39話 ホムンクルス
「人造兵器のわりに博学だね。その通り、アタシ達は人造人間。あちらではホムンクルスの名称がつけられているよ」
フラスコの中の小人。人間の精液をフラスコの中に入れ、40日間密閉し、腐敗させると透明な人の形をした物質を形成し始める。そして毎日血を与え、馬の胎内と同じ温度に保温し、40週間保存させると人間と変わりない存在が生まれる。生まれながらにしてあらゆる知識を身に着けているとされるが、その名の通りフラスコの中でしか生きられない人工生命体だ。
「へぇ……なるほどね」
何かに勘付いたアリュスだったが、フローラの隣に立つ少女を一瞬見た後、それ以上は言わなかった。
「先代の赤翼の騎士団長であるママが、帝国と手を組んでアタシ達を産み出したの。ママは、女王の支配から国を救いたかったんだって。女王が馬鹿やって、沢山の人が苦しんだんだから、当然だよ」
少女達は、先代騎士団長の私兵団であった。現在の騎士団長はそれに反対し、内戦となり、そして先代は敗退した。牢に閉じ込められた彼女は4年前に精神病を患い、やがて衰弱死した。
「信じられない? あいつらが隠していた記録にちゃーんと残っているよ」
「敗退した君達は、この拠点の労働力として酷使されていたのか」
「アタシ達にとってママが全てだったから。アタシは最後に製造されたから、お姉ちゃんたちに比べて期間は短いけれど酷かったよ」
食事に毒を混ぜられ苦しむ姿を娯楽として消費され、中にはろくに食事を貰えず、労働を強いられ壊れていった。
毒に苦しむ姉妹を運び続けていたから、担架の扱いになれていた。多感な年頃にメイドとして自我を出さずに従事できるのも、拠点の住民達が少女達を人間以下として扱われ、身に着けた処世術だからだ。
「お姉ちゃんの中には、帝国の男に売られた子もいたんだよ。そのお金であいつらは贅沢しちゃってさー! ママはいつもアタシ達を大切にしてくれて、愛してくれたのに、あいつらはいつも酷い事ばかりするんだ!」
フローラ側の味方が少女だけだった理由に、ネフィリアードは眉間にしわを寄せた。
この子は〈ママ〉を心から信頼しているが、彼女はロズマキナに反逆を企てていた。
暗黒期を耐えていた期間に反女王の思想となり、約21年間も暗躍をし続けていた。
帝国から本当にロズマキナを守っていたのか。
私兵として理想に至らなかったホムンクルス達は、その後どうなったのか。
少女達は何故子供のまま成長をしないのか。
彼女達はアリュスの様に人体実験を受けていないのか。
疑問は山のようにあるが、その答えは既に亡くなっている。
現在の赤翼の騎士団長が彼女を裏切り、その成果を私利私欲の為に使っていたのは事実だけが残っている。
「アタシはこっそりママの隠れ家に行って……そこで、この杖を見つけたの!」
何処からともなく、先代騎士団長の杖が現れ、フローラは其れを握ると天に掲げた。
「ママが力を貸してくれてる! これがあれば、この国を変えられるって確信した!」
残酷で、浅はかで、純粋で、常識的で、家族思いの優しい子供。
フローラは、歪に育てられた。祀り上げ、拠点の主とてしまったのが、ホムンクルスの少女達だ。
負の連鎖だ。暴走だ。救いがない。
このままでは彼女達は罪人となり、牢屋に閉じ込められてしまう。
「帝王! こんな酷い事をする人達の国はダメだって分かるでしょう? 一緒に変えよう? 私達が幸せになれる国を作ろうよ!」
ガタガタと機械が動く中で、フローラはくるりと翻りながらネフィリアードを誘う。
だが、同情は出来ても彼は一切応じない。
「アタシ達は知っているんだよ。帝王もアタシ達に近い境遇だって!」
良い返事が貰えず、フローラは強調するように言った。
「大殺戮」
フローラの言葉を聞き、アリュスは思わずネフィリアードを見上げた。
眉間にしわを寄せたまま彼は、フローラを睨む様なことはしていない。
淡々と、並べられる言葉に耳を傾けるのみだ。
彼女を強く咎める素振りを見せないのは、魔法騎士の隊長の立場だけではない。
「あれー? ペットくんは何も知らなかったのかな?」
その反応を面白く思ったのか、フローラは不敵な笑みを浮かべる。




