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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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千文字短編シリーズ

エミルの繕い屋

作者: 夜霧ランプ
掲載日:2026/05/31

 夜も深々と暮れた頃。

「エミルの繕い屋」と、描かれた看板の店は、明かりがついている。

 その室内で、預かった服をトルソに纏わせている人物がいた。

 服の傷みを確認し、細い針と糸で繕い直している。

 依頼された服の中には、少年が着る様な小柄な軍服もあった。

「息子の遺品です」と言って、その服を持ってきたのは、ふくよかな老婆だった。

 エミルはトルソからその服を外し、広い作業台の上に乗せる。

 服の肩を叩いた。

 服は人が着ているように膨らみ、起き上がると、静かに動作を始める。

 パントマイムの様に、デスクと思われる四角い台を拭き、次にカーテンを開け、窓を拭く。

 ドアを開ける仕草をして、外からトレーを受け取った。

 それを、さっき拭いていたデスクの上に置き、ポットとカップに少し触れた。

 カップの隣にある、小瓶のような物を手に取った。

 両手で包んで、少年兵は十分に「力」を込めると、小瓶を元の場所に置いた。

 呼びかける声が聞こえてくる。

「アルノルト。おはよう」

 少年兵は答えた。

「おはようございます。体調はいかがですか?」

「不都合な所はないよ。ありがとう」

「いえ、私の仕事ですから」

「ああ。君は本当に、天才的な執事だ」

 少年兵は控えめな笑い声を零した。

 そこまでを再現すると、少年の軍服は作業台の上で、くしゃりと潰れた。


 恐らく、この服の持主の名は、アルノルト・バーデ。

 何処かの士官に、毒を盛って殺害したとされる人物だ。

 アルノルトは、毎朝、士官が飲む強壮剤に「治癒力」を宿す役割をしていた。

 ある朝に薬を飲んだ士官は、突然苦しみ出し、瞬く間に息絶えた。

 疑われたアルノルトは、毒殺を否定し続けたが、最終的に、断頭台に引きずり出された。

 そこまでは、エミルも伝聞紙で知っている。

 

 だが、少年兵が「毒」となる術を使っていた様子はない。


 エミルは女王陛下へ向け、手紙を記した。

「アルノルト・バーデの名誉に関して。

 彼は毎朝、『用意された小瓶』に治癒力を宿していたが、彼はそれを開封してはいない。

 毒殺を疑うのであれば、罰されるのはアルノルトではなく、その小瓶を用意した何者かである」


 数日後。少年兵の生きていた当時、強壮剤を作っていた魔法薬師が告訴された。


 服を引き取りに来た老婆に、「息子さんの疑いが晴れて、よかったですね」と、エミルは声をかけた。

「ええ」と、老婆は繕われた軍服を撫で、答える。「名誉と言うものは、とても大切ね」

 老婆の心のほつれは、どうにか繕えたようだ。

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