そばかすタレ目の金髪おねーさんに友達から聞いた話をしてもらうだけ
ハローハロー、おしゃべりは好きですか?
アタシはわりと好きなほう。
あ、でも電話は苦手かな? メッセージも既読スルーしちゃう。
今みたいに画面越しか、直に顔見て話したい。アタシの言葉で相手が何考えてるかわかるのが好き。
名前とかの個人情報もいらない。そっちはアナタでこっちはアタシ、全然いける。明日も明後日も明々後日も赤の他人だから、おしゃべりが息抜きになるんですよ。
アタシみたいな話相手は初めて?
フッフッフ。そばかすはメイクで消せるけど、アタシにめちゃ似合うのであえて残したの。タレ目は父親ゆずりです。キュートでしょ? 髪はブリーチ重ねて、天使みたいなホワイトブロンドってオーダー通りに仕上がるのすごいよね――なーんて、全部AIメイドだったりして。信じちゃダメですって。アタシしゃべりすぎ?
話すより聞く方が楽ですか。じゃ、今回はアタシがダラダラしゃべって、アナタはテキトーに聞いてるってことで。
どんな話をしようかな。リクエストあります?
ホラー?
……へーえ。意外とフキンシンで悪趣味だったな。
ホラーって人が死んだり酷い目にあうヤツでしょう? あ、そこまで求めない? オーライ、了解。
――――では。
これから話すのは、トモダチに聞いた話なんだけど。
アタシのトモダチ、名前は――アメちゃん。
ハイ、今決めました。こっちはザァザァだけど、そっちは晴れてる? 台風のない世界線にいらっしゃる?
……コロコロ。A11のS10。アメちゃんはフツーにかわいい女子高生です。謎のダイス音? 気のせい気のせい。
コホン。
突然ですが、襖って実際に触ったことあります?
アメちゃんは、地方都市の住宅街、全室フローリングのお家に、リュウノスケパパとツユリママと三人で暮らす女の子です。ただ、リュウノスケパパの生家は大きい寺なので、庫裏の一階部分は和室が多く、襖がずらっと並ぶ大広間もあって、夏休みには必ず泊まりに行ってたアメちゃんは、襖に触り放題、見放題でした。
うつくしい襖は、スーと動いて、トン、と軽やかに閉まる。アメちゃんは今もそう思ってます。
で、夏休みは本家に泊まりに行くように、五月の連休はツユリママの生家に行くのがお決まりだったの。アメちゃんファミリーは田植えや畑作業を泊まりがけで手伝うらしいです。
住んでるのは、祖父母と伯父夫婦、いとこ三兄妹の七人。湿度や寒暖に強そうな、見るからに大きくしっかりした二階建ての家で、障子や襖の入った日本家屋ではあるけれど、なかは和洋折衷、広い畳の上に魅力的な異国の絨毯を敷いて、ソファーやテーブルなんかも使いつつ、日本画が飾ってある感じ。はっきりそうはいわなかったけど、かなり裕福なお家だったんじゃないかな。
中学一年の五月連休も、アメちゃんは家族でこの邸宅にお泊まりしてた。
まだ暗い時刻、アメちゃんは、泊めてもらった客間で目を覚ました。自然がアタシを呼んでるぜってやつね。まだまだ寝たりない目をこすってあくびをひとつ。スマートフォンを確認すると夜中の2時だ。
部屋には常夜灯でぼんやりとした布団がふたつゆっくり上下して、両親の寝息がする。トイレの場所は知ってたから、二人を起こさないよう、スマホ片手にそっと部屋を出ていく。
客間は書院造りの上下二間続きの座敷だ。庭に面した縁側は障子が並び、屋内へ続く廊下には襖から出入りする。アメちゃんが手をかけると、さすが、手入れの行き届いた襖は静かに開いてトンと閉まった。
照明のスイッチがわからなくて、窓ガラスから差し込む月明かりで廊下を歩く。トイレを済ませたアメちゃんは客間に戻ろうとしたけれど、トイレのLEDに目が慣れた後じゃ、廊下は真っ暗だった。アメちゃんはスマホのフラッシュライトをかざして、並んだ襖のなかから目星をつけてみる。……そう、確かこの部屋だ。
寝ている両親に気づかれないよう、おそるおそる襖を引いた。だけど、音をたてずに動くはずだった襖が、ヌヌヌ、と開いたものだから、ぎょっとして手が止まる。開ける部屋を間違えたんだって、彼女は直感した。
アメちゃんは、所構わず人のうちを見ていいと思うほど子どもじゃない。すぐに、ヌヌヌ、と奇妙な音をたてながら襖を閉じた。ベシャリ、と。
……ベシャリ?
