18話 着替えて着替えて
「おまたせ!」
容姿を変えようかとアリュスが首飾りを握ろうとした時、2人が戻って来た。
山の様に軍服などを抱えたミランジュの周囲には、ブーツや靴が宙を浮いている。コルエはキャスター付きのパーティションを持って登場した。
「折角だから、可愛くしましょう!」
獲物を目の前にした肉食獣に似たミランジュの眼光に気圧され、アリュスはネフィリアードの後ろに隠れようとした。
「ほらほら逃げないの!」
妙に興奮するミランジュの言葉と同時に、アリュスの体が宙に浮いた。
隊の中でも高い能力を持つミランジュは、簡単な魔法であれば杖を介さなくても無詠唱で発動する事が出来る。
「ネ、ネフィリアード……」
「可愛い子を着飾らせるとなると、いつもこうなんだ。抵抗すると、もっと厄介な事になる。諦めてくれ」
ネフィリードに助けを求めたが、彼の遠くを見るような声音に、何度も被害に遭ったのだとアリュスは察する。
彼がシンプルな服装を好む理由が分かった気がした。
「軍服と単に言っても、色々あるのよ。まずは……これね!」
ワインレッドよりも更に赤みの暗いバーガンディー色のフリルがあしらわれた黒のミニスカート。白のシャツに大きめの黒い蝶ネクタイ。黒タイツに黒のローファー。
コーディネートは無難で可愛いが、軍服の上着さえ着れば何でも良いのか???
軍服ってこんなに自由なのか???
言いたい事は山のようにあったアリュスだが、今にも身包みを剝がされかねない状況に、了承するしかなかった。
そして、パーティションの裏で渋々着替えたアリュスを見て、ミランジュは目を輝かせる。
「可愛い! よく似合っているわ!」
男性も女性も関係ないしに、彼女の〈可愛い〉の基準に達したものは全て賛美される。
「ネフィちゃんにも見てもらいましょう!」
「い、いや、待って。彼には最終判断して欲しい。今の俺は、体形が出ていて問題だからさ」
彼ならなんでも〈似合っている〉と言ってくれる。それが分かり切っているアリュスは、ミランジュを慌てて止めた。
痩せ型なので女物でもすんなり着られたが、肩やくびれ、腰回りは男性であるのを隠せていない。また、小さい喉仏がある細い首、綺麗で細いが少し角張った手の様に細部も気に掛ける必要がある。
身内の褒め合いで決めるのではなく、第三者の目線に立った変装をするべきだ。
「そうね。だったら、次はこっちよ!」
「えぇ……」
黒のワンピースを出され、アリュスは顔をひきつらせた。
40分ほど続き、最後には痺れを切らしたアリュスの強い主張によって、着替えは終わった。
左目には眼帯。青いリボンが結ばれた魔女の帽子。軍服の上から体型と首元を隠すための大きなリボンのついた黒いケープコートは、太ももに達するまで長い物を選んだ。黒の手袋をはめ、黒のタイトパンツとロングブーツを履いている。
ワイドやガーゴタイプのパンツが良かったアリュスだが、身体を隠し過ぎて不格好になりかねないと考えた結果、この服装に落ち着いた。
「いいじゃないか。似合っている」
僅かに目を見開き、細めるネフィリアードの仕草を見て、お披露目をしたアリュスは満足をする。
「髪は結ばなくて良かったのかい?」
「時間がかかるから、やらない。それより、この魔法って時間制限はあるの?」
「発動から約半日は持つようにしてあるが、時間の延長と魔法の安定のために、もう少し魔力を入れておこう」
首から下げ、ケープコートに隠れていた変装の魔法の首飾りを手にしたコルエは、自身の魔力を込める。まだ時刻は午前中。捜査が難航した場合に備えたのだ。
それが完了すると、アリュスは彼女に軽く感謝を述べ、ネフィリアードの元まで歩み寄る。
「捜査に行こう」
「あぁ、そうだな。2人とも、ご苦労様」
2人に労いの言葉を掛けながら立ち上がったネフィリアードは、行動を開始する。
まずは、鑑識班に枯れた花が入った紙袋を渡し、事情を説明すると共に先程の土をもう一度見せて欲しいと頼んだ。しかし、別室にて鑑識の作業が開始されていたので、2人は仕方なく屯所から外へと出た。




