43話 城壁に激突するまで
同時刻、全速力で走行をする巨大魔動車ことギガンテス号は、南防衛拠点が視界に入る距離にまで到達していた。
「門番と掛け合いま」
「そのまま突っ込んで」
「はぁ!?」
言葉を遮り発言したコルエに、運転手であるリュアンナは思わず声を上げた。
「何を言っているんですか!? このままだと魔動車が壊れるどころか、私達の命が危ないですよ!!」
頑丈な装甲が無傷に等しくとも、内部に伝わる振動や衝撃波に肉体が耐えられるか分からない。運転手として皆の安全を守りたいリュアンナは、先輩であるコルエに反論した。
「これはそんなに柔じゃないし、私達だってこの程度では死なないよ。それに」
「それに?」
「止める権利は私にしかないからね」
「えっ……??」
一瞬何を言っているのか分からなかったリュアンナだが、目の前にいる魔女はこの車を作った張本人である。妙な説得力に怯えながらも、リュアンナは制止をさせようと魔方陣のある文字に魔力を流す。
しかし、一向に反応せず、速度が落ちない。
「本気で、やるんですか?」
恐る恐る訊いてみると、コルエは大きく頷いた。
ただ真っ直ぐに突き進んできた魔動車は、このままでは城壁に激突する。門ではなく城壁を破壊して、拠点に侵入するのだ。
重罪である。反逆者と思われても仕方がない蛮行だ。
「もちろんだとも。相手は僕達の隊長と友人を誘拐しただけじゃない。犯罪に手を染めている。常識が通じる筈がないのだから、僕達も其れに倣っていかないと」
「やめてください」
「そもそもだよ? 僕達は上に指示を仰がずに、ネフィとアリュスくん救助の為に独断でここまで来てしまったんだ。事態が終息すれば、みんな仲良く罰を受ける。今更、清く正しくなんて言っていられないんだよ」
「うっ……それは、そうですけども……」
痛い所を突かれ、リュアンナの声が弱々しくなる。
第一部隊の隊員は、他から弾かれて行く当てを無くした魔法騎士が集まっている。
そんな暗い噂がある程に、我と癖の強い魔女達が集まっている。一番目の部隊とあって花形に見えるが、監視されている様なものだ。最初こそ嫌がる魔女もいるが、真摯に向き合ってくれるネフィリードに感化され、魔法騎士として成長する者も少なくはない。
心酔と行かずとも、上司として彼を信頼している魔女は多いのだ。
リュアンナも例外ではなく、学生時代の関係があって今がある。彼に恩を返したい、守られてきた分同じようにしたいという思いが、皆にもあるのだ。
ただ、その行動が余りにも奇抜なだけで。
「まぁ、安心したまえ。僕の特製の魔法を使えば、城壁の一つや二つあっと言う間に直るからさ」
「冗談なのか本気なのか分からない発言は、控えてください……」
相手がどんな目的でネフィリアードとアリュスを誘拐したのかは、彼女達は知らない。
けれど〈南防衛拠点が犯人によって占拠されている〉と言う確信がコルエにはあった。
魔道車で向かう道中、何度も南防衛拠点へと特殊な手紙鳥を飛ばしていたのだ。
猛吹雪の中でも飛べるように防御の魔法と、密かにコルエ特製の魔法が付与された手紙鳥は、合計14羽。特製の魔法とは、偵察もかねて手紙鳥の見る景色が、コルエ自身の視界に映るというものだ。
その鳥全てが、拠点に入ろうとした瞬間に燃やされた。
町を守るために発動している魔法の天幕は、あくまで吹雪や強風などの悪天候のためにある。渡り鳥の往来や魔女達が箒に乗って帰宅する事もあり、過剰な防御を行わない。
しかし、今回はどんな小さな侵入者すら拒んでいる。
何かあると考えない方が、おかしい位だ。
「さぁ、リュー。覚悟を決めようじゃないか」
残り500メートルの所まで来てしまった。
「この拠点は、犯人を捕らえるまで機能しない。僕達で何とかしないと」
リュアンナは大きなため息を吐き、そして真剣な表情へと切り替える。
後戻りできない以上、もはや吹っ切れるしかない。
「……やってやりますよ。やってやろうじゃないですか! こっちだって、伊達に雷雲の魔女って呼ばれてませんよ!!!」
魔動車の周りに、バチバチと電気が弾ける音が聞こえ始める。
「隊長を返していただきます!!!」
電光石火と見紛うばかりに魔動車は一気に加速し、城壁へと激突した。




