47話 声
一般人の中にダイヤやルビーの名がある様に、ネフィリアードは異名を含めてあやかり名を賜ったのだと思い、アリュスはこれまで気にはしていなかった。
星界神石ネフィリアス・エレメタイト。
魔石または魔鉱石と呼ばれる結晶体は、有限の魔力を含んでいる。内包した魔力を消費すればただの石に戻るか、魔力を保管する能力を持った石となる。
この星界神石は魔力を含むが、次元が違う代物だ。
無限とされる膨大な魔力を内包し、金剛石に引けを取らない硬度を誇る。
また、その魔力は火や水等の属性を含まず、〈無属性〉とされる。どの魔術、魔法にも対応できる特異な性質だ。
希少な性質とその美しさから、魔術師達は〈結晶の帝王〉と呼んでいる。
宝石としても価値があり、魔術師でなくとも欲する者は多いとされる。だが鉱石や宝石のように採掘された事例は無く、魔石のように魔物や妖精の生息地では生成されない。人類が唯一手にしたのは、東大陸に暮らしている〈妖精塔の賢者〉と称えられる女性が〈貰った〉と話す3センチ程の結晶1個のみ。
作ったものではないか、と疑う者は多かったが、その度に彼女は鑑定させた。そして、十人十色の表情を浮かべながら皆は〈本物〉だと口を揃えた。
帝国は魔女の国ロズマキナへ侵攻した表向きの理由は、極北大陸の宝石などの資源を狙っていたからだとされる。その裏に、星界神石が含まれていた。
人体実験施設の設立。魔力を持った帝国人を作る為の女の略奪。そして星界神石の調査。
帝国との接触がない以上、真意は不明である。だが、ホムンクルスの製造が南の防衛拠点アネモスに進出しているとなれば、十中八九今も狙っている。
「厄介事を考えるのだけは得意な連中だな……」
呆れるアリュスはネフィリアードに目線を送り、フローラへと再度向ける。
彼の心肺は停止していない。透明度のある青い結晶から見える傷口は、どこか生物らしさが無い。生物の中には例外もいるが、ほ乳類の血肉は赤い。ネフィリアードの血肉は、赤みを帯びていない。
確認したいが、星界神石の魔力が邪魔をしている。
神秘的と呼ぶにふさわしい属性純度の高い魔力だ。火口や海底で採掘されたとしても、魔石は複数の属性の魔力を含んでいる。それが彼の身体から露出する結晶からは1つを除いて魔力を感じない。
『我が子の損傷を確認』
『意識の混濁、低下を確認。保護へ移行』
『頭部の損傷25%。上半身の損傷17%。下半身の損傷4%。三ツ目心眼の黒鷲の義眼の損傷3%。疑似血肉の結晶化を展開後、修復を開始』
結晶から、声が聞こえた気がした。
『通称:人造神の存在を容認』
いや、オパールの義眼を通して、アリュスの肉体に縛り付けられた魂に直接響いたのだ。
「フローラ」
「あれ、ムスリカ姉ちゃん」
2人の間に割って入ったのは、黒髪の少女ムスリカだった。
「……これ以上、危ない事はやめよう? このままだと、本当に死人が」
「降参したんだね。役立たず」
説得を計ろうとしたムスリカをフローラは一刀両断した。
『契約違反者を確認』
『違反項目を取得』
『幼子の魂魄の摩耗を確認。保護へ移行』
多くの声が交じり合っている。全てを聞くのはアリュスであっても困難だが、こちらに〈敵意〉はなく〈否定的〉ではないと理解出来た。
契約違反。その言葉の意味が気になり、該当者と思われるフローラをアリュスは凝視する。
「今ならまだ、間に合うよ! フローラの罪は私達が負うから、だから」
「失敗作に絆されて、いい子ぶらないでよ。魔女の国を壊して、アタシ達の国にするって夢を忘れたの?」
「忘れてなんかいないよ。でも、もう私達は」
「どうして言うこと聞いて、いい子に出来ないのかなぁ!?」
フローラの怒鳴り声に、ムスリカは肩を震わせた。
まるで剣幕な親に叱られ、怯える子供の様だ。
先程の態度も含め、フローラは何かがおかしい。
『星の内海へ接続を開始』
『魂源の血脈へ協力を要請』
『死現の真者へ支援を要請』
『永劫の図書館の閉鎖を要請』
大昔に学んだ神話の名が義眼を通して聞こえ、アリュスはこの声が〈殻の神〉であると確信した。そして、違反が肉体と魂に関わる問題であると思考する。
「フローラ」
「邪魔立てするなら、貴女であっても容赦しない!」
フローラは前へ出ようとするが、地杖が何かに引っかかり、動かない。
「は……?」
地杖を見ると、フローラの手元よりも下は全て青い結晶に覆われ、地面に固定されていた。
「いつの間に!」
結晶を破壊し、杖を引き抜こうとするフローラだが、魔法が一切通用しない。
『神格の形成。目的:子供達との対話』
『神格安定。顕現を開始』
その言葉とほぼ同時に、アリュス達の右隣りに建っていた建物を魔動車が突き破り登場した。




