを見つけ出すために。
どうぞ、ご心配なく。
両国の仲を引き裂こうとしたそのような悪人は、一人たりとも逃がしませんから。
……どうなさいました?
まさか皆様、今日ここへ来たのが、私と後ろに控えている数名の護衛だけだとお思いだったのですか?
この王宮はすでに、我が国の軍によって完全に包囲されています。
……騎士団長閣下?
どうなさいました?
外へ出て、ご自分の目で確かめたいのですか?
もちろん構いませんよ。
どうぞ、ご自由に。
ただし、各地へ使者を送り、援軍を求めるおつもりでしたら――その必要はないかと。
貴国の国境は、すでに封鎖されています。
我が国の魔法使いたちが、国境全域に結界を張り終えておりますので。
結界が解除されるまで、我々の許可なくこの国を出ることができる者はいません。
――少なくとも、まだ息をしている者は。
二十五年前、キャサリン殿下と、殿下に従った魔法使いたちを追放し、あまつさえ殿下を「邪悪な魔女」などと呼んだ結果――
どうやら貴国の魔法技術は、本当にあの頃から進歩していないようですね。
不思議なものです。
王家も、王妃殿下のご実家も、カーボン公爵家も、我が家の財産をあれほど持っていったというのに。
税金だって、ずいぶん引き上げられたのでしょう?
一体、どこへ消えてしまったのでしょうね。
……ああ、失礼。
また話が逸れてしまいました。
何しろ私は、元はただの平民ですから。
ここにお集まりの、尊い血筋をお持ちの皆様とは違って、私たちのような者は、一枚一枚の硬貨がどこへ消えたのか、つい気になってしまうのです。
ましてや――
もともとは、自分たちの金だったのですから。
さて。
女皇陛下と皇太后キャサリン殿下は、貴国が我が国との縁組を望んでいる、そのお気持ち自体は本物だと信じておられます。
ただ――
どうやら、うっかり相手を間違え、手紙を送る先まで間違えてしまっただけなのでしょう?
そういうことですよね?
……あら。
王妃殿下、ようやくお目覚めになったのですね。
それでは、改めてお尋ねしましょう。
一体、どちらを我が国へお送りになるおつもりですか?
国王陛下が最も可愛がっておられ、素直で裏表のない性格だと評判の王子殿下でしょうか?
それとも、王妃殿下が殊のほか可愛がっておられ、その美貌をそのまま受け継いだと評判の王女殿下でしょうか?
ご安心ください。
女皇陛下の後宮には、今もまだ空きがございますから。
王子殿下は、ずいぶん天真爛漫な御方だそうですね。
つい最近も、人前で辺境伯令嬢との婚約を破棄なさったとか。
その点については、実に見事に国王陛下の血を受け継いでいらっしゃる。
それ以来、辺境伯は王家からの召集に一切応じなくなったそうですね?
ところで、女皇陛下にはすでに、深く寵愛しておられるお二人の夫君がいらっしゃいます。
お一人目は、公爵閣下。
かつての皇位継承戦争では自ら軍を率い、女皇陛下のために勝利を勝ち取った御方です。
そしてお二人目は、帝国でも随一の富豪一族のご出身。
女皇陛下が後顧の憂いなくあの戦争を戦い抜けたのも、その莫大な財力による支援があったからこそでした。
お二人とも、女皇陛下を心から愛しておられます。
ですから、天真爛漫な王子殿下がそこに加わったとしても、きっと仲良くやっていけることでしょう。
もちろん――
女皇陛下の後宮は、望めば誰でも居続けられるような場所ではございません。
男であれ女であれ、後宮に加わる者は、まずお二人の夫君による試練を通過しなければなりません。
……そんな顔をなさらないでください。
帝国では、そのあたりの制度はきちんと整備されております。
試練を通過できず、不幸にも命を落とした場合には、ご遺族へ十分な埋葬費と慰謝金が支払われます。
こうした条件については、後宮へ入る前に、すべて書面ではっきりと説明されます。
帝国では誰もが知っていることですよ。
何しろ二十五年前、皆様が元ワット侯爵夫人の代わりにキャサリン殿下を送り出した先も――
まさに、そういう場所だったではありませんか。
……皆様、どうして急に静かになったのですか?
王女殿下もご一緒なさりたいのでしょうか?
うーん……。
それは少々困りましたね。
女性同士では子を成すことができませんし、女皇陛下には現在、女性のお相手も不足しておりません。
単なる政略結婚のためだけに、わざわざもう一人増やす必要性は、あまりございませんから。
それとも――
王女殿下を、キャサリン殿下のお側にお仕えさせたいのでしょうか?
