19話 街を歩く
「広場に急ぐ? それとも、見回りしながら行く?」
「アリュスはどうしたい?」
「俺は……街を見てみたい、かな」
ここまでの移動を思い返しながらアリュスは答える。
第二部隊に保護をしてもらった際には、箒に乗せてもらい、移動をした。
あっという間に屯所に到着し、それはそれで新鮮な体験であったが、街の様子を眼下に見るだけで聖誕祭の雰囲気を掴めなかった。
なので、アリュスは彼から話に聞いている光景を自分の目で見たいと思った。
「君の希望に沿おう。ただ、ロズベルではなくリリレースを通ろう」
間もなく、街の多くの店が開店する時刻だ。異変が無いか見るには丁度良いと、ネフィリアードは了承をする。
大通りの1つである〈リリレース通り〉から、中央広場へと2人は向かう。
焙煎されたコーヒーと焼き立てのパンの香りが漂ってくる。
リリレース通りは、カフェやレストランなどの飲食店が多く建ち並んでいる。季節や行事に応じた限定メニューを出す店が多く、外観にも気合いが入っている。飾り付けがされた170㎝ほどのツリーを店先に設置する店や、ショウウィンドウ越しに大きなケーキやプレゼントの模型を飾る店など、聖誕祭と言うテーマが共通しながらも個性が豊かだ。
アリュスは興味深そうに周囲を見渡しながらも、ネフィリアードから離れないように心掛けた。
「どうだ?」
「んー……良いと思う」
言葉に迷うアリュスはどことなく楽しそうであり、好感を持てたようだ。
意思を持ち始めて以降の彼は日に日に心が動くようになってきたが、表情を動かすのはまだ乏しい。少しでも黙ってしまえば人形の様だ。
「あっ、そうだ。少し前に買って貰った冬服の着心地はどう? きつくない?」
テラス席を設置する魔女のロングコートを見て、アリュスは思い出したように言った。
先日着ていた灰色のコートは、アリュスの店で仕立てて貰った品なのだ。
「むしろ良い。動きやすくて、快適だ」
ネフィリアードの〈冬服〉は、魔女達の〈冬服〉とは少々意味合いが異なる。
彼は、ダブルコートと呼ばれる二層構造の被毛を持つ獣人なのだ。
〈ダブルコート〉とは、保温力が高く防水性に優れた柔らかい毛質のアンダーコートの下毛、オーバーコートは外見に見て取れる氷河の青色と烏の濡れ羽色の上毛で構成されている。そのおかげでシャツ1枚でも平気で過ごせるほどの寒さ耐性を持つネフィリアードだが、魔女達と暮らす中では季節に応じた服装を着なくてはならない。それを彼は窮屈に想ってはいないが、苦労しているのは確かだ。
ネフィリアードの冬毛の生え方は、顔の周りは差ほど変わらないが、首から太ももに掛けて毛の量が増える。けれど、春夏秋の服に比べて単にサイズを大きくするだけではいけない。ネフィリアードの人種は極北の大陸で生きる上で寒さに強い代わりに暑さに弱く、体温の調節機能を正常に保つためにも、魔女達の着る厚手の服は不向きなのだ。
毛の量によって変わってしまった体のラインを綺麗に見せ、見た目は温かそうだが通気性と放熱性に優れた布地で作られた服。それがネフィリアードの冬服だ。
これまでは女王の紹介してくれた服屋で仕立てて貰っていたネフィリアードだが、今年からアリュスに依頼をするようになった。
「それなら良かった。クリーニングも請け負うから、言って」
「いや……大変だから、業者に頼む」
ネフィリアードは、眉を顰め難しそうに視線を落とす。
「なんで?」
「今は良いが、換毛期が凄いんだ……」
間を置いて絞り出された声に、アリュスは小さく首を傾げた。




