40話 赤く青い城の中
「教えてあげる! 極北大陸に住む原住種にして、獣人種で最も珍しい水色の毛を持った〈極氷の民〉! その数少ない生き残りが、帝王なのさ!!」
推定人口5万から、魔女達が観測した3000にまで減少した原住民。
大陸に点在していた村は消滅し、集落が洞窟や山脈に姿を隠し、決して表舞台に出ることが無くなった被害者達。
「きっかけは、先代の女王! あいつの頭がおかしくなって、彼らを殺し続けた!」
25年前から5年間続いた〈暗黒期〉
その最たる被害者は極氷の民であった。
お互いに適切な距離を保ち、争いごとを起こさないように勤め、大陸で静かに暮らしていた。だが、精神の壊れた先代の女王が、突如として彼らを捕まえる様に魔女達に命じた。
命令を下された者達は、驚き、戸惑いを見せた。
先代女王の目には映らない程の遠い距離に、彼らはいる筈だったからだ。
極氷の民の希少な毛皮。寒さに耐えうる特殊な肉体と血。強靭な牙や爪。先代女王は其れらを欲していると魔女達は思い込む事で自分を守り、命欲しさに彼らを生け捕りにする計画を立てた。
そして、男も、女も、子供も、老人も、赤子も関係なく、観測された居住地から彼らを捕縛し、全てを城に閉じ込められた。
弄ばれ、詰られ、侮辱され、拷問され、言葉には表せない所業が繰り広げられた。
毛皮は床と壁一面に貼られ、牙や爪は飾りとして吊り下げられた。
血と腐敗する死の匂いが城に充満していた。
「帝王は、そこで産まれたんだよね?」
ネフィリアードの両親もまた捕えられた。
明日は無く、希望もない。助けが来るはずのない環境だった。死を待つしかなかった。
それでも極氷の民の大人達は、未来ある子供や生まれてくる赤子の為に必死に抵抗を続けた。仲間の肉を喰らってでも、生きようとした。
そして身籠ったばかりの彼の母を皆が奥へ、死体の中へと隠し続けた。
先代女王が死んだ其の日。
残ったのは、推定4歳の子供1人だけだった。
「あいつらは自分達を守るために、帝王たちを売った。耳を塞ぎ、目を逸らし、口を閉ざして、言い訳を頭の中で繰り返したんだ。沢山の死体を海や川に捨てて、根本的な問題から逃げ回って、酷い奴らだ!」
ネフィリアードは答えない。
「ねぇ、帝王。両親や仲間と幸せに暮らす未来を奪われたんだよ? どうして魔女の味方をするの?」
答えない。
「きっと皆は魔女達を恨んだはずだよ」
「それは、君達の考えだ」
境遇は、近く遠い。当時の自分と比べれば生存する家族がいるフローラの方が、恵まれているとすら思える。
だが、羨む気持ちはない。
「私の命は肉親と同族達によって守られ、魔女達に育てられた。遺志を継いでくれた彼女達を恨むほど、私達は墜ちてはいない」
推定4歳。まだ感情や記憶能力が育ち始めたばかりだった。
恨み辛みを体に刻み、失われた者達を惜しむには、幼過ぎた。温かなモノが消えていく寂しさは覚えているが、鮮明に覚えている幼い頃の記憶はコルエとミランジュと共に花畑で遊んだ温かな日々ばかりだ。
「自分の存在について教えられても、何も思わなかったの?」
「悲しかったさ。けれど、同じ思いをして欲しいとは一度たりとも考えた事がない」
先代女王には既に罰が下され、相応の代価が支払われている。
「うーん! やっぱり無理かー! どうせ最初から決裂するって分かっていたから、ぜーんぜん悔しくないや!」
わざとらしい大きく息を吐き、肩を落としたフローラは、杖を回転させる。
くるりくるりと回される先端に赤い宝石が装着された地杖。
空気が変わり始め、ネフィリアードは気づいた。
魔方陣は地上にも地下にも無い。あの杖の中にもにも無い。
ネフィリアードの自宅前で出現した魔方陣は、視線を誘導し、思い込ませる為の偽装工作だ。
フローラの体内に、空間転移の魔方陣が刻まれている。
「だったら、帝王の死体をちょうだい!」
最初から、それが目的だ。
ネフィリアードがアリュスに手を伸ばそうとした瞬間、視界の全てが光に包まれた。




