毒味の娘は、三口目で気づきました
ショートショートです。さくっとお読みください
王宮の毒味役は、王さまの食事を先に食べる係だ。
ひと口食べて終わり、ではない。
銀の匙で三度、間を置いて食べる。
一口目は舌に触れる毒を、二口目は喉に来る毒を、三口目は腹に落ちてから効く毒を見るため。
三口目のあと、砂時計がひとつ落ちきるまで待つ。
それでわたしの膝が震えなければ、料理はようやく王さまの前へ運ばれる。
だから毒味役に選ばれるのは、舌の肥えた者ではなく、自分の体の変化に気づける者だ。
厨房の下働き上がりの平民でも務まるのは、そういう理由だった。
給金は下女の三倍。
代わりに、四年で三人が亡くなっている。
「ミラ。今夜の鹿肉だ。料理長が、味を濃くしたと」
「はい」
配膳長のギヨームさんが、銀の蓋を持ち上げる。
まず湯気に鼻を寄せる。
次に匙を入れる。
一口目。
塩、赤葡萄酒、こしょう。
異常なし。
二口目。
喉の奥が、わずかに苦い。
けれどこの苦さは、鹿の血の苦さと区別がつかない。
わたしは砂時計を返した。
三口目を舌にのせて、止まった。
舌の先が、痺れている。
「……ギヨームさん。この匙、今夜おろしたばかりのものですか」
「いや、いつものだ。磨いて戻してある」
「誰が磨きましたか」
ギヨームさんは答えなかった。
答えられなかったのだと思う。
銀は毒に触れると曇る。
だから毒味には銀を使う。
けれど曇るのは、毒が料理のほうに入っている場合だ。
匙そのものに薄く塗られていたら、その曇りは磨きの跡に紛れてしまう。
わたしは匙を布に包み、砂時計を伏せた。
落としきらせずに、伏せた。
廊下が騒がしくなったのは、そのすぐあとだった。
王妃さま付きの侍女頭、マルグリットさまが、女官を三人連れて厨房の戸口に立っていた。
「毒味役が倒れたと聞きました。料理長を捕らえなさい」
「……お待ちください」
わたしは、立っていた。
立ったまま、匙の包みを持って、戸口のほうを向いていた。
侍女頭さまの目が、わたしの膝のあたりで止まった。
「マルグリットさま。わたしは倒れておりません」
「……そう」
「まだ誰も倒れておりません。厨房から、誰も出ておりません。使いも走らせておりません」
言いながら、自分の声が震えているのが分かった。
怖かったのだと思う。
それでも、続けた。
「どこで、お聞きになりましたか」
侍女頭さまは、答えなかった。
女官のひとりが、半歩下がった。
その半歩で十分だった。
あとのことは、わたしの役目ではない。
匙は王宮の薬師に渡され、塗られていたものの名がついた。
侍女頭さまが厨房を潰したかった理由も、そのうち聞こえてきた。
去年の秋、王さまの食卓に上がらなかった料理がひとつあって、それを止めたのが料理長だった、というだけの話だ。
わたしは今夜も、銀の匙で三度食べる。
一口目、二口目、三口目。
そして砂時計を、最後まで落としきらせる。
落としきってから、王さまの食卓へ運ばれていく背中を見送る。
毒味役の仕事は、毒を見つけることではない。
誰かが安心して食べられる時間を、先に引き受けることだ。




