27話 女王からの返答
更に3日が過ぎる。
その間、ネフィリアードは念のために外回りをせず、事務と訓練を中心に仕事を進めた。事件は無く平和そのものであったが、嵐の前の静けさのようだった。
〈アリュスとの共同捜査および聖誕祭までの自由行動を許可する。軍服の着用はネフィリアードと同行時のみ許可をする〉
〈スケッチに描かれている少女に関して、その特徴を持つ娘は虹の薔薇から生まれていない。残り15名の少女達も同上である〉
端的に纏められた女王の返事の手紙を読んでいたネフィリアードは、その一文を目にすると眉間にしわを寄せた。
〈地杖に関して、先代の南の騎士団長が所持していた品に酷似している。スケッチ上ではあるが、部品を変更された形跡が見受けられない〉
25年から5年続いた暗黒期を乗り越え、帝国との戦争中に活躍し、南の守護者として名を馳せた魔女。終戦後に精神病を患い、日に日に窶れ、消えるように亡くなった。
葬式にネフィリアードも軍団の一員として参列しているので、亡くなっているは確かだ。
杖とは、大きく分けて二種類が存在する。ネフィリアードの使用する手に持てるほどに短い〈手杖〉と地面について用いる人の背丈ほどに長い〈地杖〉がある。幼い頃は市場で売られている基本的な能力値を持つ手杖を使用するが、年を経て自分に合った杖を作り始める。自身の魔力や得意とする魔法に相性の良い木材、宝石、金属と様々な素材を惜しみなく使い、生涯の相棒とも言える杖を完成させるのだ。
そのため魔女の杖は、親から子もしくは師匠から弟子へと継承されても、そのままの状態では使えない。性格、体質、そして魔力。たとえ血縁関係があり、得意とする魔法が同じであっても〈同一〉ではない。必ず何処かの部品が変更される。
レプリカである可能性が一番高い。だが、魔力の受け皿となり、大きな爆発の連発や閃光を発動させられる高い性能を持っている。目を惹く赤い宝石がガラス製だったとしても、総合的に装飾の量は多く、あれを子供の所持金で制作を依頼できるとは到底思えない。
「ねぇ、今日は君の家に泊まりたい」
アリュスは背もたれに身を預けながら言った。
「ここの居心地は悪くないけれど、日常に近い所で休みたい」
監視の為に元服屋を宛がわれたが、自我が芽生え安定するまで間、夜はネフィリアードの自宅で共に過ごしていた。無論、緊急事態に備えて許可はされている。ブティックが開店し、1人暮らしを始めてからは一度も無かった要望だ。
「いいとも。退勤後に、黒鏡を使って案内しよう」
現時点で箒や魔動車以外の移動法があるとすれば、ネフィリアードの造形魔法による〈黒鏡〉のみである。出口と入口2枚の黒い結晶の扉を造ることで、どんな距離があろうとも一瞬で移動できる。便利であるが、生成及び設置が可能なのは其の2枚だけであり、エメラルド等の使役する大型の造形魔法を発動していない時にのみ使える。
アリュスが裁縫道具や布を持っているのは、それのお陰だ。
「ネフィリアードの造形魔法って、万能そうだけど制約あるの?」
「制約というより、私に限度がある。発動中は魔力を供給し続けるから、大きい力を持った造形は最大で3体までしか制御できないんだ。それ以上を造り出すと、おかしな挙動や暴走をしかねない」
結晶の花は造形魔法を発動させて具現化のみ、炎や雷撃は威力や標的の調整は必要だが放てば終わりだ。対して、エメラルド達は具現化後も継続して、動き、時に増殖や拡張をする。結晶の小鳥達は、エメラルドに比べて役割が決まっているので、負担がそれ程大きくなかったからだ。
多すぎず、少なすぎず、一定の魔力を注ぎ続け、魔法が暴走しないように意識を裂きながら戦うのは至難の業だ。
「あっさり喋ってるけど、俺が誰かに情報漏らしたら大変だよ」
「エメラルド達以外にも手札を持っているから、大丈夫だ」
有名どころの宝石の名前は、ルビーやトパーズ等まだまだ豊富にある。3体の組み合わせ次第で戦略も変わる。大型は無理でも中型を創造する事も有り得る。
一瞬で発生した霧。広場を覆い尽くす程の茨。
魔術であっても、そう簡単に再現は出来ない。確かに〈大丈夫〉の一言で終わってしまう。
「資料室に行こうと思う。アリュスはどうする?」
「そこに俺が行くのは良くないから、事務室でおとなしくしてる」
「適度に休憩を取るんだぞ」
「うん。気を付ける」
ネフィリアードは椅子から立ち上がり、事務室から出て行った。
アリュスはその後姿を見送ると、刺繍を再開する。
その布は、春に向け花の刺繍があしらわれたカーディガンになる予定だ。ネフィリアード用に仕立てたい所だが、彼の場合は冬毛から夏毛に移行する期間に毛が付きやすい布地は適さない。
何が良いだろう、と考えながらアリュスは作業に没頭をする。