王女殿下は、若い頃の王妃殿下と瓜二つだそうですね。
二十五年前、自分の婚約者を奪った女性と、あまりにもよく似た顔。
そんな顔を毎日すぐ側に置いて――
皆様、本当にキャサリン殿下がお喜びになると思いますか?
もちろん、絶対にありえないとは申しません。
世の中には、憎しみから始まる愛を好む方もいらっしゃいますから。
たとえば、ワット侯爵のように。
ご長男がどう見てもご自分に似ていないと分かっていながら、それでも長年、元夫人と連れ添ってこられたのです。
それもまた――
「真実の愛」なのでしょうね?
ですが、一つだけ忠告しておきましょう。
キャサリン殿下のお側には、すでに長年寄り添っている女性がいらっしゃいます。
平民の出ではありますが、かつては先帝陛下の後宮で最も美しい妃と謳われ、「帝国の薔薇」と呼ばれた女性です。
薔薇と呼ばれるからには、当然、棘もございます。
以前、彼女に取って代わり、キャサリン殿下のお側に収まろうとした女性がいたのですが――
……ええ。
今では外見だけを見ても、かつて同じ人間だったとは、なかなか判断できません。
……ああ。
それとも皆様がお望みなのは、先帝陛下でしょうか?
それは、もっと難しいでしょうね。
キャサリン殿下が女皇陛下と皇妹殿下をお産みになって以来、先帝陛下はとうとう他に子を残すことができませんでしたし――
そういえば。
私もここ数年、あの御方について何の話も聞いておりません。
別の方になさったほうがよろしいでしょう。
さて。
皆様、お決まりになりましたか?
……決められなくても、別に構いませんよ。
辺境伯からの援軍は来ません。
王子殿下がつい先日、その愛娘を捨てたばかりなのですから、当然でしょう。
それから、領地と私兵を持つ男爵家や子爵家も――おそらく来ないでしょうね。
王家が翡翠鉱脈への投資で出した損失を埋め合わせるため、ここ数年、彼らからどれほど重い税を取り立ててきたのか。
皆様のほうが、私よりよくご存じでしょう?
実際、我が国の軍が彼らの領地を通過しても、誰一人として行く手を阻みませんでした。
それどころか――
道の両脇に並び、我が軍に歓声を送っていた領民までいたほどです。
ですから。
もう、誰も助けには来ませんよ。
この国がこれからどうなるのかについても、どうぞご心配なく。
我々とて、この土地を混乱に陥れるつもりはございません。
女皇陛下の同母妹君が、母君の故国へ戻り、この王国の王冠を引き継ぐご意思を示しておられます。
キャサリン殿下のご実家であるワット侯爵家は、かつて幾度も王家と婚姻を結んできた家柄。
皇妹殿下にも、この国の王家の血は十分に流れております。
ですから、王位が空くことはありません。
どうぞ、ご安心を。
……あら。
国王陛下、王妃殿下。
お二人とも、急に元気になられましたね?
もしかして――
王子殿下と女皇陛下の妹君を結婚させよう、などとお考えになりましたか?
残念ですが、あの御方にはすでにお相手がおります。
私の息子は、皇妹殿下を心から愛しております。
私も母親です。
自分の子供と、その先に生まれる孫たちのことくらい、考えてやらなければなりません。
ですから、申し訳ございませんが――
貴国の王子殿下にも王女殿下にも、あの御方へ近づいていただくつもりはございません。
……。
ねえ。
泣かないでくださいよ。
何もせず、ただ泣いているだけでは、何一つ変えることはできません。
二十五年前、キャサリン殿下も私も、そのことを思い知りました。
だから、この国から追い出されたあとも――
あらゆる手を尽くして、生き延びたのです。
先ほど申し上げましたよね?
魔法結界によって、すでに国境は封鎖されていると。
女皇陛下の許可なく、この国を出ることのできる者はいません。
――まだ息をしている者は、誰一人として。
……どうなさいました?
なぜ、そんな目で私を見るのですか?
二十五年前。
最初にそう呼んだのは、皆様ではありませんでしたか?
キャサリン殿下は――邪悪な魔女。
私の家族は――邪悪な商人の一族。
この国から消し去るべき悪人たち。
ですから、私には分からないのです。
皆様が今さら、一体何をそんなに恐れていらっしゃるのか。
私たちはただ――
二十五年前、皆様が私たちにつけてくださったその名の通りになって、
帰ってきただけなのです。




