16話 綺麗に隠す
そうして二回目の魔法だが、今度はコルエの色になってしまった。
「もう一回」
次はミランジュ。
「もう一回」
さらに次はリュアンナ。そして、
「不良品??」
最後には、黒髪に水色の瞳になってしまった。
特に気にしていないネフィリアードとは対照的に、アリュスはコルエを睨んだ。
「それは無い。僕のお手製だからね。不良品はあり得ない」
「なにその自信?」
「僕だからね」
質問しても全ての回答が〈僕だから〉になるのが目に見えたので、アリュスは早々に諦めた。
「……もうこれで良いや」
「変装用の着替えを用意しないといけないわ!」
「1人では大変だろうから、僕も行くよ」
ため息をつくアリュスとは対照的に、張り切るミランジュはコルエと共に一旦退出をする。
花が舞いそうな程に楽しそうなその後姿は、小さな弟の世話を焼く2人の姉の様だ。
「同行するなら軍服かぁ……俺が着ても大丈夫?」
「君の緊急連絡先を使用に関する報告書に、その旨を書こう。私と同行時のみと限定すれば、問題ないだろう」
「問題あったら?」
「私が全ての責任を負う」
あまりにあっさりとした言い方で、ネフィリアードは答えた。
楽観視しているのではない。その覚悟が彼にとって当たり前だからこそ、平然と口に出せるのだ。
「その純粋さは身を滅ぼすよ」
「最初から分かっているさ」
お互いに達観した言い回しを時折するが、底知れない中にも相手への思いやりが垣間見える。
「この人は……」
呆れたアリュスは、誰にも聞こえない位小さな声で呟いた。
ネフィリアード。魔女の国で唯一の獣人であり男性。
帝国など他の大陸の国家では、様々な審査や試験を通過し、帰化や永住権を獲得する事で其の地に暮らしていける。しかし、魔女の国は其れが出来ない。所謂〈外来種〉を入れない為だ。あまりに保守的であるが、女性だけが静かに暮らしていた国が別大陸からの侵略者である帝国と7年前に戦っていたのだ。復興と自国民を守る方向へ舵を切るのは仕方のない事だ。貿易が細々と行われているだけ、まだ〈マシ〉なくらいだ。
そんな国で暮らすネフィリアードの人種は、〈在来種〉の枠組みに入る。
だが、アリュスが保護されるにあたって、魔女の国ロズマキナの歴史や文化について教えてもらった中に獣人は登場しない。けれど彼の体毛の厚さは、この大陸に適応している証拠だ。
さらに謎を増やすのが、ネフィリアードは〈魔女の国産まれ〉と言った事だ。
虹の薔薇から産まれるのは女性のみ。昔は男性も産まれた説があるらしいが、獣人はいない。
明らかに何かを隠している。
知りたい。裏を掻きたいのではない。ただ純粋にアリュスはそう思う。
けれど彼は命の恩人だ。誠実で、優しい心の持ち主だ。信頼をしているし、今後も良い関係でいたい。きっと人には言えない過去を抱えている。だから、下手に足を踏み入れて、尊厳を踏み躙る様な真似はしてはいけない。
「ちゃんと守ってね」
アリュスは巡る思考を停止させ、ネフィリアードに念を押す様に言った。
「あぁ、もちろんだ。何があっても君を守る」
にこやかに言う姿が、眩しく感じる。目を逸らすようにアリュスはもう一度、今の自分の姿を鏡越しに見る。
痩せてはいるが健康の範囲内の体と顔。顔立ちは魔女の容姿の傾向が反映されてか中性的であり、艶やかな黒髪がさらに性別の概念を迷わせる。
本来の容姿とは全くの別物だろう。けれど魔導兵器ではなく、人の時代があったのだと思い起こされる。
「今の俺って綺麗?」
「? 君はいつも綺麗だ」
本気で言っている。本当に、この人は。
アリュスはネフィリアードを軽く睨みつけるが、彼は不思議そうにするだけで効果はいまひとつだ。




