21話 ツリーの根元
普段の中央広場は憩いの場として、多くの魔女達が利用している。周囲には飲み物や軽食を売るワゴンが幾つか停車し、談笑する魔女や遊び回る子供達をよく目にしていた。
しかし事件後は、通行人がちらほら通り過ぎる程度で閑散としている。
中央広場の中心に聳え立つツリーの周りには柵が設置され、黒翼の団第3部隊が周囲の警備に当たっていた。
「お勤めご苦労様です!」
広場に到着したネフィリアードの存在に気付くと、第3部隊の緑髪の隊員が敬礼する。
背筋を伸ばし両足を揃え、右手を胸に当てる。これが魔女達の敬礼だ。帝国等が使う眉又はこめかみ近くまで手を上げる〈挙手の敬礼〉から、つばの広い帽子を被る彼女達によって徐々に変更されたと伝えられている。
「警備中にすまない。捜査の為に、柵の中に入らせてもらっても良いか?」
「ネフィリアードさんであれば、もちろんです! そちらの方は、第一部隊の魔女ですか?」
隊員は、ネフィリアードの背に隠れていたアリュスへと目線を向ける。
「そうだ。魔力の判別や術式の知識に長けているので、一緒に来てもらったんだ」
中央の屯所に、黒翼の団は第1から第5までの隊が常駐している。その中でも第一部隊は〈曲者の巣窟〉であり、34名の内半数近くが表に顔を出すのを嫌っている。彼女達の手綱を握るネフィリアードと上層部は無論把握しているが、他の隊は第1の隊員達の全貌を知らない者が大多数だ。そのせいか〈秘密の35人目の隊員〉等のおかしな噂まで立ってしまっている。
彼はその穴を突いて、アリュスを第3部隊の隊員に紹介した。
「お勤めご苦労様です」
先程の敬礼をアリュスも真似てみる。
日頃から訓練を積んでいる彼女とは違い、彼の動きは少し拙く、たどたどしさが垣間見える。
「ご苦労様です!」
第1の中でも裏方周りだと判断したのか、第3の隊員は笑顔を浮かべると敬礼をする。
そして許可を得た2人は、柵を超えて、ツリーの根元に到着した。
今は飾りが全て取り外され、数百年の歴史を持つ針葉樹のように見える。アリュスはツリーに近付くと、まずは根元へ、次に太い幹へと触れた。
「どうだ?」
一歩引いてその様子を見守っていたネフィリアードは、アリュスへ問いかける。
「感じた覚えがある。あの3人のうちの1人だ」
その回答に対してネフィリアードの中に驚きはなく、何故か〈やっぱり〉と安心にも似た妙な感覚が広がった。
「花を枯らした少女か?」
「手袋を買った子」
ここまでの道中で、服屋での状況をネフィリアードは改めて聞いていた。
手袋を買ったのはワインレッド色の髪の少女だ。服を乱暴に扱いそうになった2人を軽く叱っていたので、リーダー格と思われる。
その彼女が、地下水路にあると想定される魔方陣を発動させた。背後に大人がいるとしても、魔力量と魔法の操作能力は驚異的だ。このまま成長すれば、国にとって脅威になりかねない。速やかに保護をしなくてはならない。
「肝心の術式は、やっぱり地下。ここからだと、幾つかが在る事くらいしか分からない」
地上からでは判別できないように、妨害工作がされている。知識がある者なら、発動後時間経過で消滅する仕組みを組み込んでいそうだ。
「ツリーは自分達の存在を知らしめる為かな。これから、もっと凄い事やるぞって」
「そうだろうな。第一部隊隊長の周囲を突いて、揺さぶりをかけているようだ」
ミランジュに合流するか、と言おうとした時、ネフィリアードは視線を感じた。
見られることには慣れている。だが、その視線はいつも感じるものとは違った。
絡みつく様で、今にも喉を引き裂こうとする殺気。
南方向より、発せられている。
ネフィリアードは、ペリースローブで隠れている鞘に収まる杖に手を掛けながら、振り向いた。
立っていたのは、ワインレッドの髪の少女だ。




