23話 屯所へ戻り
「御二人ともご無事ですか!?」
アリュスが彼へ問いかける前に、先程の第3部隊の隊員が2人の元へと駆け寄る。
「お怪我が無いようで、なによりです。一体何があったのですか?」
「少女と交戦した。拘束しようと試みたが逃げられてしまった」
落ち着いたいつもの表情に戻ったネフィリアードは、杖を鞘に戻しながら端的に説明をする。
「闇の魔女ですか」
「まだ断定はできない。強力ではあったが彼女の使った魔法自体は、許可が下りれば習得できるものだ」
悪さをするのは闇の魔女。勘違いされやすいが、そうではない。四季であれ研究であれ、魔女の中には犯罪者がいる。さらに一線を越えた先、末路が闇の魔女と言えるだろう。
これまでに誘拐や窃盗、麻薬の製造と売買など、様々な魔女に逮捕状が出されてきた。
なので、少女の場合も闇の魔女とは限らない。
もう一度会って確かめる必要がある。しかし、安易に動けば今回の二の舞どころか、更なる被害を呼び寄せかねない。まずは、エメラルドを女王に届けるのが先決だとネフィリアードは判断する。
「鑑識班を呼びます。御二人もここで待っていていただけますか?」
「悪いが、周囲の安全のため、屯所に戻らせてもらう。彼女は私の元にわざわざ現れ、攻撃を仕掛けてきた。狙われていると考えられる」
黒翼の団を狙っているなら、第3部隊がいる時点で何らかの戦いが発生していたはずだ。だが、ネフィリアードが中央広場へ来てから、あの少女は登場し、ろくな会話も無く戦闘に移行した。
ネフィリアードの動向を探り、狙っている。その予想は的中したと言える。
けれど目的が全く分からない。
分かるのは、実力を推し測り、手の内を探ろうとした事だけだ。
少女は余力がある状態であり、仲間2人の所在は不明だ。次が無いとは言い切れず、下手に動き回って民間人に被害が出ては、元も子もない。
ネフィリアードは、自身の行動に制限を一時的に設けることを決めた。
「現場検証の際には、このアメジストを使ってくれ。戦闘中の光景を映し撮ってある」
ネフィリアードはアメジストを第3部隊の隊員へと渡した。
「わかりました。何か分かり次第、連絡をさせていただきます。御二人とも、お気を付けて」
少女の魔法による攻撃はネフィリアードに集中しており、第3部隊の隊員達は完全に無視されていた。犯人の目的に気付いていた彼女は、エメラルドをしっかりと握りしめると敬礼をする。
「君達も、気を付けるんだぞ」
二人は敬礼し、その場を後にする。
広場の北出入り口まで行くとネフィリアードは足を止め、空を見上げる。
「ブラックダイヤモンド」
呼びかけると、3階建ての建物の屋上からブラックダイヤモンドが飛んできた。
「空にもいたんだ」
「君が着替えている最中に呼び寄せ、上空を監視してもらっていたんだ」
大きな翼で舞い上げられた風に、黒髪がなびく。
地面へと降り立ったブラックダイヤモンドに対して、アリュスは怖がる素振りを一切見せず、興味深そうに近付いた。
帽子に飾られている花々や先程の戦闘を含め、フィリアードの造形魔法を実際に見るのは今日が初めてだったのだ。彼から話には聞いていたアリュスだが、宝石などの硬い結晶が変幻自在に形を変え、生き物の様に動くなんて想像が出来なかった。
花とはまた違う、動く結晶の存在にアリュスは好奇心が駆られた。
「あの女の子、人ごみに紛れたのかな」
そう言いながら、アリュスはブラックダイヤモンドに触れる。
名前通りの結晶体は、血が通っていないが為に冷たい。しかし精密に再現されているので、一本一本の羽の手触りは本物に近い。
「可能性は高いな。強力な光は、目暗ましの役割を兼ねていたのだろう」
ブラックダイヤモンドを撫で回すアリュスを微笑ましく思いながら、ネフィリアードは答える。
少女は魔女の帽子を被ってはいなかった。逃げる際に其れを被るだけでも、上空からでは僅かに判断が遅れる。その隙をついて路地裏や地下水路に逃げられた、と現状は判断するしかない。
「来て早々に屯所へ戻ることになって、すまないな」
ネフィリアードがアリュスへと手を差し出すと、ブラックダイヤモンドが身体を屈める。
「あの爆発を地下水路でやられたら厄介だから、ネフィリアードの判断は正しいよ」
彼の手を取り、エスコートしてもらいながらアリュスはブラックダイヤモンドへと乗った。撫でてみれば石質の無機質で滑らかな手触りの中に、生き物らしい柔らかで柔軟性のある質感が手に残る。
これは、本当に宝石なのだろうか。
「行くぞ。帽子を落とさないように、しっかり押さえていてくれ」
ネフィリアードが彼の後ろに乗ると、ブラックダイヤモンドが翼を広げ、大きく羽ばたいた。一気に飛び上がり、あっという間に建物を超え、魔女達が蟻のように小さくなる。
「よく平気だね」
帽子を必死に押さえていたアリュスは、何食わぬ顔をしているネフィリアードを見上げる。
「早く移動する時は、毎回こうだからな。慣れだ」
彼は上空からの攻撃に備えて、更に結晶で造られた小鳥達を魔法で生み出し、周囲に散開させる。その中には、少女の魔力を感知できる小鳥も含まれ、南方向へと飛んで行った。
「箒とどっちが良い?」
「こっちだな。彼女達と違って、私には箒に対する適正が無い。優しい箒なら乗せてくれるが、基本は頼まないと乗れないんだ」
「掃除の箒とは全く別物なんだね」
談笑をしつつ、2人は屯所へと戻った。