思わず、閉めた襖を気持ち悪いものを見る目で見てしまった。
仕方ないよね。フツーに襖を閉めただけなのにベシャリって。誰が考えても襖がだす音じゃないでしょう。
アメちゃんがスマホを近づけて照らすけど、襖紙はこれといった変化もなければ、濡れてる部分も発見できなかった。黒塗りの引手や縁も、手にふれた感触は木製で間違いなかったから、まるで音だけ編集されたみたいに噛み合わない。
強いていうなら、かなり重い物を泥に叩きつけたような音だった。外の田んぼに人間が飛び込んだら似たような音がするかもしれない。
言い表せない薄気味悪さと不思議な高揚感。何故だろう。ものすごく襖が気になる。
だから、アメちゃんは、思ったんだよね?
試しに、もう一度だけ開けてみようか。
そうすれば、音の理由もわかる気がする。
アアそうだ。襖のなかを見れば音が理解る――
ウーウー!
スマホの唸る音で、アメちゃんの肩がビクッと跳ねる。悪戯するところを見とがめられた気がして、慌ててスマホを確認した。
ひとつ年下のいとこからのメッセージだ。本家の四兄弟の末っ子で、いつも直感的に動く、悪い人間ではないがちょっと変わった子だ。
メッセージを開く。想像より短い言葉が羅列していた。
あぎょうさん さぎょうご これいかや
アメちゃんは「寝ろ」と送ったけど既読はつかなかった。文脈が無さすぎて意味がわからない。
嘘、が答えの謎かけだったと思う。なんで今?
夢でも見たか、寝ぼけるのも大概にしてほしい。
邪魔が入ったせいで襖への興味が失せてしまった。
なにより今は、すぐにでも布団に入りたい。
いつからか、アメちゃんは体がふらつくほどうとうとしていた。
もう重く下がるまぶたに抗うことができない。
泥に沈むように足元から落ち、狭まる視界が床へ迫る。
冷静に、痛みがないことを不思議に思いながら、視界が暗転する。
……土と水の湿った匂いをかいだ気がした。
アメちゃんが目を覚ますと、やわらかな布団とシーツのパリッとした感触に挟まれていた。
明るい部屋。
朝の支度をする両親。
庭に面した障子戸から、窓ガラス越しに朝日と鳥の声が入り込む。ただ平穏な朝だ。
アメちゃんは、なんて夢を見たんだとため息をつく。
時間を確認しようとスマホを持つと、ひとつだけ、メッセージがきていた。例のいとこからだ。
変な音のする襖のなかを見ないように
――――二度と、あの襖を開けることはないと思う。
アメちゃんは最後にそういいました。
夢か現か幻か。
いずれにしろ、今後、並んだ襖を見かけても、アメちゃんが開けることはないはず。
え? もし襖のなかを見ていたらどうなっていたと思うか?
あー、うーん。
そっちはわかんないけど、アタシ、アメちゃんから話聞いて、ひとつ思ったことはありますよ。聞きます?
襖って、部屋の格式でデザインが違うんじゃないですか。アメちゃんファミリーは、随分と上等な客間でもてなされてた。その部屋の襖と間違えたんだから――襖のなかは、なんか、すごーく特別なお客様を迎える場所じゃないかって。
あ。
ごめんなさい、時間きたので終わります。
最後まで聞いてくれてありがとう。
じゃーね。
こういうおねーさんがゆるっとホラー話してくれるのいいなーと思って書きました




